後輩な彼女の悩みはわからない

 結局、マルにDEAから連絡できないまま翌日の土曜日を迎えてしまった。

 俺は悩んでいる時に決断できない人間なのだろう。

 だが、それもまた平凡な人間はみんなそうなのだと思う。

 決断できる人間と言うのは、行動力に優れた非凡な人間である。

 などと言い訳をしておく。

 一体誰に言い訳をしているのかわからないけどな。

 

「俺とステラはマルについて詳しくないんだが……」


 三人でガストに集まり、いつものように注文してから俺は話を始めた。


「最初の日に部活で見たマルは何も問題がないように見えた」

「そうですね」


 勝手にステラもまとめたが、ステラも俺の意見に賛成する。


「あの後何かあったのか?」


 ルナにまずそれを確認しておく。

 と言っても念のためだ。

 何かがあったのならルナはとっくに話していると思う。


「ううん、何もなかったと思うよ」


 やはり、部活で何か問題が起きたと言うわけではないようである。


「マルは急に来なくなった。何故来なくなったのかわからない。これでいいんだな?」

「うん」


 ルナは頷く。


「じゃあ次に、マルは三日目から来なくなったんだが、その日ルナは陸上部に行ったのか?」

「行ったよ。最初はマルちゃんの為に行かないと思ったから」


 これでまた一つ可能性がつぶれた。


「つまり、マルはルナがいないから部活を休んでいるわけではないんだな」

「いる日しか来る気がなかったてこと?」

「その可能性もあると思っただけだ」


 何故かマルはルナを妄信しているからな。


「絶対に理由があるはずなんだ。マルが部活に来なくなったことに何か理由が」


 それを探し出して、解決しなければマルはずっとこのままである。

 俺は真剣な顔で考え込む。

 DEAの相談は終わってはいるのかもしれない。

 しかし、このまま終わることは出来ないのだ。

 マルの為に、ルナの為に、自分の為にも終わりたくなかった。

 こんな中途半端で後味の悪い終わりはごめんだ。


「何か……些細な事でもいい。マルに変わったところはなかったのか?」

「そう言われても……」


 なんでもいいのだ。何か解決の糸口になることさえ見つかれば。


「嫌いな先輩がいるとか?」

「いないよ。みんないい人だし、仲いいんだから」

「思ったより部活がきつかったとか?」

「うーん、むしろ終わった後も元気だったような……」


 俺は当てずっぽうで適当に言うが、まるで当たりは出ない。


「怪我……」


 俺が困って黙り込んでいると、ステラが口を開いた。


「怪我してるってことはないですか?」


 それはないだろう。

 最初から何か体に問題があるならDEAに相談自体しないだろうし、部活中に怪我をしたのなら話さない理由がない。


「あ……」


 しかし、何故かルナは何かに気が付いたような表情をしたのだ。

 

「何かあるのか?」

「そういえば……マルちゃんフォーム変だったかも……」


 え?本当に怪我か?

 それだと話に矛盾が出てくる気がするのだが。


「それに、少し足遅くなってたんだよね」


 重要な事じゃないか。

 

「なんで言わなかったんだ?」

「受験勉強でなまっただけかなって」

「う……」


 それはそうである。

 1年も部活してなければ、なまりもするし、フォームも崩れるかもしれない。

 あまりにも普通の事である。


「怪我っぽい動きじゃなかったか?」


 それでも唯一の手掛かりであるため、話を聞いてみる。


「うーん……怪我をかばっているというよりは……」


 ルナは考え込み、


「流してるような感じだったかな?」


 そう言ったのだ。


「流してるって……手を抜いてるって事か?」

「うーん、少しだけ……そんな感じだったかも」


 それは変な事ではない。

 元々辞める気なら、やる気がないのは普通のことだ。


「気のせいかもしれないよ。本当になまってただけかも」


 ルナは否定するが、それはきっとマルがそんな事をするタイプではないと庇っているのだ。

 俺もほんの少しだけどマルと話して、彼女がどんな人間かわかった気がしているのだ。

 だからこそ気になる事があった。

 なので俺は一つの質問をした。


「最初からか?」

「うん」


 つまり、あの時も手を抜いて走っていたのだ。

 だから俺は言ったのだ。

 

「わかったかもしれない」

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