平凡な俺はぼんやりとしている

 ルナから話を聞いてから俺はずっと考えていた。

 下校中も、家に帰ってからも、夕飯を食べ始めてからも。

 それは当然マルの事ではあるのだが、DEAの事でもあった。


「なあにソル。私の料理が不味いとでも言いたいの?」


 俺が眉間に皺を寄せていると、母さんがそんな事を言ってくる。


「あ、いや……そんなことはない。美味いよ」


 俺はアピールするようにご飯を食べ始めた。

 母さんは雑な人間だが、料理もまた雑な味付けである。

 美味しい時もあれば……微妙な時もある。しかし、わざわざそれを指摘したことは一度もない。俺の為に作ってくれているのだから。

 ちなみに今日の夕飯は微妙だった。


「ソルも子供じゃないんだから、色々悩むこともあるだろう」


 父さんは普通の人間だ。平凡な俺が言うのもなんだが、とても普通の人だ。

 強いて言うなら温厚だと思う。


「へぇー、このぼんやりした子が悩むことねぇ」


 ぼんやりしてて悪かったな。

 しかし俺にだって悩むことはある。

 今は、マルにDEAから連絡を送るかを迷っているのだ。


「ごちそうさま」


 俺はさっさと夕飯を食べ終えると、食器を洗って自分の部屋へと戻った。

 そしてスマホを見る。

 DEAには相変わらず連絡は来ている。

 ビーナスさんからの連絡もたくさん来ているが、無視して俺は画面を見ながら悩んだ。

 DEAからの連絡なら、俺達では聞きだせない事も聞きだせるかもしれない。

 しかし送るとしたら、「部活動に行っていないと聞きました。何かありましたか?」とかになるだろう。

 不自然だと思うし、今まで俺はDEAからこんなに過干渉をしたことはないのだ。

 それに送っても、ルナと同じように、「テスト前なので勉強しているだけです」と返事が返ってくるかもしれない。それでは何の意味のなく、ただ警戒心を与えてしまうだけだろう。

 しかし何もしないよりはマシかもしれないし、何か思いも寄らない情報が得られるかもしれない。

 とても、とても悩むのだ。


「ん?」


 その時、ルナから連絡が来る。

 内容は予想通りのものだ。「マルちゃん、今日も来なかったよ」というメッセージである。

 やはり間違いない。

 マルはこのまま部活を辞める気なのだろう。


「どうすっかな……」


 俺はベッドへと寝ころんだ。

 食べてから寝ころぶのは良くないと言うが、今はそんなことはどうだっていい。

 それくらい悩んでいた。

 スマホが鳴って、ルナからのメッセージが届く。

 内容は、「明日集まろう」だった。

 やはりそれは悩ましい内容なのだ。

 DEAからマルに連絡して得た情報を明日持っていくか、それとも明日情報を得てから、その情報を使ってマルに連絡するか。

 とても悩むのである。

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