平凡な俺は視線を逸らさない

 一抹の不安を抱えたまま月曜日を迎えた。

 まだマルから陸上部へ入部届が出されたと言う話は聞いていないが、昨日の今日である。

 早ければ今日の放課後にもマルは陸上部に行くと思う。

 そんな事を考えながら学校を過ごす。

 上の空だったせいか、昼飯を食べるのが遅れてアクルとビッチ先輩のイチャイチャを見せつけられたり、ビーナスさんの罠にかかりそうになってしまった。

 だがチャイムが鳴り、なんとか放課後までたどり着いたのだ。

 待ちに待った放課後である。


 俺は帰り支度をすると、アクルと共に下駄箱へと向かった。

 そしていつものようにアクルはビッチ先輩に攫われ、俺は一人取り残されたのだが、俺はそこで待ったのだ。

 

「おーい、ソル君!」

「こんにちは」


 そして待ち人が来たる。


「おう」


 ルナとステラである。


「ソル君、ちょっとちょっと」


 会うなり、ルナが俺に対して手招きをしてくる。

 なんだ?

 俺は近づくと、ルナは俺の肩に手を置いて、下に力を入れた。

 しゃがめって事か?


「デアには返事来た?」


 俺がしゃがむと、ルナが俺の耳元に口を寄せて、小声で聞いてきた。


「あ、ああ、解決しましたって、き、来てたぞ」


 ここでは話しづらい内容だが、もっとやりようがあるだろ。


「ソル君、顔が赤いですよ」


 ステラに指摘される。

 仕方ないだろ。


「それじゃあ行って来るね」


 待ってはいたのだが、さっさとルナは行ってしまう。

 陸上部の部室へと向かったのだ。

 

「ああ、上で見てるよ」


 うちの校庭は学校の下にある。校庭には降りる。上から見下ろす形の校庭だ。

 

「俺らも行くか」

「はい」


 その上の所へと、俺とステラは二人で向かったのだ。

 下駄箱を出て、後ろへと歩くとすぐに校庭だ。

 フェンス越しに校庭を見下ろす。

 まだ人はあまりいないが、待っていれば運動部の奴等が校庭へと出てくるだろう。

 

「今日は大雨の予報だったんですけど、晴れて良かったですね」

「え?そうなのか?」


 俺とステラは雑談をしながら、ルナ達が出てくるのを待つ。

 

「雨降ったら大変でしたね」

「折り畳みがあるからな」


 家も近いしな。

 

「出て来たぞ」


 そうこうしているうちに、ルナが部室の方から校庭へと降りてくる。

 

「マルちゃんもいますね」


 そう、そこにはマルの姿もあったのだ。

 つまりマルは陸上部へと入部したことになるのだと思う。

 ルナがこちらへと笑顔で手を振って来る。

 俺とステラも小さく手を振って返した。

 マルもこちらを見たが、すぐにルナの方へ向き合った。。遠くて表情はわからないが、きっと嫌そうな顔をしているのだろう。

 そのまま、俺達の見ている先で部活動が始まる。


「大丈夫そうですね」

「そうだな」


 少し様子を見ていたのだが、マルは上手くやっているようで、ルナだけでなく他の部員とも何の問題もなく仲良くしているようだった。

 そして、ルナとマルは二人で走り出す。

 俺はそれを見て、二人とも走り辛そうなのに大丈夫なものだな、なんて考えていた。だが視線は逸らさなかった。

 

「さて、じゃあ帰るか」


 しばらく経ってから、俺はステラへと言う。

 これ以上俺達がいても仕方がないし、俺がいつまでも陸上部の練習を見ていたら、あることないこと言われそうである。いや、あることしかないか?違うんだ。二人が走っているのを真剣に見ているのに他意はないんだ。


「そうですね」


 俺のそんな考えをステラは気付いていないようで同意する。


「とりあえず、依頼はこれで解決ってことだ」


 彼女から見ればDEAに解決してもらったとは思えないだろう。

 だが別にいいのだ。

 俺は褒められたくてやっているわけではないのだから。

 ただ、誰もが生まれながらにして善なる心を持っているだけで、俺はそれに従っているだけなのだ。

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