平凡な俺は根暗そうである

「久しぶりー、元気してた?」


 ルナが立ち上がって馬越さんの手を取る。

 馬越さんはされるがままに手を取られるが、どこか困っているような表情だった。

 

「ええ、まあ……」


 そして態度もどこか煮え切らない感じである。


「なんで上水流さんがいるのですか?」


 ルナに手を取って振られながら、馬越さんは聞いてきた。

 当然の疑問である。俺達からすればステラはDEAの仲間なので仲間外れに出来ないが、馬越さんからすれば完全に部外者だろう。


「悪い。俺達は席を外すよ」


 俺は立ち上がる。

 二人でないと話しづらい事も多いだろう。

 ルナの奥に座っていたステラも、頑張って体を横にズラしていっている。

 その動きは、「うんしょうんしょ」という言葉が聞こえてくるようだ。


「えー、二人ともいてよ。いいよね?マルちゃん」


 ルナが馬越さんへと同意を求めた。

 頼むから空気を読んで欲しい。


「まあ……構いませんよ」


 しかし、何故だか馬越さんは了解したのだ。

 あれ?空気読めてないのは俺の方だった?


「じゃあ、ステラちゃんがこっちね」

「は、はいっ!」


 ステラが俺が座ってた席の奥へと押し込められる。

 先程と同じように、「うんしょうんしょ」と体を奥へと動かしていく。


「それで、ソル君がここね」


 俺がステラの隣、つまり元通りの場所へと押し込められる。

 なんだ、ステラの隣に座るのは初めてだな。

 女の子ってなんでいい匂いがするんだろうな。


「私がここね」


 そして、ルナが俺の隣へと座って来た。

 ちょっと待て。

 おかしい。いや、おかし……くはない。

 馬越さんと話し合うのに隣に座るのはおかしいだろう。

 普通は対面に座って話し合う。なので、ルナがこちら側に座るのはおかしくはない。

 とはいえ、狭い席にルナと俺とステラが座るのはおかしいだろう。

 そして俺が真ん中なのもおかしいのだ。

 なんというか、必然的にルナにもステラにも密着してしまう。

 やはり、ここは俺とステラは席を外した方がいいと思う。

 しかし、今更そんな事は言えないだろう。

 馬越さんも対面に座り、話す態勢を作ってしまったのだから。


「マルちゃん、ソル君の事いじめたんだって?駄目だよ、そんなことしたら」


 え?俺、下級生にいじめられてたの?

 馬越さんが俺の事を恨めしそうに見る。

 待って欲しい。俺のせいではない。


「その人は……ルナ先輩の彼氏ですか?」


 急に馬越さんが突拍子もない事を言う。


「えー、違うよ。ソル君はただのお友達だよ?」


 ルナは即答した。

 いや、悲しくはない。ただの友達だ。DEAで繋がってるから自分だけ特別だなんて思うことはない。そもそも話したのだって1か月くらい前が初めてだし。


「ルナは誰とでも仲良くするだろ?」


 果たして口を挟んでいい物かとも思ったが、口を挟んでしまった。

 ルナは男でも仲良くして奴はたくさんいるだろう。それで勘違いする奴もたくさんいそうだが。


「そうですけど……」


 彼女は何か言いたげに俺の方を見る。


「こんな根暗そうな人と楽しく話しているルナ先輩は初めて見たので……」


 根暗そうで悪かったな。平凡だと思うぞ。

 平凡な男は根暗そうなんだよ。


「ねえ、マルちゃん。さっきからソル君に酷いよ!なんでソル君の事いじめるのさ!」


 ルナが珍しく声を荒げた。

 凄く怒っているわけではないが、間違いなく怒っているのだ。こんなルナは初めて見た。

 

「す、すいません……」


 怒るルナに、馬越さんは酷く動揺したようだ。

 やはり滅多にない事なのだろう。


「謝るんなら私じゃなくてソル君に謝って」


 ルナは落ち着いた声で言った。

 凄く怒っているようではないようである。


「すみません……」


 馬越さんは俺の方を見て謝った。


「名前も呼んで」


 しかし、ルナは納得していないようである。


「すみません、烏野先輩」

「ソル君ね」


 いや、そこまではいいだろ。

 ほら、馬越さんも困ってるぞ。


「すみません、ソル先輩」


 かなり時間をかけて、馬越さんは言った。

 

「いや、いいんだ。気にしてない」


 俺が許して終わりであろう。


「ソル君~?」


 そのはずが、ルナが俺の事をジト目で見てくる。

 え?何かおかしかったか?


「な、ま、え」


 そしてそう言われる。

 ええ?俺も言えってことか?


「いや、いいんだ。馬越さん」

「ちょっとソル君~?」


 やはり駄目だった。

 そんな気はしてたのだ。でも言いづらいだろ。

 ほら見てみろ。馬越さんが俺の事を凄い目で睨んでるぞ。


「いや、いいんだ。マル」


 マルちゃんは気持ち悪いと思ったのでやめた。

 マルは嫌そうな顔をしていたが、ルナはとても満足気だった。


「よしっ!これで仲直りだね!仲良くしようね!」


 そして、先程まで怒っていたのが嘘のようにニコニコとしたのだ。


「あっ!こっちがステラちゃんね」


 更にルナはステラの紹介もする。


「はい、よろしくお願いしますステラ先輩」

「は、はいっ!よろしくお願いします。マルちゃん」


 ステラは良く出来る子だ。

 最初からマルちゃんと呼んで、事を荒立てないのだから。

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