平凡な俺と話が通じない彼女
俺は改めて、俺を呼び止めた女生徒を見る。
見覚えがない。
知り合いではない……と思う。
ステラの事があるので色々疑わしいのだが、今度こそ知り合いではないだろう。
そして俺には一つだけ思い当たりがあるのだ。
それはつまり、犯人は俺だったということである。
だが、これだけは言える。
俺はやってない。
「聞いてますか?」
俺が困惑していると、彼女は追加で話しかけて来た。
「あ、ああ、そのなんだ……」
考えて、まず聞くべきことを見つけ出した。
「えっと……名前を教えてもらってもいいか?」
予想は着いている。
「はい、私はいずみ野高校1年の馬越海と言います」
そして、それは予想通りだったのだ。
このタイミングで話しかけてくるのは、それはそうなる。
しかしそうなると、やはり犯人は俺なのだ。
彼女は憧れの先輩に話しかけると言い、俺に話しかけてきたのだ。
つまり、憧れの先輩=俺である。
全く身に覚えがない。どうしたものか?
「今、時間ありますか?」
ない、と言いたいが、特に用事はない。
そして、話を進めるためには、彼女から話を聞くしかないだろう。
「ああ、どこに行けばいい?」
なので、俺に選択肢はないのだ。
♦
そして連れてこられたのは、プールの横である。
何故ここかと言われれば、放課後に人気がない所だからだろう。
ここは正門から校庭へと続く細い道だが、そもそも校庭に行く奴は別の場所から向かう。そのためあまり放課後には人は通らない。
加えて最近のコンプラだかなんだかわからないが、プールの周りは外から見えない様にがっちりと固められているのだ。と言っても声は聞こえる気がするが。
ついでに言うなら校舎側は職員室の前の部屋で、職員用の部屋ばかりであり、あまり使われていない。
そして、いつもの体育館裏は部室があるので、放課後は逆に人は多い。
長々と考えたが、端的に言うと。
とりあえず、ここは人目に付かない場所なのだ。
「人気がないからって襲い掛かってこないでくださいね」
来て、いきなり言われた。
なんでかはわからないが、あまりにも敵対心丸出しである。
「襲わねーよ」
そのため俺も遠慮せずに返すことにした。
「先に聞くが、俺達初対面だよな」
とりあえず先手を打っておく。
「そうですね」
良かった。
実は保育園で一緒でしたと言う事はないようだ。
「それで、何の用だ?」
それが皆目見当もつかないので、とりあえず聞いてみる。
「単刀直入に言います。ルナ先輩に付きまとうのはやめてください!」
彼女は興奮して俺の事を指さしながら言ったのだ。
「は……?」
それは余りにも予想外な言葉だったため、俺はどう返せばいいのかわからなくて間抜けな面を晒してしまった。
「ルナ先輩は知っての通り明るくて優しい人です。勘違いする気持ちもわからなくはないのですが、だからといって付きまとっていい事にはなりません。ルナ先輩はああなので態度には出さないのですが、本当は迷惑がってるんです。あなたが――」
「待て待て!」
早口でまくしたてられ、俺は焦ってそれを止める。
「別に俺はルナに付きまとっているわけじゃないぞ」
むしろ、どちらかといえば付きまとわれてる側ではないだろうか?
もちろんそんなことは思ったことないが。
「そんなことはありません。あなたが付きまとっているから、時間がなくてルナ先輩が陸上部に入らなかったんです」
「待てって、俺がルナと話し出したのは最近だぞ?」
「はい、だからルナ先輩が陸上部に入ってくれないんです!」
んあああああ。
駄目だ話が通じねえ。
なんだこいつ?思い込みが激しすぎるタイプか?
どうすればいいんだ?
頭を悩ませて、しかしすぐに名案を思いついた。
「じゃあルナに直接聞いてみてくれよ」
これで誤解は解けるし、彼女とルナが話す機会も設けれるわけだ。
「ルナ先輩は今日はバトミントン部に行ってます」
「そうだったな」
ルナの放課後の予定はいつも聞かされているのだ。
DEAの集まりをするかどうかの話があるからな。
「なんでルナ先輩の行動を把握してるんですか?」
何故か引かれた。
むしろこっちの台詞だよ。なんで話してもないのにルナの行動を把握してるんだよ。
「じゃ、じゃあ、土日どっちか暇か?」
「え……」
彼女は一歩後ずさる。
ちげえよ。そうじゃない。
「ルナとどっちかで会って話せばいいだろ?」
これも名案であろう。
自然な流れで彼女とルナを引き合わせる事が出来るのだ。
これで依頼の解決に向かえると言うわけだ。
しかし、彼女は酷く悩んでいるようだった。
やはり、何かルナとは話せない理由があるのか?
それが何かはわからないが、話し合ってもらわなければ解決しないのだ。
「何が会ったのかは知らないが、ルナは多分そっちの事を気にかけてると思うぞ。気軽に話せばいいんじゃないか?」
だから、俺は彼女の背中を押してやるのだ。
いつもはDEAでやっていることだが、直接やるのは初めてかもしれない。
「そ、そんな事言われなくてもわかってます!ルナ先輩は優しい人なんです!」
「なら――」
「わかりました……ルナ先輩に連絡してもらえば行くって言っといてください」
どうやら踏ん切りがついたようだ。
「わかった、伝えとくよ。もういいか?」
「はい」
何かを考えているのか、彼女は先程までとは打って変わってとても大人しかった。
「じゃあな」
その隣をすり抜けて、俺は帰るために歩き出したのだ。
歩きながら、俺は心の中でガッツポーズをした。
だって、なんだかいつになく仕事をしたと言う感じである。
ルナとステラに報告するのがとても楽しみだ。
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