平凡ではない彼女の物真似

「その前にいいか?」


 ルナが話そうとしたところだが、俺は出鼻をくじいてしまう。


「なに?」

「今更だけど、ルナの中学の時の部活ってなんだ?」


 はっきりさせて置く必要があるわけではないが、一応話に関わることだし聞いておくべきだろう。


「陸上部だよ」


 イメージ通りだ。足も速いのだろう。兎だしな。

 俺より速いかもしれない。

 いや、平凡な俺は平凡なタイムを持っている。

 ちなみにアクルは100メートル走り切れないぞ。自重で膝が逝ってしまう。


「そうか、じゃあ頼む」


 はっきりとさせたところで、俺は話の続きを促した。


「えっと……まずは先輩Aの証言から」


 なにか始まった。探偵ごっこか?


「うーん、マルの話か。私達も2年連絡取ってないし、わからないな」


 ルナがちょっと凛々しい感じで言った。

 その先輩Aの物真似をしているのだろうが、当然俺達には伝わらない。誰かわからないし。

 ていうか、


「2年?」


 そこが引っかかった。


「先輩だからね!」


 少し俺は考える。

 ああ、ルナから見て先輩か。

 つまり3年である。それはわかるはずもない。

 そして、なんの意味のない証言である。

 飛ばして良かったと思うのだが、ルナが物真似したかっただけなのだろう。いや、何も考えてないだけかもしれない。


「では同級生Bの証言に移ります」


 頼むから意味のある証言であってくれ。


「あー、もう聞いたの?え?聞いてない?やばっ!ごめん!また!」


 やはりルナが物真似をする。上手いのか上手くないのかもわからない。

 だが、全く意味のない一つ目の証言と比べて、重要過ぎる証言である。


「犯人はお前だ!」


 とりあえずルナを指さして言っておく。


「ええっ!」


 ルナは大きくリアクションを取って驚いて見せた。

 そのまま少し間が空く。

 

「ん、こほん……」


 なんだか恥ずかしくなってきた。


「もうっ、最後まで話し聞いてよ」

「すいません……」


 俺が謝ると、再び話が始まったのだ。


「最後は同級生Cさんの証言です」


 まだ続けるのか。


「ええっ!?話は全て聞かせてもらったって?マルが部活の見学に来た時、ルナちがいないかとか、今何してるかとか聞いてきた事も?それで結局マルが陸上部にはいらなかった事も?ルナちが気を遣うかもしれないから皆で黙ってお江って口裏を合わせてた事も?全部……え?聞いてない?」


 誰かわからないが説明口調で全部話してくれてるじゃねえか。

 誰かわからないけど、ありがとう。


「というわけで犯人は私でした……」

「動機はなんだね?」

「つい出来心で……」


 なんだこれ。


「あの……それで、マルさんの憧れの先輩がルナちゃんなのはわかりましたけど、どうしましょうか?」


 ステラが話を進めてくれる。ありがとう。


「ん、その前に少し話を纏めるぞ。ルナの後輩のマルは、ルナが中学生の頃の陸上部の後輩だ。マルはルナに憧れて俺達の高校を受けて、先日受かって今1年生だになった。しかし、マルの憧れていたルナは陸上部には入っておらず、マルはどうしようか途方に暮れている。というわけだな」


 複雑な話ではない。


「ちょっと、それだと私が悪者みたいじゃない?」


 見ようによってはそうかもしれない。


「マルって後輩と、高校で一緒に陸上部に入る約束をしたわけじゃないんだろ?」

「してないよ」


 しかし、約束もしてないのであれば高校で陸上を続けるかは本人の自由だろう。


「馬越さんもわかってるから、ルナちゃんに話しかけないんだと思います」


 ステラが言った。

 まるで俺の考えを読んだかのような言葉である。

 いや、誰でも思い付くか。


「そうだな……で、こちらからも話しかけられない」


 このタイミングで話しかけるのは怪しすぎるから。

 

「そうなると簡単だな」

「ですね」

「え?なになに?」


 俺とステラは頷きあったが、ルナはさっぱりわからない様子である。


「ちょっと、二人でわかり合ってないで私にも教えてよー」


 そう言われると、俺もステラも顔を赤くして目を逸らしてしまう。


「相手からルナに話しかけさせればいいんだよ」

「なるほど!って、ソル君さっき自分で言ってたじゃん。マルも私に話しかけられないんだって」


 それ言ったの俺じゃなくてルナな。

 勝手に俺を悪者にしないでくれ。


「だからDEAで背中を押してやるんだよ。元々DEAっていうのは悩みを聞いて、それに応えてやるだけのものなんだから」


 こんなにもしっかりと関わることは今までなかったのだ。


「というわけで、自分で送ってやれ」


 俺はルナへとスマホを渡す。


「うーん……なんて送ればいいかな?」

「部活の話を抜きにして、先輩と話してみるといい、って送るといいと思います」


 その通りだ。部活と絡めるからいけないのだ。

 まずは普通に話せばいい、そこから解決の糸口を見つけられるかもしれない。


「まずは部活の事は置いておいて、その先輩と話してみてはどうでしょうか?……っと」


 ルナはそのまま打ったようだ。まさか相手も本人が送って来てるとは思わないだろう。


「これでルナに話しかけてくるまで様子を見よう。あ、ルナ。部活の話は出すなよ」


 少し不自然かもしれないが、避けるに越したことはない。


「わかってるよー。あ!」


 その時、ルナはスマホを見て声を出した。


「わかりました、だって」


 よし、完璧だ。

 あとは待つだけである。

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