平凡な俺とありがちな話

 それを聞かされれば、嫌でも話が見えてくる。

 

「つまり、この先輩ってのはルナの事か?」


 そういうことだろう。


「うーん、多分?」


 しかし、何故かルナは自信なさげである。


「仲良かったんじゃないのか?」

「仲良かったけど……活発な娘だから、みんなと仲良かったんだよね」

「その中で部活やめてしまった先輩に当たるのは他にいるのか?」

「何人かはいるね」


 だから自分かはわからないって事か。

 うーん、困った。


「あの……今は連絡してないんですか?」


 ステラが控えめに言った。

 よくよく考えれば、それが一番手っ取り早いだろう。


「それが……」


 ルナが気まずそうに言う。

 ああ、これは今は連絡してないパターンだな。

 

「受験勉強で忙しいみたいだから連絡控えてたんだよね。それでそのまま、みたいな」


 ありがちな話だ。

 いや、俺はそんな体験する後輩がいなかったけど。


「今から連絡出来ないのか?」

「出来るけど……ちょっと不自然じゃない?」

「そうだな……」


 ルナがそうだった場合、DEAに相談した途端に連絡が来たと言う事になる。

 かなり疑わしいだろう。


「他の人に聞いてみるのはどうですか?」

「それいいかも!」

「急ぐ話でもないしな」

 

 ひとまず話はまとまったのだが、実はまだ肝心の話をしていない。


「じゃあちょっと話を聞いとくね。今日は――」

「ちょっと待った」

「え?」


 ルナは明らかにそれに気が付いていないようであり、口を挟むと困惑したようだった。

 

「その前に一番大事な話し合いをしないとな」

「なに?」

「この相談に力を注ぐかどうかだな」


 DEAに寄せられる相談は多い。

 この相談をメインにしてしばらく活動するかどうか、それを3人で決めなければいけないのだ。

 その気になれば、「その先輩とよく話し合ってみればいいと思います」という短い返事だけで終わらせることだって出来るのだ。

 

「駄目……なの?」


 ルナは少し不安そうな顔をする。

 

「そ、そうじゃなくてな……」


 その顔に、俺はタジタジである。


「一応意思を統一しておこうって話だ。あと依頼の始まりみたいで気合も入るだろ?」

「なるほどー」


 ルナが納得したように頷いた。


「じゃあ、この馬越海さんからの相談を、えーと……しっかりと解決したい人」


 俺は自分で言って、自分で手を挙げた。

 異論はないからだ。

 

「はい!はい!」


 ルナはびょんぴょんと飛び跳ねながら手を挙げる。

 兎アピールしなくていいぞ。滅茶苦茶可愛いけどな。


「はい!」


 ステラも当然手を挙げた。


「ありがとう!」


 そのステラに、すかさずルナが抱き着く。

 ルナは恥ずかしそうに小さくなる。

 しかし凄い光景だ。

 おっといけない。

 鼻の下を伸ばしている場合じゃないのだ。


「よしっ、じゃあ全員賛成ということで」

「うん!頑張ろうね!」


 ルナは嬉しそうに笑ったのだ。


「それじゃあ、そろそろ時間だから教室戻ろうぜ」

「そうだね。私は話聞いとくから、今日は放課後ガストに集まる日だけど、先に行ってて」


 先程言おうとした言葉だろう。

 情報を集めるのに時間がかかるから、と言う話なのだと思う。


「ああ、頼んだ」


 そして俺達は教室に戻ったのだった。

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