平凡な俺も家にいた
5月8日水曜日。
何もない平日である。
しかし、学生からすればこの日は特別な日だ。
ゴールデンウィークという長い休みが終わり、学校が再び始まるという特別な日なのだ。
親父は昨日から会社に行っていた。土日が祝日だったため、学校は2日間振り返り休日があったのに、社会人と言うのは1日しか振り返り休日がないらしい。また一つ社会人になりたくない理由が出来てしまった。
そんな事を考えながら重たい足を引き摺って、強い日差しに耐えながら、俺は学校へと行くのだ。
教室に入ると、いつもより教室の中は騒がしい。
ゴールデンウィークに何をしたかとか、どこに行ったかで盛り上がっているのだろう。
その喧騒の中、俺は教室の後ろを歩いて自分の席に着いた。
「おはよう、アクル」
「おはよう」
そして、いつものようにアクルと挨拶を交わす。
「どっか行ったのか?」
ビッチ先輩とな。
周りに流されたわけではないが、俺もアクルに聞いてみる。
「いや、家にいた」
どっちの?爛れてるなぁ。
「ソルは?」
「いつも通りだよ。引きこもってゲームしてた」
ある意味俺も「家にいた」なのだが、意味合いはまるで違うだろう。
「いいなぁ」
ゲームする間もなかったのだろう。
だが、する必要もなかったんだろ?
「まあ、1日だけ家出たけど」
だが俺もずっと家に籠ってたわけじゃないんのだ。
「へぇ」
しかしアクルはそれを聞き流す。
そうしているうちに先生が来て、今日も学校が始まったのだ。
♦
昼休みになって屋上でアクルとビッチ先輩と飯を食べる。
「どこか行ったんですか?」
俺はビッチ先輩に聞いてみた。
「家にいたよー」
わかりきった答えに満足し、俺は体育館裏へと向かった。
階段を降りて、階段を降りて、外に出て渡り廊下を歩いて行く。
その途中にチェリオの自販機があり、そこでいつもジャングルマンを買うのだが、今日は悩んでしまった。
悩んでいることは、飲み物を買うかどうかではない。
ジャングルマンの隣に並んでいる、日本のサイダーを買うかどうかでもない。
ジャングルマンを2本買うかどうかで悩んでいるのだ。
もちろん2本飲むためではない。
いや、2本くらい飲もうと思えば飲めるが、そういうわけではないのだ。
ステラである。
今日は、この体育館にステラも来るのだ。
それは初めての事である。
そのステラにジャングルマンを布教するためのジャングルマンを買おうかと悩んでいるのだ。
何事も始めが肝心だろう。
俺は悩んだ末に、ジャングルマンを2本買って、再び体育館裏へと向かったのだ。
俺が体育館裏に着くと、ステラは先に来ていた。ルナの姿はない。
ちょうどいい。
そう思い、俺はジャングルマンを片手にステラへと近づいて行く。
そして愕然とした。
なんと、ステラは既にジャングルマンを手に持っているのだ。
こんなことがあるのだろうか?
「あ……ソル君」
ステラが俺に気が付いて近づいてくる。
咄嗟に俺は後ろに手を回した。
だって2本持つてるんだもの。
「よう、ルナはまだみたいだな」
ソワソワとしながら俺は言った。
「みたいですね」
「えっと、それ、どうしたんだ?」
俺は聞いてみる。
「はい、ソル君が好きな飲み物なんで、私も飲んでみました」
なんで俺が好きだって知ってるんだ?
ジャングルマンはそこの自販機にしかないから、学校に来た時にしか飲んでいないのだ。
まあ教室で飲んでいる事も多いので、それで認識していたのかもしれない。
「あ、ああ」
「ソル君も今持ってましたよね?」
バレていた。
「そうだな、これがなきゃ始まらないからな」
観念して、俺は2本のジャングルマンを前に出した。
しかし、ここで1本いるか?とは言えない。
だってもう持っているのだし。
「ごめーん、友達が中々離してくれなくてさー」
そこにルナが来る。
もの凄くいいタイミングだ。
「飲むか?」
だから俺はルナにジャングルマンを渡したのだ。
「えー、いいの?ありがとう!」
流れるようにルナが俺の手からジャングルマンを奪うと、それを飲みだした。
「ぷはっ、ステラちゃんも持ってるって事はソル君があげたんだね。3人分とはやるじゃないか、このこの」
ルナが肘でグリグリしてくるが、違うので気まずい。
「いや、ステラは最初から持ってたんだ」
とはいえ、やってもいない事で褒められても困るので素直に白状した。
「えー、駄目じゃん。ステラちゃんにもあげないと」
「え、だって、もう持ってたし……」
「もうっ、それでもだよ」
理不尽だが、そう言われては仕方がない。
「ステラ、やるよ」
俺はステラにジャングルマンを渡したのだ。
「ありがとうございます!部屋に飾っておきます!」
インテリアじゃないんだから飲んでくれ。
何故か、2本買ったはずのジャングルマンは俺の手元には1本も残らなかったのだ。解せぬ。
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