平凡な俺とカラオケ

 結局ルナから次の連絡が来たのはゴールデンウィーク4日目の夜だった。

 といっても、始めの内容は前日と同じように「バイト大変だったー」からだったが。

 俺が前日と同じように、「お疲れ様」と返したら、その日は、「明日暇?」と返って来たのだ。

 俺はすぐに、「暇だ」と返した。別に待っていたわけではない。ルナが遊びに行くと言っていたから――

 それはともかくとして、ゴールデンウィーク最終日になって、やっと俺は引きこもるのを辞めて外に出たのである。

 


     ♦



「陽射しが眩しいな」


 暑くなったと言うのもあるが、四日間家から出てなかったというのもあるのだろう。溶けそうである。

 ルナが待ち合わせに指定したのは学校の最寄り駅だった。

 俺の家からはかなり近い。

 なので、すぐに着いたのだが先客がいた。


「あ……ソル君。こんにちは」


 それはステラである。

 ルナにとやかく言われたくないので20分前に来たんだが、それより早く来ているとは思わなかった。

 といっても肝心のルナはまだのようだからいいだろう。


「よう、早いな」

「はい、楽しみで」


 楽しみか……どこに行くのかも聞かされてないんだけどな。

 とりあえず来いとだけ言われて来ただけだ。

 しかし、ここである疑問が浮かぶ。


「もしかして、どこ行くのか知ってるのか?」


 俺だけ伝えられていない可能性だ。


「いえ、聞いてません」


 良かった。俺だけハブられたわけではなさそうである。


「ごめーん、待った?」


 その時、ルナがやってきた。

 

「いえ、今来たところです」

「いや、今来たとこだ」

「おっ!決まり文句だねぇ」


 確かにそうだが、俺は本当に今来たところである。

 ステラはどう見ても違うが。


「じゃあ行こっか」


 来るなりルナは歩き出す。

 俺達もその後に続いたのだ。


「で、どこに行くんだ?」


 歩き出してすぐに俺は聞いた。


「んー、カラオケー」

「さてと、家に帰るか……」

「なんでさ!」


 なんでってわかるだろ?俺は友達とカラオケなんて行くタイプじゃないぞ。

 仮に行ったとしても、アニソンばっか歌っちゃうぞ?


「いや……あんまり行かないしなぁ」


 ステラの方を見る。

 嬉しそうな顔をしている。ノリ気のようだ。


「えー、私なんてカラオケ5日目だよ」


 なんだよカラオケ5日目って。もしかしてゴールデンウィーク毎日カラオケか?バイトは?バイトした後に行ってるのか……随分元気なことだ。


「いいじゃん、行こうよー」


 ルナが言う。

 本当に行かないつもりではなかった。

 

「ん、まあ……行くか」


 せっかく外に出たのに行かないというのも、あれだろう。

 あと、あれだ。自分で言うのもあれだが、俺は結構歌は上手いと思う。

 適当に流行りの歌でも歌えばいいだろう。


「やったー!ねー」

「はい!」


 何が楽しいのか、ルナとステラは二人ではしゃいでいる。

 なんか仲良くなってないか?

 そして、二人で身を寄せ合っていると、その……ある部分に迫力がある。

 というか、何だか百合百合しいけど、俺いて大丈夫か?

 


     ♦



 そうこうしているうちにカラオケ店へと来た。

 駅前が栄えているわけではないけど、カラオケくらいはある。

 まずはルナが歌った。

 まあなんというか、らしいと言えばらしく、流行りの歌である。

 

「やった!90点!」


 そして普通に上手かった。

 流石に場数を踏んでいるだけの事はある。


「次、ステラちゃんねー」


 次にステラが歌い出す。

 昔流行ってた、誰もが知ってるような曲だ。

 

「85点でした」

 

 ステラも普通に上手かった。

 そもそもステラは普段から声が可愛らしい。


「次は俺だな」


 そして、俺の番になる。

 当然俺も普通に上手いのだ。


「65点……」


 え?なんで?壊れてるのか?


「なんかソル君さ」


 ルナが言いづらそうに言った。


「下手ってわけじゃないけど、微妙に音痴だね」


 そんな馬鹿な。


「昔からこうでしたよ」


 ステラにまで追い打ちをかけられる。


「そんな……」


 俺は生まれてからこれまで自分は歌が上手い方だと思っていたのに。


「ま、まあ、楽しめればいいんだよ!」


 落ち込む俺にルナが気をつかった。

 

「そ、そうですよ」

「ほら、次はみんなで歌おう!」

「お、おう!」


 あまり気を遣わせてもいけない。

 ルナが事前に入れていたのか、誰もが知ってる歌が流れ始める。

 その歌を三人で歌い始めたのだ。

 


     ♦



 時間は一瞬で過ぎて、終わりとなって外に出た。

 正直に言おう。楽しかったのだ。だから一瞬で過ぎたと感じたのである。

 

「あー、楽しかったね!」

「はい」

「ああ」


 しかし、一つだけ忘れている事がある。


「DEAの話は?」


 それを俺は言った。


「今度でいいんじゃない?」


 ルナが言う。

 多分、ルナは最初から遊ぶためだけに来たのだろう。


「今からしますか?」

「ごめーん、バイト行かないと」

「今からか?大変だな」


 俺と違ってハードスケジュールである。

 尊敬するよ。


「うん、DEAの話はまた今度しようね」


 まあ、それはいつでもいいのだ。


「ああ、またな」

「さようなら」

「じゃあねー」


 ルナは駅へと走って行った。

 元気だな。俺はもう疲れたよ。


「俺達も帰るか」

「はい!」


 こうして、ゴールデンウィークは終わり、また学校が始まるのだ。

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