平凡な彼女の解除不能の永続バフ
それから日にちは進み、日曜日がやってきてしまう。
上水流さんとは、学校で挨拶をしたり、連絡も少しだけ取った。
それでも学校の外で会うというと事情が違うので、俺は緊張しながら彼女を待っていた。
駅の改札から左に曲がった階段のある場所で待つ。
ルナはいない。
どこかで見ていると思うのだが、それがわかっていても見つけることができないのは少し驚く。
あんなに怪しそうな恰好をしていれば、あっさりと見つけれるものだとばかり思っていたのだが。
ちなみに、上水流さんから、DEAの方には連絡はなかった。
電車の音が聞こえるたびに、どっちから来た電車かと考え、上水流さんが乗っているかと考えた。
そして、それが何度か続いた辺りで、上水流さんはやってきたのだ。
なんというか……うん、やはり美少女だ。
ルナは女の子には魔法がかかるというが、上水流さんの場合は最初から魔法がかかっている状態だろう。解除不能の永続バフだ。もちろん、それはルナも同じである。
そして元々可愛らしいのに、可愛らしい服を着ているのは反則だろう。
眩しくて溶けそうだ。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
結構待った。
何故ならルナに減点されたくないから。
いや違う、待ち合わせに早く来るのは普通だろう。
「いや全然」
なんにせよ待ったとは言えないのだ。
「そうですか……あの……今日はよろしくお願いします!」
最初の頃はおっかなびっくりだった上水流さんだったが、最近では普通に話してくれるようになった。
それでもよろしくお願いしますとは、友達に言う言葉ではない。
いや、まだ友達ではないのか?
依頼は終わってないのだから。
「そんなに気を張られても困るんだが……」
もっと気楽にして欲しい。
ただ友達同士で近場に遊びに来ただけである。
いや、という設定か。
「はい!」
気を張るなと言ってるんだが。
「じゃあ行くか」
「はい!」
俺は先に歩き出した。ルナに減点されないために。
と言っても実は目的地はない。
二俣川の裏の方は昔は本屋くらいしかないとんでもない田舎だったのだが、ここ数年ってすっかり変わってしまい、ジョイナスが出来てしまった。なんとジョイナスには約130店舗もの店があるんだ。昔は本屋が一軒あるだけだったのに変わったものである。
つまり、ただ歩いているだけでも色々な店が見れて、好きな店に入れると言うわけである。
目的も決めずにふらふらとするだけ、これって友達っぽいと思うだろ?
「わぁ、色々なお店がありますね」
歩きながら、上水流さんはキョロキョロと物珍しそうに店を見る。
しかし、外から店を見るばかりで、何故か中に入ろうとはしなかった。
「上水流さん、こっち」
「はい!」
仕方がないので、俺は次の策に移る事にする。
それはフロアマップである。
最初から、さりげなくフロアマップの方に歩いていたのだ。
「なんか気になる店あるか?」
フロアマップを眺めながら。上水流さんに聞いた。
「そうですね……」
上水流さんが真剣な眼差しをしている。
「ユニクロってところに行ってみたいです」
ユニクロね。高校生らしいだろう。
だが、なんだか引っかかる言い方である。
「まさかユニクロ行ったことないのか?」
「はい、変ですか?」
かなり変だ。
高校生なら行った事くらいはあると思うんだが。
もしかして、とんでもないお嬢様だったりすのだろうか?
このあとマックに行こうと思ってたけど、「わたくしハンバーガーなんて庶民の食べ物食べたことありませんわー」とか言われてしまうのだろうか?
言われてみれば、高そうな服を着ている気がする。
「まあいいか。行こう」
むしろ行ったことがないのなら、この機会に行くのもいいだろう。
そもそも実は最初から、もはやどうにでもなれの状態である。
そうでなければ、ここにも来ていない。
「はい!」
上水流さんは毎回同じ返事だが、今のは特に気合の入った返事だった。
階段を登り、少し歩けばユニクロである。
一つの商業施設である以上、そこまで移動しなくていいのが利点だ。
「わああ、ここがユニクロですか」
俺、ユニクロに来て感動する人初めて見たよ。
「ちょっと見てきたらいいんじゃないか?」
「え、でも……」
「俺も自分の見てくるから」
というか、女子と一緒に女物の服を見るのは恥ずかしい。
「え……」
なんだか上水流さんはしょんぼりしている。
言われていないが、「来てくれないんですか?」と顔が語っている。
「わかった……行くよ」
その顔に俺は敗北してしまったのだ。
そして俺は彼女に大人しくついて行く。
女性用の売り場と言うのはやはり落ち着かない。
そもそもどこを見ればいいのかわからないのだ。
仕方がないので上水流さんを見る事にする。
売り場に着いた彼女は、小動物のようにちょこまかと動き服を見ている。
しかし、すぐに俺の元へと来た。
「どうしたんだ?」
「その……サイズが合うのがなくて……」
上水流さんが恥ずかしそうに言った。
その時になって、俺はようやく大きなミスをしたことに気が付く。
彼女の大きな部分に合うような服をユニクロで売っているわけがないのだ。
だから彼女はこういったところに来たことがなかったのかもしれない。
「あ……その……少し早いけど飯食いにいくか?」
「は、はい!」
これ以上追求しても彼女が恥ずかしい思いをするだけである。
だから俺はそれをさらりと流してユニクロから出たのだ。
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