平凡な俺の友達作り

「それはソル君と友達になりたいってことだよ!」


 翌日、体育館裏でルナに話すとそう返された。

 やっぱりそうなるよなぁ。


「理由が思い浮かばないんだが……」


 しかし、俺と仲良くしたがる理由がわからない。


「幼馴染だからじゃない?」

「俺が幼馴染判定なら、同じクラスの杉山とか小林も幼馴染だぞ」


 何度も言うようだが、最寄りの高校なので、小中高が同じ奴はたくさんいる。


「まあ都合がいいからいいじゃん」

「それは、まあ……」


 なにか釈然としないが、考えても答えは出ないのだ。

 話を進める事にする。


「それで、依頼はこれで完了か?」


 昨日言われた事だが、連絡先を交換したら友達だと言われた。

 つまりルナ的にはこれで友達なので。依頼は完了ということになるはずだ。


「え?なんで?」


 と思ったら違うらしい。


「だって昨日……」

「昨日?何か言ったっけ?」


 駄目だ、間違いなく忘れてる。


「いや、なんでもない……」


 聞くだけ無駄だ。


「?」


 ルナは不思議そうに首を傾げるが、すぐに話を始めた。


「連絡先交換したんだよね?」

「ああ」

「連絡した?」


 してないが?


「してないの?」


 黙ってたら追撃された。


「してません……」


 何故か敬語で謝ってしまう。


「もう、なんで連絡しないのさ」


 何故か怒られる。

 そうは言うけど向こうからも来てないぞ。

 なんて言ったら火に油を注ぐだけなので黙っていた。

 

「ほら、今して!」


 今?今と言ったか?

 今は学校で、上水流さんは教室にいるけど?


 ていうか……これあれだな、上水流さんの友達作りではなくて、俺の友達作りになってないか?

 ああ、そうか、もしかしら最初からそれが狙いだったのかもしれない。

 だから俺にやらせてるのか、納得である。


「えっと……」


 俺はスマホを大人しく取り出すと、画面を見つめて固まった。


「なんて送れば?」


 いやだってなぁ、同級生の女子と話すことなんてないからなぁ。

 ルナとは基本的にDEAの話しかしないし、それでなくとも黙っていてもルナは勝手に喋るのだ。


「次の日曜日遊びに行きませんか?でいいんじゃない?」


 なるほど。


「って、おかしいだろ!」


 ついツッコんでしまった。


「なにが?」


 ルナは不思議そうに聞き返す。

 

「いきなり遊びに誘うのはちょっとハードル高くないか?」

「友達と遊びに行くのは変じゃないと思うけど?」


 ぐうの音も出ない正論だ。

 たしかにそうである。


「アクル君と遊びに行く事ないの?」

「なくは……ない」


 本当にたまにだけどな。

 

「じゃあ、ステラちゃんとも遊びに行けるね」


 男同士で遊びに行くのと、男女で遊びに行くのは違うんですよ。陽キャにはそれがわからんのですよ!

 そう考えると、ルナはそんなことは気にせずに男と遊びに行くのかもしれない。

 勘違いする男も沢山いたのであろう。俺は気を付けておこう。


「ほらほら、早く早く」


 ルナが楽しそうに急かす。

 自分の事じゃないからって好き放題言いやがって。

 冷静に考えれば、俺と二人で遊びに行くとか上水流さんも嫌だろう。

 つまり断られるはずだ。


「送ったぞ」


 そう考えたら送ってもいいという事だと思う。

 これで傷つくのは俺の心だけだ。

 スマホが鳴った。


「え?もう返信来たの?」


 ルナも驚くほどの速さだ。


「いや、そんなわけ……」


 どうせDEAに来たメッセージだろう。

 そう思って画面を見たら、上水流さんから返事が来ていたのだ。

 

「あったな……」


 偶然スマホを開いていたのかもしれない。


「どれどれ?」


 ルナが俺の横から画面を覗き込んだ。

 近いすぎる。

 せめてスマホを持って行ってほしい。


「喜んでお受けします。どこに行きますか?だってさ。ノリ気だね」


 ノリ気だろうか?事務的な返事とも取れる。

 

「どこに行けば?」

「アクル君とはどこに行くの?」

「その辺……」


 なんというか……本当にその辺である。

 近所のコンビニに行ったり、家に行ったり、あとはゲオだな。奇跡的に生き残っている所が近くにある。


「その辺は駄目だからね」


 わかってるよ。


「じゃあ二俣川でいいだろ?」


 二俣川は横浜の前にある大きな駅である。

 

「なんで横浜じゃないの?」


 じゃあ横浜でいいじゃんとなる。


「多分、上水流さんは人が多い所苦手なんじゃないかなって思って」


 と言っても二俣川も人は多いけどな。横浜よりマシだ。


「相手の事をよく考えてる。100点!」


 大変ありがたいけど、採点が甘〃過ぎる。

 とりあえずいいようなので、上水流さんへ返事を送っておいた。

 すぐに返信が返って来る。

 スマホと睨めっこでもしてるのか?


「大丈夫です。だって」

「うんうん、これで仲良くなればもう友達だよ」


 昨日も似たような事言ってなかったか?

 

「いやあ、日曜日が楽しみだねぇ」


 ん?


「ついてくるのか?」

「もちろん?」


 何を言っているんだという感じだ。

 もちろん一緒にと言う事ではないだろう。

 先週の日曜日に尾行したみたいに。今度は俺が尾行される側に回るのだ。

 因果応報である。

 ついてくるなと言ってもルナはついてくるだろう。


「はぁ……」


 もう約束はしてしまった。

 止めることは出来ない。

 だから俺はため息をつくことしか出来なかったのだ。

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