平凡な俺と平凡な彼女

 翌日になり、普通に学校に行って、普通に授業を受けた。

 体育の授業は相変わらずラグビーだし、国語の授業の金上先生は相変わらず生徒から人気だ。

 昼休みはアクルとビッチ先輩を屋上に置いてきて、ルナと体育館裏で会った。

 そして放課後になると、アクルを先に帰らせて教室に残ったのだ。


 ただ俺は今日はずっと上の空だったのだ。

 何故なら考えていたからである。

 それは昨日からずっとだ。

 ルナと公園で話してからずっと。

 

 このままでいいのだろうか?


 そう考えていたのである。

 言われるままに話しかけて、言われるままに連絡先を交換して、言われるままに友達になる。

 とても楽でいい。

 しかし、それは本当に友達と言えるのだろうか?

 多分俺は、そうやって上水流さんと仲良くなったとして、友達として長続きはしないだろう。

 何故なら、それは友達ではないからである。


 だから俺は、たった今、勝手に上水流さんにDEAからメッセージを送ったのだ。

 その内容はこうだ、「烏野君じゃなくて、本当に友達になりたい人に話しかけましょう」と。

 勝手な事をしたとルナは怒るだろうか?

 だけど、これが正しいはずである。

 そう、これでいいのだ。


 上水流さんの方を見ていると、スマホを取り出して画面を見始めた。

 DEAからのメッセージを確認しているのだと思う。

 そして、上水流さんは立ち上がった。

 もう残っている生徒も少ないが、上水流さんの目当ての生徒はいるだろうか?

 しかし、そこで上水流さんは不可解な行動に出る。

 席を立って帰り支度をした上水流さんは、俺の方へと向かってきたのだ。


「あ、あの」


 そして俺に話しかけて来た。

 あれ?

 もしかして読んでない?

 

「あ、ああ」


 予想外の展開に、俺はどもってしまう。

 

「い、いい天気ですね」


 それほどいい天気ではない。


「そうだな」


 しかし、何故か俺もそれに同調した。

 そこで会話が途切れてしまう。 


「い、一緒に帰りませんか!」


 突然、上水流さんが顔を赤くしながら言った。

 え?それどういう表情?

 とりあえず言えることは、やはりDEAからのメッセージを読んでいないということである。


「あ、ああ」


 どうしようか迷ったが、せっかく勇気を出してくれたのに断るのも悪いので承諾してしまった。

 俺は鞄を持って立ち上がった。


「じゃあ行くか」

「は、はい!」


 そんなに気合を入れなくても……

 逃げなられないだけマシか。


 階段を降りて、下駄箱で靴を履き替える。

 そして正門へと来たのだが……ここまで無言だった。

 あれ?やっぱり嫌われてる?俺が喋らないのも悪いか。でも、何を話せばいいのかわからないのだ。


「家、どっちだ?」


 校門の前でやっと会話の種を見つける。


「あ、烏野君と同じ方向です」


 え?俺の家知ってるの?

 小学校から一緒なら知らなくもないか。

 もちろん俺は上水流さんの家は知らないが。

 そして、二人で家へ向かって歩き出した。

 

「あー、急にどうしたんだ?」


 とりあえず、事情を知らないアピールをしておく。


「あ、はい。その、烏野君と……と、友達になりたいと思いまして……」


 お、おう。

 思ったよりも直球で来た。

 そういうのは口に出すものじゃないと思うぞ。


「なんでだ?」


 少し意地悪な質問だっただろうか?

 なんでと言われれば、DEAに言われたからだろう。


「お、幼馴染なので」


 事前に用意していたかのような返事だ。

 まあ無難な所だろう。幼馴染感はないが。


「ああ、小学校から一緒だもんな」

「え……?」


 何故か上水流さんはしょんぼりとする。

 え?何か間違ったか?


「あ……そうですね」


 明らかにそうではないようだが、そういうことになったようだ。

 そのまま無言が続く。

 き、気まずい。


「その……連絡先交換しませんか?」


 すると、上水流さんの方からそう言ってきたのだ。

 唐突ではあるが、それがDEAからの指示である。

 しかし、その指示は俺が取り消したようなものである。

 どうしたものか?


「駄目ですか?」


 上水流さんは俺を見上げて、目を潤ませている。

 

「ああ、わかった」


 これは断れない。無理だ。

 俺は上水流さんと連絡先を交換してしまったのである。

 まあなんとかなるだろう。


「じゃあ、俺こっちだから」


 って知ってるんだったな。


「私はこっちなので……」


 上水流さんはうちとはちょうど逆の道の方面のようだ。


「またお願いします」

「あ、ああ」


 友達っぽくない別れの挨拶で、俺達は別れた。

 またと言われたが、そのまたが来ることはないだろう。

 やはり友達を作るのなら俺ではなく別の奴のほうがいいし、そうなるだろうから。


「あれ?」


 帰り道で少しだけDEAを確認する。

 そこには、上水流さんからの返事が来ていたのだ。

 しっかりと、「はい」と言う返事が。

 しかも、その時間は俺達が学校にいたはずの時間なのであった。


「どういうことだよ……」


 俺は再び困惑しながら一日を過ごす事になったのだ。

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