平凡な俺の餌付け

 家に帰り、ダラダラとしていると時間が経ってしまう。

 時間は17時になってしまったのだ。

 俺はスマホを見る。

 そろそろバスケ部の部活は終わっただろうか?

 そろそろ連絡は来るんではないだろうか?

 俺はなんて言えばいいのだろうか?

 憂鬱だ。

 

「きたか……」


 なんて考えていると眺めているスマホが鳴り、ルナから連絡が来たのである。

 内容はストレートに、「どうだった?」だ。

 ストレートに来られたら、ストレートに返すしかないだろう。

 だから俺はストレートに返信をしたのだ。

 「逃げられた」と。

 さあどうなる?

 返信を待っているとスマホが鳴る。


「まじか」


 返信をされただけかと思ったがそうではなかった。

 電話だ。

 何故陽キャはすぐに電話をしたがるのだろうか、こっちの方が早いというが結局長々と話すくせに。

 自慢じゃないが俺の去年の電話した回数は0だ。

 などと言っても、現実に今ルナから電話が来ているのである。

 出ないわけにはいかないだろう。

 俺は電話に出る事にする。


「もしもし」

「遅いよー」


 出た瞬間怒られた。

 少し色々考えすぎたらしい。


「部活は終わったのか?」


 とりあえず話題を逸らす。

 怒られた直後に怒られたくないから。

 

「うん、今着替えてる最中」


 いや、おい、そういうのは終わらせてから電話して欲しい。

 

「周りに聞かれないか?」


 一番心配なのはそれである。


「みんなそんなの気にしないよ――ねえ、ルナ誰?男の子じゃん――え?ソル君、1組のさ。知らないの?」


 電話越しに別の女子の声が聞こえて来る。

 思いっきり気にされてるじゃねえか。

 しかも俺の名前も思いっきり出してるし。


「切るぞ」

「うわあ待って待って大丈夫だから」


 明らかに大丈夫じゃない。


「いや、大丈夫じゃないだろ」

「えー、あっ!」

 

 電話越しにルナが何かに気が付いたような声を出した。嫌な予感しかしない。


「じゃあ、あのコンビニで待っててよ。近いんだよね?」


 あのコンビニがどこかは言うまでもないだろう。

 俺がDEAである事がバレたコンビニである。

 時間は17時過ぎ。夕飯までは時間があるだろう。

 

「わかった」

「待っててね。もう着替え終わるから。んしょと」


 そして電話は切れた。

 例え事実だとしてもそう言う事は言わなくていいし、生々しい声も出さないで欲しい。

 ていうか、結局会うのなら電話する必要もなかったと思う。

 そんな事を考えながら俺は階段を降りる。


「珍しいわね、どこ行くの?」


 母さんが声をかけてくる。

 確かに俺はこんな中途半端な時間に出かけることはないし、人から呼び出されることもないが、余計なお世話だ。

 

「すぐ帰るよ」


 言って、俺は家を出たのだ。

 


     ♦



 コンビニに着くと、コンビニ内を見回した。

 まだルナは来ていないな。

 まあそんなに早く来るとは思っていない。

 先に来たかっただけだ。


「いらっしゃいませー」


 少し待つと、ルナがコンビニへと入って来た。


「な……」


 バスケ部の皆さんと一緒に。

 え?どうすんのこれ?


「あ、ソル君、待った?」


 待ったじゃないよ。

 めっちゃ見られてるよ。友達からも店員からも。


「じゃあ、行こっか。みんなーバイバイ」

「じゃあね、ルナち」

「また明日学校でねー」


 唖然としたまま俺はルナに連れられてコンビニから出たのだった。


「どこ行く?」

「あっちに公園あるから」

「いいねー」


 色々言いたいことはあるが呑み込んだ。

 なんかオタクに優しいギャルみたいになっていたが、ルナからすれば日常で、友達もわかっているのかもしれない。

 それなら問題はないだろう。

 そういうことにしておく。

 


     ♦



 小さい公園には誰もいなかった。

 いつもは子供がいるが、時間的にちょうど帰った後だろう。


「これ食べるか?」


 俺は持っていた袋から肉まんを取り出す。

 さっき買ったものだ。


「え?いいの?やった!」


 ルナは喜んでそれを受け取ると、すぐに食べ始めた。

 我ながらルナの扱いが上手くなったと思う。

 自分の分もあるので食べることにする。


「それで、なんで逃げられたの?」

 

 食べながらルナが聞いてきた。


「さあ?」


 それは俺が聞きたいくらいだ。


「嫌われてたのかもしれない」


 結論そうなるか?


「やっぱり何かやったんだ?」

「それは神に誓ってない」


 本当に記憶にない。


「でも、もしかしたら知らない間に嫌な思いをさせてたのかも」


 あるとしたらそれくらいだろう。

 小学生の時からだから10年以上だ。1度くらい記憶にない何かがあってもおかしくはないと思う。


「うーん、その後デアにメッセ来た?」

「来てないな」


 俺もそれを待ち続けていたのだ。


「こっちから送った?」

「送ってない」


 それも考えたが、なんて送ればいいのやら。

 迷ってしまった。


「えーなんでさ!わからないんなら送ろうよ。ほら」


 ルナが手を出してくる。

 俺のスマホを寄越せと言う事だろう。


「あ、ああ」


 俺がスマホを渡すと、ルナはそれを操作しだす。

 その時間は長く、何度かスマホが鳴っているのが確認できた。


「はい」


 ルナにスマホを返される。


「恥ずかしくて逃げちゃったって」


 スマホを確認する前にルナに答えを言われた。

 

「嫌われてたわけじゃないってことか?」

「みたいだね」


 とりあえず良かった。


「だから明日は連絡先交換するように言っといたよ」


 うん。


「うん?」


 その理屈はおかしい。

 

「今日は挨拶したよね?明日は連絡先交換して、これで友達だね!」


 待て待て。

 急展開が過ぎる。

 陽キャ的にはそれが正しいのかもしれないが――


「本当は今日挨拶して連絡先まで交換してくれるかなって思ってたんだけどね」


 いや、正しくないらしい。

 ていうか、もしかして俺が責められてる?俺にそこまで期待していた?

 自慢じゃないけど俺なら連絡先交換するまで一か月はかかるぞ?

 

「明日はステラちゃんの手助けをしてあげてね」


 俺が何かを言う前に話が纏まってしまった。

 

「また逃げられそうなんだが?」


 挨拶だけで恥ずかしがっていたのに連絡先交換なんて出来るはずもない。


「本人はやる気みたいだよ?」

「え?」


 俺はDEAに来ている上水流さんからの返信を見る。

 そこには、「頑張ります!」という勇ましい返信が帰って来ていたのだ。


「ね?」

「あ、ああ……」


 確かに。本人がやる気になっているのならいいのか?


「あー、お腹減った!」


 ルナが突然と言う。

 そういう時間ではあるが、肉まん食ったばっかだぞ?


「帰るね。じゃあね!」


 そしてルナはさっさと帰ってしまったのだ。

 仕方がないので俺も帰るのだった。

 その日は、次の日が気になって中々寝付けなかった。

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