平凡な俺の思春期

 日曜が終わり4月15日の月曜となる。

 朝はまだ肌寒く、しかし桜は咲いていて、その桜の木の間を歩いて俺は学校へと向かう。

 なんだか今日は気分が良かった。

 気分がいい理由は言うまでもない。

 昨日、依頼を綺麗に終わらせたからだろう。

 そして今日もルナに呼ばれているのだ。



     ♦



 四時間目の授業が終わり、俺はいつも通りにアクルとビッチ先輩を屋上に置いて、ジャングルマンを買って体育館の裏へと向かった。

 今日の授業は国語がない代わりに体育があった。

 それも四時間目だ。

 体育の授業は前半期はラグビーをやらせる。

 これは1、2、3年の間は強制である。妙な校風だが仕方がない。

 それはいいのだが、四時間目というのが問題である。

 朝は少し寒かったのだが、昼頃になると暑いくらいまで気温が上がっていたのだ。

 そのため結構汗をかいてしまった。

 汗臭くないだろうか?

 普段なら気にしないところだが、妙に気になってしまうのだ。


「よう」


 それでも約束しといて来ないと言う選択肢は選べないため、俺はルナを確認すると軽く手を挙げた。


「よっ」


 ルナもそれを真似して手を挙げる。

 同じ動きのはずなのにまるで違うように感じた。


「悪いな待たせて」


 一応事前には伝えてある。


「ううん、私も友達とお昼ご飯食べてから来たから」


 陽キャの集まり。

 騒がしいのだろうなぁ。

 ていうか抜け出せるもんなのかそれ?

 トイレって言ってもついて来そうだ。


「ん?」


 その時、俺はある事に気が付く。

 それは彼女の手に握られているものである。


「ああ、これ?思ったより美味しくってさ」

「そうだろそうだろ。強炭酸と酸っぱい感じが癖になるんだ!」


 俺は大興奮して解説を始める。


「それよりさ」


 ルナは慌ててそれを遮る。

 それよりとはなんだ。


「時間もないし、早くしようよ」


 時間がないのはその通りである。

 30分あるかないかくらいだ。


「今日は放課後バスケ部に顔出さなくちゃいけなくてさ」


 ルナはバスケ部と言うわけではない。帰宅部である。

 しかし人気者の彼女は色々な部活にたまに顔を出し助っ人をしたりするのだ。

 という話を、昨日家に帰った後にされた。

 なんというかルナはマメなのだ。毎日のようにスマホに連絡が来る。陽キャ的には普通なのだろうか?

 嫌ではないがな。

 俺とアクルなんて用事がないと連絡取らない。


「ああ、じゃあこれ」


 とにかく今日は時間がないのはその通りなので、DEAの画面を開いてルナに俺のスマホを渡した。


「ありがとう」


 ルナは感謝を言って受け取ると、DEAに来ているメッセージを確認しだす。


「と言っても、たいした相談は来てないぞ」


 昨日は忙しく、家に帰ってから少し流し見した程度だが、あまりたいした相談はなかったはずである。


「ビーナスさんからいっぱい来てるけど?」

「それは放っておいてくれ」


 本当に気にしなくていいのだ。


「昼ごはん食べ終わりましたか?だってさ」


 放っておいてくれって言ったのに。


「まだ教室で食べてますって返しておいてくれ」

「えー、嘘じゃん」

「いいから、頼む」


 俺が言うと、ルナは文字を打っているようだった。

 え?変な事書いてないよな?恐ろしい。後で確認しなければ。


「やっぱり名前適当なのばっかだね」


 それは本当にそうなのである。

 捨て垢を作って、そこからメッセージを送って来る人が多いのだ。


「内容もな」


 更に言うなら内容もである。


「金上先生美人だよなぁー、彼氏といるのかなぁ?だって」


 そういう話は友達としろと思う。

 だが、これはDEAの賢い使い方だろう。

 DEAには多くの情報が集まる。こうやって捨て垢で情報を探りに来ているのだ。

 というか、その相談にはもう返事をしたはずだ。


「金上先生美人ですよね。彼氏がいるかはわかりません」


 ルナが声に出して俺の返事を読む。


「へぇー、ソル君ああいう大人な感じがタイプなんだ」


 更にルナが横目でニヤニヤとしながら言ったのだ。

 明らかにからかいにきている。


「無難な返事をしただけだ」

「ふぅん。まあ金上先生滅茶苦茶美人だからねぇ。スタイルも抜群だし」


 無難な返事をしただけだと言ったのだが。


「胸なら私も負けてないと思うんだけどな」


 ルナそう言ったせいで、俺はついつい胸の方を見てしまう。


「もう見ないでよ、エッチだなぁ」


 ルナが胸を手で隠すようにして体を捻らせた。

 自分で言い出しといて酷いと思う。


「悪い」


 でも何故だか謝ってしまった。


「あ」


 その時、ルナが手に持ったままの俺のスマホを見る。

 あれ?今スマホどこにあった?

 手に持ったままだったよな?

 それで胸を隠すようにしたよな?

 スマホの画面はどっちを向いていたのだろう。

 駄目だやめよう。思春期丸出しだ。


「来たよソル君。依頼だ」


 ルナが急いでスマホを見たのは、スマホが鳴ったからだろう。

 そして、何か惹かれる相談が来たということのようである。

 

「えっと……」


 俺はルナが差し出した自分のスマホの画面を見ると、その相談の内容を読み上げたのだ。


「2-1の上水流星です。もう2年生になったのですが友達が出来ません。友達の作り方を教えてください」


 それは、そういう内容だったのだ。

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