平凡ではない彼女の入団試験

 チャイムが鳴り、6時間目の授業が終わる。放課後だ。


「アクル、早く行くぞ」


 俺は早くに帰宅の準備を済ませると立ち上がった。


「またかよ」


 アクルはぶつくさ言いながらもせっせと帰り支度を始めてくれる。

 ここまでは昨日と一緒だが、一応言っておくと帰るつもりはない。

 ただ――


「ソル君!」


 その時、ルナが俺の名前を呼びながら教室へと入ってきたのだ。

 ただ、これを防ぐために俺は早く帰ろうとしたのに。

 確かに一緒にとは言われたが、本当に一緒に行く気はなかった。


「お、おう……」


 クラス中の生徒が俺に注目している。

 学年一の人気者のルナと平凡で陰キャな俺の組み合わせじゃ、そりゃそうなる。


「ソル君借りていい?」


 しかし、ルナは気にしていない様子でアクルに聞く。

 俺は物だとしても、まず所有権がある俺に聞いて欲しい。拒否権はなさそうだが。


「どうぞどうぞ」


 アクルがジェスチャーと共に言う。親友を売った瞬間である。

 

「じゃあ行こっか」


 行こうかじゃないんだが、みんな見てるぞ。

 ルナは気にしていないどころか、俺のクラスの生徒たちに手を振る始末である。

 俺よりクラスの奴等と仲が良さそうだ。いや、いいのだろう。

 エイトもニヤニヤとしながら手を振っている。

 その異様な空気の中、俺達は教室を出て階段を降りたのである。

 まだ授業が終わったばかりであり、階段を降りる生徒は少ない。


「どうしたの?」


 俺がキョロキョロとしているとルナが聞いてきた。


「いや、山中さんがいないかなって」


 探しているわけではない。鉢合わせを防ぐためである。

 俺達のコンビは嫌でも目立つだろう。


「もう図書室にいるんじゃない?」


 今、俺達は授業が終わってからすぐに階段を降りて図書室を目指している。

 そして、俺はここに来るまでに山中さんを見かけてないのだ。

 つまり、彼女が先に図書室についている可能性は0である。


「いや、いないだろ」


 だから俺は否定した。

 というかいたら困る。一緒に図書室に入ったら依頼人に俺達の存在を認識されてしまうのだから。

 

「そうかなぁ?」


 そんな話をしているうちに1階にある図書室へと着いて、ルナが扉を開く。

 あれ?カウンターに女子が座ってるぞ……まさか?


「あー、茜だ!久しぶり!」」


 更に次の瞬間には、ルナがその女子へと絡みに行っていた。

 どうやって俺達より早く来たんだ?

 なんでルナは絡みにいったんだ?

 疑問が頭に浮かぶが俺の取るべき行動は一つだ。

 ルナが話している隙に図書室の奥へと向かう、である。

 これで、俺は偶然ルナと同じタイミングで図書室へと入った男子になったのだ。

 そのまま適当に本を選んで読みながら、ルナの様子を見る。

 なにやら楽しそうに談笑をしているようだ。

 いや、自覚あるのか?

 出来るだけ相手と接触しない方がいいって言ったよな俺?

 もしかしたら恋バナでもしているのかもしれない。それはあまりにも直球で危ないだろ。

 そんな事を考えていると、ルナが山中さんから離れて図書室内をウロウロとしだす。


「あ!」


 そして俺を見つけると小走りで俺の元へと来たのだ。

 いや、来なくていいんだが。せっかく他人のフリをしたのに台無しだ。

 なんて考えていると、ルナは俺の隣に座ったのだ。

 やはりルナはいい匂いがする。


「もー、どこ行ってたのさ」


 流石のルナも図書室では少し小声である。

 小声で話すために隣に座ったのだろうけど、


「いや、目立たないようにだな……てか、何話してたんだよ?まさか恋バナとかしてないよな?」

「まっさかー、普通に久しぶりって話してただけだよ、あとお勧めの本も借りて来た」


 図書室で本の話をする。それは自然かもしれない。

 普段ルナが図書室を訪れないであろうことと、俺と一緒に訪れたことと、あまつさえ俺の隣に座ってコソコソと話していることを除けばな。


「でも、石川君はまだ来てないみたいね」

「みたいだな」


 小声で話している事もあり、声は聞こえてないはずである。

 それでも、山中さんはチラチラとこちらを見ている。そりゃあこんな奇妙な組合せ見るだろ。


「あ、来たよ」


 図書室の扉が開き、背の高い短髪の男が姿を現した。

 石川進である。

 石川はカウンターへと入ると山中さんの隣へと座った。


「距離感近いなぁ」


 隣でルナが言う。

 こちらの方が近いのに気付いてないのだろうか?


「話し出したな」


 図書室にはまだ俺とルナしかいない。

 だからか二人は席を向き合わせて話し出したのだ。

 先ほどまでこちらの様子を窺っていた山中さんだが、もうこちらの事など目に入らないようで石川と仲良さそうに話している。


「あれは恋する乙女の顔だねぇ」


 ルナが顎に手を当てて目を光らせる。

 そもそも、それは推理ですらない。俺達は答えを知っているのだから。

 問題は男の方がその気かどうかである。

 俺達はしばらく二人の様子を見る。

 

「結構、人来るんだね」


 そうしてるうちに図書室に人が入って来る。

 そうなると流石に図書委員が話しているわけにもいかず、二人は静かに委員会としての役割を果たしていた。


「もういいかな、行こっか」


 同感だ。

 あとは真面目に委員会の仕事をこなすだけだろう。


「ああ」


 俺は頷くと立ち上がる。

 ルナも立ち上がり二人で扉へと向かった。

 扉に近づくと、ルナが山中さんの方へと向かう。


「じゃ、本ありがとね」


 俺は扉を開けてそれを待つと、二人で図書室を出たのだ。

 


     ♦



 そして来たのはガストである。

 二日連続で家に帰る前にガストに来ることになるとは思わなかった。

 お腹は空いていないし財布も心配なので変わらずドリンクバーだけを頼んでおく。

 ルナは今度はチキンを頼んでいた。

 学年の人気者がまさかの食いしん坊キャラとは意外だ。

 顔の下あたりに栄養が向かう先があるのだから仕方がないのだろう。


「あれは今すぐ告白すれば終わりだねー」


 ガストに着いて早々、ルナが言ったのだ。

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