平凡な俺と恋愛相談

「2年3組の山中茜(やまなかゆう)です。私は2年2組の石川進(いしかわみらい)君の事が好きなんです。彼と恋人になるにはどうしたらいいでしょうか?」


 画面にはそう書かれていた。

 実名での相談である。それだけでも彼女の本気が伝わって来る。

 恋愛相談はDEAによく集まって来る相談である。

 やはり思春期の悩みと言えば恋愛事が多くなるのは当然だろう。


「ゆうちゃんねー」

「知り合いなのか?」


 知っていそうな感じである。


「友達だよ」

「じゃあ、やめとくか?」


 友達の色恋沙汰に首を突っ込みたくない奴もいるだろう。

 

「え?なんで?」


 ルナにはそんな事関係ないらしい。


「いや、いいならいいんだ。どんな奴なんだ?」

「んー、大人しそうな感じの子だよね。髪も黒いし」


 判断材料は髪だけか、ってかちょっと待って欲しい。


「友達なんだよな?」


 なんか他人行儀だ。


「うん、何回か話したことあるよ」


 駄目だこいつ。それで友達判断は陽キャが過ぎる。


「男の子の方はバスケ部だよね。背は低いけど、少しオラオラ系かな?」


 だよね、と言われても知らない。


「そっちも友達か?」

「んー、違うかも。ほとんど話したことないし」


 良かった。誰でも彼でも友達ではなかった。

 しかし、それにしては詳しいな。


「詳しいんだな」

「同学年くらいは覚えてて普通だと思うけど」


 そんなわけがない。

 いや、覚えてはいるのだ。DEAに相談に来る奴の名前とか性格とか、覚えてはいるのだ。

 ただ現実の顔や人物を知らないと言うだけで。

 自慢だが、俺は同学年の半分の生徒の顔がわからない。いや、少し盛ったな。7割だ。


「ちなみに二人とも図書委員だ」

 

 俺はせめてもの反撃をする。


「そうなんだ!よく知ってるねぇソル君」


 ルナもそこまでは知らなかったようだ。

 というか学年が変わったばかりなので、これも先日決まったばかりである。知らなくて当たり前だ。


「じゃあじゃあ、二人には接点があるってことだね」

「あ、ああ。そうだな」


 接点があるというか……である。

 なんだか騙しているようで後ろめたい。

 

「それで、ここからどうするの?」


 ルナが聞いてくる。

 そう来るまでが全て織り込み済みである。


「この相談、全てルナに任せようと思うんだがいいか?」


 最初からそのつもりであり、この台詞を家で練習してきたのだ。

 

「えええ!いいの?」


 ルナは驚いて聞き返してくる。

 聞いているのは俺の方なんだが。

 

「ああ、頼む」


 俺は加えて後押しをしたのだ。


「任せてよ!」


 ルナは手でグッドポーズを作って了承したのだ。


「あ、これって、入団試験?」


 全くそんなつもりではなかった。

 しかし、ルナの顔は期待に満ち溢れているのだ。


「ああ、そうだ。山中茜と石川進の恋愛を成就させることをDEAの入団試験とする」


 だから俺は彼女の期待する言葉を言った。


「はっ!がんばるであります!」


 期待通りの言葉にルナは敬礼をする。

 

「なんちゃって」


 しかし、ルナはすぐに姿勢を崩して舌を出してテヘペロをした。

 それはとても可愛くて、俺は目を逸らしてしまう。


「一応言っておくが、こっちがDEAだってバレないようにな」


 毛恥ずかしくなって話の補足をした。


「わかってますって」


 なんかルナの態度も下っ端みたいになっている。


「あと俺も一緒に行動するから」

「心配なんだ?」


 ニヤニヤとルナは笑う。無駄に可愛い。


「そうじゃない」


 どうやって解決するのかどうか横で見ているためである。


「とりあえず、最初はどうするつもりなんだ?」

「え?そりゃ……」


 ルナは少し考えているようである。

 陽キャ的な答えが来ないか心配だ。

 いきなり、「告白でしょ!」とか言われる可能性もある。

 そう来たら、「お前らじゃねーんだよ!」と返さないといけない。


「様子見に行くでしょ」

「お……ん?」


 めっちゃ普通だった。

 危ない。ツッコむところだった。


「お?」


 ルナは訝し気に見てくる。


「お、おお、いいんじゃないか?」

「はい!師匠!」


 急に師匠にされてしまった。

 いいんじゃないか?っていう言い方が師匠っぽかったからか?


「もう昼休み終わりそうだし、放課後に一緒に図書室行こうね」


 なんだか誘われているみたいでドキリとした。

 

「あ、ああ。そうだな」


 きっと顔は少し赤いのだと思う。

 早くルナに対する耐性を作らないといけない。


「じゃあ昼休み終わる前に戻ろうか」


 そして、俺とルナは教室へと戻ったのだ。


「あ!これありがとねー」


 別れ際に、ルナがジャングルマンを手に持って振って見せたのだが、二重の意味で心配になってしまう。

 一つは別れ際と言う事で、もう校舎に入っていると言う事である。他の生徒から注目されている。

 もう一つはジャングルマンは強炭酸である。振ったら大変な事になる。

 しかし、そのどちらも注意する前に、彼女は元気に隣の2-2のクラスへと入ってしまったのだ。

 俺は2-1のクラスへと入る。

 そして、昼休みが終わり授業が始まる。

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