平凡な俺の新しい日

 翌日になって、俺はいつものように登校した。

 少し寝不足である。

 家に帰ってからも、ルナが連絡を沢山送って来たからである。

 そのおかげで眠る時間が少し遅くなってしまった。

 靴を上履きへと履き替え、いつものように教室に入る。

 そして、いつものように着席するはずだったのだ。


「よう、タイヨウ」


 しかし、その日は違ったのである。

 教室へと入って自分の席へと着く。それはたったの数秒の出来事のはずなのに、俺は呼び止められ、着席までの時間が大幅に伸びてしまったのである。


「おはよう、ヒノ」


 俺を呼び止めたのは、クラスのヒエラルキーの最上層に位置するサッカー部の爽やかイケメン、ヒノエイトだった。

 一応、去年同じクラスだったので、タイミングが良ければヒノは俺に何回か話しかけては来ている。

 しかし、今回は違うだろう。

  呼び止められた理由があるのかと言われれば、思い当たる節はある。というか、あり過ぎるのだ。


「昨日、ルナちと二人で帰ったんだって?」


 ルナち、というのは兎沢月の事だろう。

 あれだけの人間に目撃されたのだから噂にならないはずはない。

 実は、朝の校門付近でも結構視線を感じていた。

 話しかけられたのは今が初めてだが。


「あー、ちょっと用事があってな。別に変な事じゃないぞ」


 なんだかやましい事があるような言い訳になってしまった。

 「調子に乗んじゃねーぞ、ああん?」みたいなことを言われるかもしれない。

 いや、ヒノはそんな奴じゃないが。


「そうなのか?どんな用事?気になるなぁ」


 これで引き下がるほど陽キャは弱くないか。

 しかし、顔を見てもヒノがなんで話しかけて来たのかわかりづらい。

 調子に乗んなと言いにきたのか、ただ野次馬根性で話しかけて来たのか、わからないのだ。


「兎沢さんの落とし物を拾ってさ。返したらどうしてもお礼をしたいって押し切られてな……」


 無難な誤魔化し方だろう。お礼はコンビニでお菓子でも買ってもらったとでも言えばいい。


「へぇー」


 何故かヒノはニヤニヤとしている。

 

「アクルといい、タイヨウといい、意外とやるよな。俺は応援してるぜ」


 ヒノは親指を立ててグッドマークを作った。

 根本的にはいい奴なのだ。だからこそみんなこいつの元に集まる。

 しかし、俺の名前はソルである。去年も何回かタイヨウと呼ばれたので、恐らくわざとである。こだわりがあるのだろう。


「そうか、ありがとう」


 何かを勘違いしているようだが、面倒なので放置する事にした。


「席に着けー。ショートホームルームを始めるぞー」


 ちょうどそこに先生が来て、俺達は自分の席へと戻ったのだった。

 


     ♦


 

 

 そのまま平凡に授業を受け昼休みとなった。ちなみに国語の授業も3時間目にあった。相変わらず金上先生は美人ではある。

 いつものようにアクルと屋上へと行く。

 アクルは昨日の事を何も聞いて来なかった。流石は親友である。


「で、兎沢月と何があったんだ?」


 感動していたら、二人きりになった瞬間に聞いてきた。

 こいつは親友ではなかったらしい。


「ん……朝ヒノと喋ってたの聞いてなかったのか?」

「聞いてたけど……」


 アクルは釈然としない様子である。

 だが、俺は説明する気はない。

 というより、こいつにだけは出来ないのだ。


「まあいいか」


 しかしそれで済ませてくれた。

 やはり親友だったようだ。

 

「アッくーん!」


 その間にビッチ先輩がいつものエロい恰好で屋上へと入って来た。

 いや、恐らくいつもコーディネートは少し違うのだろう。俺にはよくわからないけど。

 

「美味しそうだな」

「いっぱい食べてね、アッくん!」


 ビッチ先輩には相変わらず俺の事は見えないようで、二人はイチャイチャしだす。

 俺はいつも以上に早く弁当を食べ終わらせ、その場を後にしたのだ。

 幸せにな、親友よ。

 


     ♦



 そして来るのは人気のない体育館の裏、部室の前である。

 当然ジャングルマンは買ってきた。


「おそいよー」


 そこでルナは既に待っていた。

 遅いと言うが、むしろルナが早すぎるだろう。

 移動時間があるとはいえ、かなり早く飯を食ったんだが。

 

「もしかして、ここで飯食ったのか?」


 それは、つまりそう言う事なんだと思う。


「そうだよ、友達に言い訳するの大変だったからさ」

「じゃあ、お詫びに」


 そう言ってジャングルマンを差し出して置いた。


「ありがと」


 それだけでルナは機嫌を良くしたようで、ジャングルマンを開けて飲む。


「うわ!シュワシュワだ!」


 驚いてる驚いてる。

 ジャングルマンは強炭酸だ。普通の炭酸よりシュワシュワである。


「でもこの味癖になるかも」


 そして独特の味をしている。ドクペ程ではないにしろ癖になる味である。


「ところで、昨日の事何も言われなかったか?」

「あー、言われたよ」

「なんて答えた?」


 口裏は合わせないといけない。


「友達になったって言った!」


 それは……あれ?もしかして奇跡的に話が合っているか?

 俺が落し物を拾う、ルナがお礼をする、それがきっかけで友達になる。

 完璧である。


「ならいいんだ」


 実際には友達ではないが、話は合っているだろう。


「それで……だ」


 俺はスマホを取り出すと、DEAを開いて操作をしていく。

 昨日のうちに良さそうな相談を一つ探して置いたのだ。

 その相談を画面に出して、俺はルナへと見せつけた。


「ル、ルナの初めてのDEAの依頼。これでどうだ?」

「どれどれー?」


 ルナがその画面を見て、相談の内容を確認する。


「ねえ、これって!」


 ルナは嬉しそうな顔をしたのだ。

 何故なら、それは女子なら誰もが好きな話題。


「そう、恋愛相談だ」


 恋愛相談だからである。

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