第四話 平凡な俺とファミレス

 帰り道、俺は兎沢月に連れられてガストへと連れ込まれてしまった。

 学生なら安いサイゼにするべきだろうと思うが、ちょうどいい位置にガストがあっただけかもしれない。

 それにしたって俺は小中高と学校が家に近かったため、帰り道にファミレスに入るのなんて初めての事で、なんだか悪い事をしているようでドキドキとしてしまうのだった。

 兎沢月の方は慣れているのか、店員に「二名で」なんて伝えてさっさと店の中へと入って行ってしまうのだ。

 まあ、陽キャは毎日帰り際にファミレスで打ち上げしていてもおかしくはない。


「それで――」

「君がデアなんだね!」


 俺が話を切りだそうとしたところ、逆に大きな声で兎沢月が食らいついてきた。


「ちょ、声が大きい……」

「だから学校から遠いここにしたんじゃん。あ、奢るからなんでも頼んでいいよ」


 確かに。駅前にはサイゼがあるしマックもある。わざわざ駅から少し外れたガストに来る生徒はいないだろう。いるとしたら相当なガストマニアだ。


「はい」

「あ、ああ」


 兎沢月が先にタブレットを操作して、すぐに俺に渡してきた。

 俺はメニューを見て悩んだ振りをする。

 それはもちろんフェイクだ。

 昼飯は学校で弁当を食べたし、奢られると言われても奢られる気はない。

 だから全然注文する気はない。

 つまりドリンクバー一択である。

 恐らく、兎沢月も山盛りポテトとドリンクバーだけを頼んだことだろう。


「え……」


 しかし、ドリンクバーを押して注文を押そうとした俺は戸惑ってしまう。

 何故なら、注文票にチーズインハンバーグがライス付きで入っていたからだ。しかも予想通り山盛りポテトとドリンクバーも頼まれている。


「どうかした?」

「いや……弁当食わなかったのか?」

「え?食べたよ?」


 おかしい。

 改めて兎沢月を見る。

 かなり痩せている方だろう。とても弁当を食べた後にチーズインハンバーグを食べる人間には見えない。

 いや、栄養が豊かそうな部分は1か所だけあるが。

 

「ねえ、まだ?」

「ああ、すまん」


 危ない。セクハラになるところだった。女子は視線に敏感だって言うからな。

 俺は気にしない事にして注文を押すと、タブレットを元の位置へと戻す。


「君がデアだったんだね!」


 それはさっき聞いた。

 一度白状している以上、もはや誤魔化すことは出来ないだろう。


「頼む!このことは内緒にしてくれ!」


 だから俺は勢いよく頭を下げた。

 机がなければ土下座する勢いである。

 

「へ?」


 突然の行為は、兎沢月からしても意外な事だったようである。


「頼む!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!私は別にそんなつもりじゃ……」


 じゃあどんなつもりでこんなところへと連れてきたのだろう。

 俺には全く見当もつかない。


「ていうかさ、もしかしてこのこと知ってるの私だけ?」

「そうだけど……」


 死ぬ気で隠していたと言えばそうではない。

 しかし、バレなかったのだ。

 俺がDEAとして活動した期間が半年ちょっと程度というのもあるだろうが。

 少なくとも、俺がDEAだと言ってきたのは兎沢月ただ一人である。


「それ!凄くいいね!」

「うん?ん?」


 どう言う事だろう。

 なんだか俺の思い描いた感じと違う。

 

「なにが、どう、いいってこと?」

「デアの事は私達しか知らないってのはいい事だよね?」


 俺としては良くない事だ。

 それに、聞きたいのはそう言う事ではないのだ。

 彼女にとってDEAの秘密が守られているのが良い事というのは、どういう意味なのかと聞きたかったのである。

 これでは埒が明かない。

 そのため、俺はずばりと結論を聞くことにする。


「それで……兎沢さんはどうするつもりなんだ?」


 この秘密を握って、彼女はどうしたいと言うのだろう。

 俺は一体どういう要求をされるのかと緊張しながら彼女を見つめた。

 その視線の先で彼女は口を開いた。

 そして言ったのだ。


「私もデアに入れて!」


 俺は頭を押さえる。

 そう来るとは考えもしなかった。

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