第7話 屋上にて
時間は進んで昼休みになった。
アロマさんに誘われて、俺は屋上にいた。
ベンチなどがある中庭のほうが人気があるため、屋上には他に人はいなかった。
居なくてよかった。アロマさんから聞いたことが衝撃すぎて、俺は大声を上げてしまったのだから。
「黒坂さんが今から屋上にくるだって!?」
俺の前に立ったアロマさんは平然とした顔でサムズアップをする。
「そう。”話があるから屋上に来てくれ”ってメモを璃々音ちゃんの机に入れときました」
「な、なぜ!!」
うろたえる俺に、アロマさんは表情を変えず俺を覗き込むようにして聞いてきた。
「話したくないの?璃々音ちゃんと」
痛いところを突かれて「ぐぅっ……」と唸ってしまう。
話したいに決まっている。正直、また昔みたいに気楽に話せたら良いという淡い期待があった。
「だが”話がある”と言って呼び出しても、何も話せないぞ。天気の話をするのが精一杯だ」
今日はいい天気ですね。そうですね。
そこから先につながる言葉がまったく思いつかないし、天気の話をするためにわざわざ呼ばれた黒坂さんが可哀そうだ。
切羽詰まった俺と反対にアロマさんは余裕の表情で「まぁまぁ任せて」と言った。
「あたしが定宗君と璃々音ちゃんの間にはいったげるよ。ガッコーケンガクシャ?とかになればいけるんじゃない?」
いいながらアロマさんは上着のポケットをまさぐって、入校許可証と書かれたネームプレートを取り出した。
「これであってる?定宗君が言ってたニューコーキョカショー」
朝のやり取りを彼女はしっかりおぼえていたらしい。
そして、俺が授業を受けている間に事務室に申請に行ったのだろう。
「わざわざ取りにいってたのか」
「まぁね~。璃々音ちゃんに怪しまれちゃったらサポートできないもんね」
俺は驚きで数度瞬きして、思ったことをそのまま言った。
「なんで俺の恋愛をそこまで応援してくれるんだ?」
昨日の夜に出会ったばかりのサキュバスの彼女は、俺の質問に少しだけ驚いた顔をした。
だが、すぐにいつもの眠たいような笑みをする。
「…さぁ?気まぐれじゃない?」
本当に気まぐれのような気もするし、何か真意があるような気もする。
不器用な俺が何をどう聞いたってのらりくらりとはぐらかされるのだろう。
だが疑った挙句、これが本当に善意からの行為だったら、俺は自分を恥じるだろう。
力を抜くためにふぅと息をつく。
「そうか。じゃあお願いしたい」
「はいはーい。じゃあ、あたしは定宗君のいとこって事にしたら紹介するときに自然かな」
アロマさんの中ではすでにある程度の段取りが組まれているらしい。
さすがに「こちらサキュバスさんです」と紹介するわけにはいかないだろう。
特殊な性癖だと思われそうだ。
「騙すようで気が引けるが…」
「まぁまぁ、ある程度嘘は必要じゃん」
話しながら、アロマさんは自分の上着の内側をゴソゴソと探っている。
オーバーサイズ気味なので、何をしているか分かりづらい。
「とうしたんだ?」
「あー、コレ見られたらまずいかなと思って見えづらいところに隠してんの」
アロマさんが上着をめくって見せてくれたのは2丁の銃とそれをしまうホルスターだった。
白い薄手のニットに、黒革の細いベルトが巻き付いている。それは両肋骨の裏辺りに2つホルスターを吊るしていて、ピンク色の銃がそれぞれ1丁ずつ納められていた。
右手を左肋骨側に、左手を右肋骨側に伸ばせば丁度銃に手が届く位置だった。
「…おもちゃだよな」
この法治国家で安全に暮らしてきた俺にはそうとしか思えない。
答えは目を細めてニッコリ笑った顔で返ってきた。
「ホンモノで〜す」
「ほんッ……!」
嘘か本当か測りかねて言葉に詰まる俺をよそに、アロマさんは上着を羽織りなおしてチャックを首元まで上げた。
「ちょっとダサいけどこれでいいかな〜。羽とかならまだしも身に付けている物を一部だけ消すって結構めんどいんだよね〜」
アロマさんは振り返ったり、その場でくるくる回ったりしながら自分の装いを確認している。
このままでは銃について何も聞けないまま流れてしまう。
俺はとりあえず思いついた質問を投げかけた。
「その、銃は何につかうんだ?」
「サキュバス同士の縄張り争い」
当然、といった顔で答えられた。
…サキュバスって意外と血なまぐさいんだな。
無気力系サキュバスが俺と幼馴染の恋愛をなぜか全力サポートしてくる〜なんでサキュバス界を敵にしてまで!?〜 @harumakiya
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