Act.2 自己表現との出会い。

 漫画を描くというのは意外と面白いと感じ、様々な友人らと交流しながら毎日漫画を自由帳に描いていく。

 友人の絵柄を真似てみたり、まずはそこから入った。

 次第に自分の描き方とらえ方などが確立されてゆき、その頃は「漫画家になりたい」と思うようになっていった。

 しかし、なかなか思うような絵が描けない。

 鉛筆オンリーでの小学生の漫画には限界があるだろうが、それでも鉛筆で描き続けた。

 作品を三つも四つも五つも作っていくと、自由帳一冊に週刊誌のようにそれぞれの話を少しづつまとめた漫画本を作っていた。

 だが、頭のなかにある鮮明な情景を表現できないのが悩みだった。

 挑戦しては失敗し、悩み続けた。


 当時、ものすごく好きで読んでいた漫画があった。ビックコミックスピリッツ(小学館)にて連載されていた小田扉先生の「団地ともお」である。

 同年代の小学生から繰り出されるレベルの高い言い回しややりとりに非常に魅力を感じ、自身の語彙力を上げることに繋がっていったのは言うまでもない。

 そんな当作品に好きなエピソードがある。

 みんなで流行しているカードゲームを楽しみたいが、お小遣いがなくてカードを買えないという問題に立ち向かう話だ。

 仲間の中でも頭のいい一人の少年が、「じゃあ自分で作ればいいじゃん」という発言によって、ともおたちはハッとする。


 日向は学校の昼休みにそのことを友人らに伝え、オリジナル漫画キャラクターを登場させるカードゲーム制作の計画を始動させる。

 一見そこまで惹かれないかもしれないが、市販のカードゲームはおもちゃとして没収されるが、自分らで作ってしまえば没収されないという法の抜け穴をついた画期的な計画だったのだ。

 日向を含む五、六人のメンバーが集まった。

 絵を描くのは日向と一緒に漫画を描いていた友人。残りのメンバーは、紙の切り分け作業と能力の書き記し。

 非常に高い作業効率で、大量のカードが次々に作られていった。

 日向は習い事をしていなかったので、家でもカード制作に没頭した。

 一週間もすれば、昼休みには教室前の広場に仲間たちが集結し、カードゲームのプレイや制作に明け暮れる仲間が沢山できた。

 それは学年内でちょっとした噂になり、先生に写真を撮られて学級だよりに掲載もされたことは誇らしい記憶である。

 ここまで読んで、もしかしてあの中に日向がいたのかなと思った人がいるかもしれない。いたと思うよ。

 放課後も友人の家で遊ぶまでにメジャー化した。


 しかし当然ながら、問題も発生する。チートカードの横行だ。

 出せばすべてのモンスターを破壊するカード。ゲームに勝つカードなど即死系のカード。そういう諸悪の根源となるカードを取り締まる役割も設定された。

 人気の火が出すぎたころ、授業中にカードを取り出した奴がいた。

 先生はカードを没収するという行動に出た。俺たちはそんな馬鹿なというリアクションだったわけだが、もはや市販されているものと差異のない力を発揮していたため、回収が行われた。

 しかし、先生が持っていたA4サイズほどのビニール袋にカードが入りきらなかったために、先生が呆れていたことは懐かしい記憶だ。


 やがて解禁されたわけだが、学年は六年生になった。

 そのころはカップルも複数いるような環境がすでに確立されており、日向も恋をしたものだった。

 結果は言うまでもない。


 六年の後期的時期に、もう一度カードゲーム熱が現れ、さらに厳格化した秩序のもとで、皆は楽しんだ。厚紙からコピー用紙に素材変更し、生産効率もあがった。

 そしてここで産業革命が起こる。

 友人の一人が、家のコピー機の存在を明らかにしたのだ。

 日向はA4サイズの紙を十六等分に線を引き、そこにノーマルレアリティのカードを描いて渡した。

 次の日には、それが二十倍の量になって彼らの前に現れた。切り離し、デッキとして構成し、遊びのスピードは高まった。


 あの時が一番楽しかった。今でもそう思う。

 そういう創造性や語彙をくれた「団地ともお」、小田先生には感謝しなければならない。


 中学に上がったと同時にカードゲームの熱は冷め、日向も漫画を描かなくなってしまった。

 やっぱり思った絵が描けないのが、悔しかった。

 諦めてしまった。

 そんな日向は大学生になって、また絵を描こうとしているらしい。


 小学生時代に培われた語彙力と想像力は、映像書き出しで小説執筆をする日向のスタイルを形作ることに寄与したことを自負している。

 まちがいない、と。


 中学時代には創作活動はせず、運動部と勉強、そして将来的に仲良くしていくクラスメイトとの交流に力を入れていたなと感じている。


 さて、次は高校入学。日向誕生はそこで明かされる。

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影のある所に日あり。 日向 灯流 @HinataTomoru

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