第8話 世界の謎

―――――――――管理者室。


僕はノックもせずドアを開けて入った。


僕はズカズカと入っていきクソジジイに話しかけた。


「なぁジジイ。」

「久しぶりだな。」

「お前、瑠花に手ぇ出してねぇだろうな。」

「出してない。あいつもそう言ってただろ。」

「…盗聴か?悪趣味だな。相変わらず。」

「憶測だ。」

「また手ぇ出したら次殺すからな。」

「わかってる。私も命は惜しい。だから手は出さない。」

「…でもあいつなんでまた戻ってきたのよ。」


僕は勝手に隣の椅子に座った。


「なんか飲むか?」

「いい。毒とか盛られてもやだし。」

「ここで死なれても面倒臭い。」

「じゃあ、コーヒー。同じもの飲んでよ。」

「だから殺さねぇって。」


僕が笑うと、ジジイも笑った。



コーヒーをいれながらジジイは言った。


瑠花あいつが戻ってきた理由はお前だ。」

「俺?」

「そう。お前がここに来た時にいつでも出てやれるようにって。知らない奴が来たところでお前は拒否するだろ。ただでさえひねくれてるのによ。」


「…なるほどな。…それとあれか?あいつの力か?」

「それもある。ここを平和に保つにはあいつが要るからな。…まぁな、本来であればあの『咲』って子の方がよかったんだが、頑としてあの子の親が絶対に渡さなかった。だからその次に力の強かった瑠花をもらった。」


「一歩間違えればジジイ、お前、咲を…」

「落ち着け。性格的にあの子に手は出さない。反動が想像つかないからな。」

「殺されるな。」

「だろ?」

「だからと言ってお前が瑠花にした事が許されるわけじゃねーからな。」

「わかってる。」


「……なぁジジイ」

「あぁ?」

「……俺の母ちゃん、本物の。…麗美、あの人を生まれかえらせることできるか?」


「お前まだ母親に拘ってるのか?」

「普通の女と麗美は違う。」

「……親と女は違うからな。」

「他の女にあそこまでわがまま言えない。あの咲でさえ気が引ける。ぶつけられない。」


「……まぁそうだな。できるとしたら、、、」

「できるとしたら?」


「あの扉の向こうで会うことくらいだな。」

「…そこに居る母さんは死なないのか?」

「死なない。」

「…そこに咲は行けるか?」

「本来なら会わせるべきではない。でもあの子は行くだろうな。お前のいる所にどこでも行けるし行こうとする。だからどうこう言ったところであの子は誰の言うことも聞かないだろうな。」

「まぁな。自分の意思に真っ直ぐだからな。」


「お前も病気だな」

「あぁ?」

「今もあの子に会いたくて仕方ないんだろ?」

「…まぁな。」


「……お前があの子を引っ張り出したのは何故か。そこは覚えてるか?」

「覚えてる。」

「お前が今までの女の中で一番良かったのは誰だ?」

「咲。」


「じゃあもうつべこべ言わず大人しくあの子といろよ。じゃないと瑠花と入れ替えるぞ。」

「……殺すぞ。」


僕が立ち上がって睨みつけると、

入口から足音が近付いてきた。


「ほら、お迎えが来たぞ。」


すると、咲が僕の肩に腕を置いた。



「凄い…悪趣味。」


目の前に広がる大きなモニターに目をやった。

この世界の色々な場所が映されていて、たまに何かが起きると自動的にズームされて見易くなる。


「でも、ほら咲。あそこ、あそこ、ほら!あそこにも!」

「なに。」

「綺麗な人。」

「はぁ?」

「おっさん、ほら、あそこ見てみ!風呂入ってるぞ!」

「お。どこだ。」


インテリ親父がメガネを上げて目を凝らしている。


「どっちもクズだわ。」と咲。



「……咲、俺思ったんだけど」

「なに?」

「おっさんと瑠花、できてる気がする。」


「どうなの?」咲が直接管理者おっさんに聞く。

「……まぁな。あいつが戻ってきてからはそうなる。手は出してないがな。」

「時間の問題だろ」

「まぁな。そうなったらそうなった時だ。」


「……咲。」

「ん?」

「咲さん、俺といて幸せか?」

「そう感じなければここにいない。」

「ありがとう。」


「なぁ。おっさん。」

「なんだ」

「咲ってどれくらい力あんの?」

「お前と一緒だ。」

「好き放題できる感じ?」

「……語弊があったかもしれない。」


管理者が頭を抱えて呆れている。


「要するに、思うがまま出来るってこと。行きたいところに行けて、やりたいことやれて、消したいやつが入れば消すことも出来る。まぁそんな事しないけど。」

「そういうとこだな。」


「…やらねぇぞ。」

「もう必要としてない。」

「それもなんかムカつくな。」

「これが事実だ。」

「でもありがとう。結果的に悲しい子を生んでしまったのはあるけど、もし、おっさんが咲を選んでたら俺は咲に巡り会えなかった。あの世界に潜り込んでバーでお酒作ってる咲にも出会えなかったし、俺が俺として奪う事も出来なかった。複雑だけど、咲とこうなれてよかった。」


「…安心しろ。どちらにせよ私はこの子を選ばなかった。」

「なんで。」

「……可愛くなかったから。 」


「あぁ??」

「はぁ!?」


「はは、小さい頃から変わってないな。お前はいつもそうだった。瑠花は「お兄さん、お兄さん」って着いてきたのに、お前は「消えろ、あっち行け」って、瑠花を離さなかった。」


「……あんただったの?」

「そうだ。」

「咲がきかない女でよかった。」

「でしょ?」


管理者が咲を見て笑う。


「お前らは出会うべくして出会った。咲が力を持っていたのも、お前を守るためだと思っている。」

「そうね…。こんなよくわかんないものでも持ってないとこいつを、縛り付けておけない。」



僕は…咲を抱き寄せた。

「……バカ。」

「俺の宝物。」


僕にとってこの4つ上のお姉さんは本当に宝物だった。いや、宝物だ。


「……匂い嗅いでいい?」

「ここで?帰ってからにして。」


優しいけど厳しい。

厳しいけど優しい。


でもそういう所が好き。



「ほら、帰れ。」


管理者おっさんに促されて

部屋を開けてドアの向こうの白い我が家に戻った。

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