穢秘炉邛

 藍色の部屋で少年を待ち伏せていたのは海よりも深い絶望だった。


 忘れかけていた屈服の感情が彼の心の界面に泡のように浮かび上がり、ボコボコと音を立てて少年の肺を圧迫した。


「すまんのぅ藤森君。元々この世界には君を元の世界に送り返す技術などなかったのじゃ」


 ノイズの中に浮かんだそれは誰の記憶だろうか。


 質の悪いスピーカーから聞こえてくる遠い昔のお伽噺を、揺れ動く記憶がさざ波になって見せつける幻想……夢想。


 僕は……私は……少年は……遠い昔に何を見て、何を聞き、何を感じたのだろうか。


 確かなものは既に何もなく、時の流れですらも揺らぎ、追想の入り乱れた記憶の海をクラゲのように漂って流れ着いたその場所で、私は声を聞いた。


 深い水の底へと落ちていく意識は徐々に暗闇に溶け、バラバラになった終わりの中で心地よい安らぎを迎える。


 懐かしの声を聞きながら。


 そう、確かに今、懐かしい声が……聞こえるんだ。

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