この物語はフィ〇〇〇〇です

@NAGANO24

第0話『夜道にて』

 それで……犯人は分かったんですか?

 そんな奴の質問に溜息を吐いた。

「分からん」

「分からんって……このままだとホントにマズイっすよ」

「知ってる。だから俺達はここに来た、違うか?」

 現在は夜、街灯が俺達を導く唯一の存在だった。

 隣でずっと声を震わせる後輩に淡泊な返事をしているが、慣れない土地は俺だって怖い。風の音も、虫の音も、何もかもが不快に聞こえる。これで風情とか謳う奴らを見ると嫌気が差す。日本人独特の感性も現代では形骸化したのと同然だ。

「はぁ、どうも俺には納得いかないっすよ。……急に「五年前の事故の真相を探れ」だなんて……ジジィがアクセルを踏み間違えた。よくある事故じゃないっすか」

「そうか。じゃあその老人はちゃんと適切な司法の下で裁きを受けたか? あ?」

 この常套句を使えば、大体の確率で黙らせることができる。

 しかし今回はわずか数秒で看破されてしまう。

「その後行方不明になったのは……きっと、崖から飛び降りたんすよ。ええきっと、世間の視線に耐えられなくなって、のやつですよ……はは、ばかみてぇ」

 人気のない午前一時五分前、我慢できずに俺は酔ったような大声を出した。

「あのな、今のネットはすげぇんだ。その気になりゃあ住所特定だってお手の物だ。人殺しのジジィがその後どこで何をしたかなんて、面白半分で調べる奴らだって沢山いる。そんな世の中で、誰一人として老人の情報を一つも掴めていないってことあるか? 結果五年経って、こうして俺等に拾われたんだ。お上は、事件の元凶がそこにあるって言い出したんだ」

「ええ、俺達はいつになったら、こんな奴隷みたいな人生が終わるんすかね」

 そう長々と話す、珍しく怒り気味な俺の気持ちを汲み取った後輩の愚痴は、何とも応答し難いものだった。

「終わらねぇよ。死ぬか老いるかのどっちかだ」

 延命に縋る人生を歩む他に、俺等に生きる術はないのだから──。

「……着きましたね」

 俺達は目的地の前で足を一旦止めた。生活に余裕のある人間が住みそうな、大きなマンションが街灯の橙色の明かりに照らされている。何とか着いたことに安心した。真っ暗の中夜道を歩くのは本当に嫌だったからな。

「管理人からちゃんと許可は得たか?」

「少なくとも門前払いはないですよ。……良い人でしたから」

「そうか。じゃ、俺達もその厚遇に応えてやらないとな」

 そう俺が右足を踏み入れようとした瞬間だった。

「……マズイな」

「え?」

「死人の臭いがする」

 すると後輩は体中に迸る恐怖に抗えず一歩後ろに下がった。俺の性格や特殊能力を知っているんだ。その言葉が嘘でないと察していたのだろう。

「……俺が行きます。先輩は応援を呼ぶように頼みます」

 後輩は咄嗟にマンションの中へ入ろうとした。

「いや、これは『怪異』じゃねぇ」

「……え?」

「もっと嫌な臭いがするんだよ……ったく、折角ここまで来たのによ」

 俺が見せた反応に、彼は首を傾げる。

「行かない……ってことですか」

「こんな時間帯に黒服の俺等だ。疑われて当然だろうが」

 腹立たしい気分ではあるが、止むを得ない。俺は踵を返し、もうすぐで闇に染まる光景を想像しながら帰路へ辿ろうとした。

「……先輩」

「何だ?」

「あの世で待ってます……さようなら」

 後輩の恐怖で震える声が伝わる。それと同時に、突如鼻を抉るほどの強烈な悪臭を感知した。俺は反射的に異常以外に表しようのない危険を悟る。そして腰から包丁を取り出し──その目を見開いた。

「チッ……すまねぇ」

 振り向いた時には、後輩はすでに息絶えていた。

 夜風さえ聞こえないほどに静かだったのにも関わらず、彼の胴体は大砲を至近距離で喰らったかのような大きな穴が空いていた。

 間違いなく、の仕業だ。

 そしてここまでの残虐性……その数秒前まで平然と話していた同胞の死を見た後、俺の中ではこう結論付けていた。

「どうやら、本当に元凶がここにいるらしいな……」

 その時、再び死を連想させる残酷過ぎる異臭を嗅いだ。

 そして都合が悪いことに、今まで点いていた明かりが無情にも消えた。

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