第4話 ひき肉になるまで残り約1秒 ひとつ語りましょうか、我が人生の回顧録

【前書き】

 プロローグとセシルの過去辺が長くなったので、全カットしました。

 また別の形で描くので、完全に没になった訳ではないです。

 既に読んだ方はすみません。

 それと一話の前に『序』を追加しました。筆記形式の短文です。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 世界のハードボイルドマニアの諸君、どうもこんにちは。近道を作ったら出待ちされてたクールな美人社長、霊四砂イブよ。


『グゥォォ―――』


 ……因果応報はアウトローの常だけれど、とうとう私も年貢の納め時らしいわね。

 この拳が私に到達するまで、残り約1秒。ひとつ語りましょうか、我が人生の回顧録。


 どこから話したものか……

 そうね、まずは私が覚えている最初の記憶からいきましょう。


 私の脳内メモリーによると、私の最初の居場所はバングラデシュの孤児院だったわ。

 どうやら私の両親は探索者だったらしく、ダンジョン内でくたばったらしい。所謂ダンジョン孤児ってやつね。

 だからまぁ、自分が何人なのかすら分からない。


 しかし不思議なことに、この頃の私は既に『クールでハードボイルドな仕事人』に憧れていたわ。両親の顔すら覚えていないのに謎すぎる。

 まぁ、切っ掛けなんて些細ささいなこと。大事なのは、それが私を今に至るまで突き動かし続けてきたってことよ。


 それから私はその渇望かつぼうに導かれて只管ひたすら戦ったわ。

 ダンジョンで魔物を縊り殺し、幅を利かせているギャングで血祭りを開催。

 自慢じゃないけれど、当時は私の名前を聞いて逃げ出す奴も居たくらいよ!ふふふふふっ。


 あぁ……何故齢数歳の私がダンジョンに入れたのかは、名誉の為に黙っておきましょう。

 それであの頃は―――


『――ォォォ』

 って、あっつ?!!この拳めっちゃ熱いんですけど!!大丈夫?私の髪燃えてない?……ま、数瞬後には消し飛ばされてるから関係ないわね!ハハハハハハッ!


 ――待って。もう此処まで来てるの?!話はこれからだっていうのに!


 あー、それでバングラデシュ国内のダンジョンを粗方制覇した私は、満を持して何でも屋を開業したわ。その頃は未だ名前すら決めてなかったけどね。


 そしてまぁ、迎えた人生初の仕事。その依頼で唯衣とレミリー、それにシャクティの3人と邂逅。その後なんやかんやあって私を含めた4人で日本に渡航したの。

 ……密航とも言うわね。これが大体2年くらい前の話。


 あぁ、それと、レミリーは愛称ね。本名はレミリッサ・アウロラ。知的で過激派、それに悪戯好きのチビよ。気に入らない依頼人を吹き飛ばすのは大体レミリーだったりする。

 日本ではこういう人をメスガキ、って呼ぶらしいわね。ふっ、ふふっ。


 シャクティは~……よく知らないわね。うちで一番幼い外見なのに普段から超丁寧口調で世話焼き。内面も全然見せないし、彼女に質問を投げかけても「予想通りの答え」は返ってこないわ。まず、「答え」にさえなってないかも。

 ま、一つ確かなのは引くほど強いってこと。


 それで、日本に渡った後は3人を雇って…いや養って……いやいや匿って?……まぁ、どれでもいいわ。3人を社員、私を社長に何でも屋「宵月」を設立。とうとう私は悲願を――


『―――ォォォオオ!』

 いやぁあああ!!もうすぐそこまで迫ってる!拳がッ!

 早いのよ!空気を読みなさいッ!このゴリラァ!!


 どこまで話したかしら?え えーと…そう、彼岸!いや違うッ!悲願!


 やっと叶えた人生の悲願!何故か付きまとってくる厄介なファン!!

 千切ったファンの屍 ぶっ飛ばされた依頼人の山!

 それが宵月のクールな日常 築いた絆は多分ハードボイルドッ!

 そしてまさに今バッドなエンドォ!!


 …………誓うわ。生まれ変わったのなら、次は真面目に生きると!!!


『グゥ――――――ォォオオオオオオオオオオッ!!!!』

 I'll be back アイルビーバック …いや、違うわね。この場合は……


 ――I'll Be Goneアイルビーゴーン、ね。


 ドガァァアアアアアアアアアアンッ!!!!!

「ピギャァッ!!!」

 そうして私は、人が出してはいけない音を轟かせながら吹き飛んで行った。


 ……卵?もちろん割れたわよ。



 ♢ ♢ ♢



 :セシルんが目隠し外した!

 :綺麗な瞳……碧と翠色が混ざった瞳なんて初めて見た

 :おいちょっと、セシルん魔力取り込みすぎだぞ!

 :うわ、全身にフィルター掛かってる。これじゃぁ、勝てたとしても…

 :いやぁぁぁぁぁ!!セシルん死なないで!!!

 :投げたぞ!

 :いっけぇぇぇえええ!!

 :まじか、止まってない!殺れなかったのか…

 :避けてセシルん!!

 :は?

 :はぁぁ?!なんか地面粉砕して誰か出て来たんだけど!?

 :いやちょっと待て、誰か知らんがこれ直撃コースだぞ?!

 :ぐぉぉぉぉ、耳が!!

 :あぁぁぁぁぁ。案の定吹き飛ばされた、直撃だよ……

 :いやいや待て待て、なんで地面から人が出て来るんだよ。意味わからん

 :今このダンジョンの下層に潜ってる人間居たか?

 :誰だ今の?いや、そもそも、下層の床を壊せる人間なんて深層探索者だけなんだが……

 :え……?じゃあ今の人は深層探索者ってこと?でも…

 :『……見覚えのない奴だった。一瞬だったが私の目は誤魔化せない。それに、何故フィルターが掛かっていない?……まさか』

 :ありえない。今日本に居る深層探索者は2人だけ。そしてその2人はマーナガルムのマスターと聖女だ、今此処には居ない。誰だ今のは

 :……ふっ。この僕の頭脳を以てしても何も分からんな!

 :確かに意味不明な状況だけども!セシルんがッ!!!

 :セシルん!セシルんッ!!起きて!起き上がって逃げてよぉ!!

 :なんで槍投げたら倒れたんだ?!

 :全身にフィルターが掛かってるな。まさか…

 :閾値を超えて魔力を取り込んだのか。魔力毒によって全身が破壊されている

 :そんな……

 :せっかくさっきの人?が盾になってくれたおかげで九死に一生を得たのに……

 :もう再生した…セシルん!目を覚まして!じゃないと……ッ!

 :『get up!!!セシルん!今起きなければ死んでしまう!!限界を超えてくれ!!!頼むッ!』

 :セシルん!起きてよ!あと一撃さえあれば倒せるのに!!



 ♢ ♢ ♢



 シュボッ

「――すぅー……ふぅー。…………甘い」

 自慢のライターで自作の葉巻に火を付け、そのまま一服。

 相変わらず最高の出来ね。絶妙な甘さが五臓六腑に染み渡るわ。


 ……………………


「……なによ!生きてるじゃないっ?!」

 くわえた葉巻が飛ぶのも構わず思いの限り叫ぶ私。


 出待ちしていたゴリラの拳で撲殺されたかと思ったのに!クールに回顧録を決めて辞世の句も読んだというのにっ!!普通に生きてるッ!!!


「ははっ。つまり、これはあれね」

 宙を舞う葉巻をキャッチして銜えなおすと、私はそこそこ痛む身体を起こした。

 そして懐からリボルバーを取り出し、弾を一発込めてシリンダーを回しながら一言。


「ふっ、さっきのはナシだ!ハードボイルドは終わらねぇ!」


 莫大な魔力を弾に込め、遥か遠くの三下ゴリラに向けて引き金を引いた。

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