第2話 上⤴出た⤵瞬間⤴終わったわ♪
『――ヴゥォォォォォオオオオオオオ!!!!!!!!』
ドッゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
「ッ......!!」
鼓膜を突き破る程の轟音に、思わず息を吞む。
:うごぉぉぉ!耳がぁぁぁぁぁ
:何だ今の咆哮。画面越しなのに鳥肌立ったぞ
:いやいやあの土煙はヤバいでしょ!弾道ミサイルでも打ち込んだの?!
:明らかにヤバいよ!逃げてセシルん!
地平線の彼方より響いた雄叫びに、天高く舞い上がった砂塵と轟音。
そして、同時に感じた身を刺すほどの殺気。
......捕捉されている。此方が全く認識できない距離から。
下層にそこまでの魔物は存在しない。つまり、異常個体なのは確定。
――勝てるか?22階層の異常個体なら、約32階層の魔物と同等の強さ。つまり、深層相当。
あの破壊規模からして多分、進化個体。既存の魔物が昇華した個体なら、ある程度知識も通じる筈。
......昔の私なら、迷わず撤退していた。
でも、今は違う。慎重さは捨てた。
微かでも勝機があるのなら、全てを懸ける。
でなければ、到底届かない。
――深層のその先には。
私が戦う決意を固めた、その時。
バゴォォォォオオオオオオン!!!!!
何かを叩きつけたような轟音と共に、遥か遠くの天井が罅割れた。
続けて、断続的に耳朶を打つ爆音――何かが、凄まじい速度で此方に迫ってきている。
「速ッ...?!!」
それの速度が常軌を逸しているのを認識すると共に、全力で走り出す。
まるで隕石のようなそれは、ソニックブームをまき散らしながら、みるみるうちに近づいてきた。
数瞬後、先程まで私がいた場所に轟音を立てて着弾。
速度の割には明らかに小さいクレーターの中から、それはゆっくりと姿を現した。
「ヴォオオオオオオオ!!!!」
中央に捉えたのは、体高5m程の巨人。
ゴリラのようなシルエットに、不自然なほど発達した前足。明らかにバランスが取れていないその巨腕は、まるでそれを中心に肉体を構築したかのよう。
全身を包む灰色の鱗は、一枚一枚が異様に大きく、鎧を連想させる。
――そして、私はこいつに似た姿の魔物を見たことがない。
「......最悪」
思わず吐き捨てた私は、既存の知識が全く通用しないことを悟った。
:はぁああ?!なんだこいつ?!どっから出てきた?!
:見間違えじゃなければ、飛んできたよね?このダンジョンには地竜しかいない筈じゃ......
:というかゴリラ?これゴリラでしょ。竜要素鱗しかないじゃん
:明らかに強そうだけどセシルん勝てるの?
:『完全魔力体の異常個体か。にしては妙な見た目だな。物理特化の完全魔力体など聞いた事もない。それにこいつ...大分喰ってるな』
:『holy shit! エーテル体のイレギュラーだと?!よりによってこいつとはなんてunluckyなんだ!僕でも厳しいぞ...』
:露語と英語でエーテル体とか言ってるけどどういう意味だ?
:異常個体の中でも極稀にしか出現しない、身体の全てが魔力で構成された個体の事だ。誕生したては弱いが、魔物の魔力を取り込むことで強化されてゆく。そして、全てが魔力で構成されるが故に、既存の魔物の法則から逸脱している。こいつに対し生半可な知識は却って足枷となる。何より、魔力を全て消し飛ばすまで倒せない厄介な存在だ。
完全魔力体に物理攻撃は利きが悪い。私との相性は最悪。
必然、残された選択肢は、高火力の一撃のみ。そのためにも先ずは行動パターンの分析から。
瞬時に考えを纏めた私は、いつでも対応できるように備える。
私と奴の距離は目測50m。まず警戒すべきは、謎の高速移動手段。この距離すら、既にキルゾーンかもしれないのだから。
「ヴゥォオオオ!!」
先に動いたのは仮称剛腕竜。その巨体から膨大な魔力が迸り、巨腕を振り上げた。
刹那、感じるのは身を焦がす程の熱と巨腕に込められたエネルギー。嫌な予感がした私は瞬時に回避行動に移行、全力で後ろに跳ぶ。
高速で遠ざかる視界の中心で、振り下ろされた巨腕が地面と接触し――爆発。世界が砂色に染まった。
「ッ......!!」
身体を叩きつける衝撃。凄まじい爆風に晒された私は、急速に上下を入れ替えながら吹き飛ばされた。
:音割れがガガガガガガガガ!!
:何だ今の?!腕を地面に叩きつけたら爆発したんだけど!
:深層の魔物ってこんな化物ばっかなのか?
:セシルんが飛ばされてる!
直前に感じた熱、起きた現象は爆轟。炎魔法なのはほぼ確定。トリガーは巨腕の接触?とにかく今の体勢はまずい、立て直さないと。...まって、爆轟?まさか――
吹き飛ばされながらも思考を続けていた私の頭に過った荒唐無稽な仮説。
それに突き動かされ、上空に意識を向けるのと同時、微かにあの熱を感じた。
上だ。爆発の衝撃を利用して移動しているんだこいつは。
「ま、ずッ......!」
何とか体勢を立て直した私は、即座に雷魔法を発動。空中に磁力で足場を作り、全力で横に跳ぶ。――直後、私の遥か上空から爆音が轟き、一瞬前まで私がいた場所を巨腕が通り過ぎて行った。
:あっぶな?!いつの間にこんな近くまで移動したんだこいつ?!
:セシルんもこの化物も速すぎて何も分からん!
:ヤムチャ視点だぜ......
;『爆発の衝撃を利用して移動しているようだな。普通なら自殺行為だが、奴は完全魔力体。普通の生物ではない』
瞬間、超加速する思考。これで私が空中機動を取れる事が割れた。次は至近距離での爆轟に切り替えて来る。回避は困難、機動力では僅かに相手が上、耐久力は比べるまでもない。零距離戦闘は成立しない、耐久力に任せてノーガードの爆轟が来る、それで終わり。長期戦も愚策、なら――超短期決戦のみ!
刹那に満たぬ時間で結論を下した私は、双剣を腰に戻し、懐から高純度の魔石を取り出して宙に放る。
続けて、虚空から予備の双剣を取り出すと、左右の剣と声帯に魔力を流して切り札の一つを切った。
「
その言葉を発した直後、武器が周囲から魔力を吸収し始める。
武器に宿る生前の魔物の力を解放し、瞬間的に出力を大幅に高める機能。
使用者が魔力を注ぎ込む必要が無い代わりに、使用後は武器が自壊する。
:えぇ?!セシルんもう「解放」切ったぞ?!早くないか?!
:焦ってるのか?
:うぉおおお!セシルんならやれるぜ!
:『shit! セシルんとこのfu〇kは相性最悪。その上武器は下層レベル。分が悪すぎる!』
でも、これは下層の魔物素材製だから威力不足――なら火力を加速させればいい。
続けて雷魔法を使用。空中に磁力で足場を作ると同時に、私の脳に干渉、筋肉のリミッターを解除した。
自分の肉体が壊れる域まで筋力を上げる、使用魔力を抑えて身体能力を向上させるにはこれしかない。私と武器が自壊する前に身体の半分は貰う!
準備を終えた私は、地面に向けて磁力の足場を全力で踏み抜いた。
「ギリッ......!!!」
全身の筋肉と骨が壊れる激痛に奥歯を噛み砕くが、そんなもの意志で踏み倒す。
地面に着弾した剛腕竜に背後から肉薄。私を狙って空を切った巨腕に向け突っ込む。
接近に気付いたのか、何らかの魔法を発動しようとしている右腕が視界に迫り――破砕。
私の方が一瞬速い。剛腕竜の魔法発動を上回るスピードで、前腕の大半を消し飛ばした。
「ヴォオオオオオオオオオオ!!!」
左腕――着地した私の頭上から迫るそれに対し、迎撃を選択。
剛腕竜の懐に高速で潜り込んだ私は、こいつの膝に足を添える。
そのまま踏み砕き、上半身に向け跳躍。続けて、岩のような胸板を足場に方向転換、左腕の側面を眼前に捉えた。
そのまま左右の剣を全力で叩き付け――粉砕。
私の速度に追い付いていない。反応される前に、右腕同様消し飛ばした。
そこで肉体の限界を迎えそうになる…が、まだ。まだあと一撃は持たせる。
刹那の浮遊。背後に感じるのは、魔力が収斂する剛腕竜の頭。
着地までに間に合わないと判断した私は、再度磁力の足場を展開。出力を上げた身体強化で以て殆ど壊れた肉体を無理やり駆動させ、全力で踏み込んだ。
「ッ......!!!」
足の骨が粉々に砕けた感覚を捻じ伏せ、肉薄、眼前に迫るは巌のような上半身。
全開の雷魔法で刀身を帯電させ、双剣に残った魔力を全開放。宙に紫電の軌跡を描きながら、死力を尽くして叩き込んだ。
「―――」
全身の筋肉が裂け、骨が粉砕する感覚。次いで膨大な魔力を消し飛ばした確かな手応え。そして――
ドォォォォオオオオオオン!!!
耳を
:.........うぉおおおおおお!セシルんがあいつをぶっ飛ばしたぞぉおおおお!!
:セシルん最強!セシルん最強!セシルん最強!
:正直何が起きてたのか全く分からんかったけどすげぇ!
:あの巨体をその華奢な身体で吹き飛ばすってどうなってるの......
:『素晴らしい戦闘技術だ。だが代償は大きいようだな。それに、早く立たねば次は無いぞ』
:ってなんかセシルん倒れてるぞ?!
「ぁ......」
体中の筋肉が引き裂け、骨という骨が粉々になった私は力なく大地に転がる。
満身創痍どころの話ではないが、まだ戦いは終わっていない。
攻めたのは私なのにこんなにもボロボロで、しかもあいつは直ぐに再生してくる。なんて理不尽、不条理、無謀。――でも、チャンスは作った。
精魂尽き果て指一本動かせない私。その体の上に、仕掛ける前に放った魔石が落ちて来た。
「う......!」
正直今の私にはそれだけで大ダメージだが、そうも言ってられない。
これがこの状況を打開する一手、聖女の回復魔法が籠められた魔石。私が所属するギルドのサブマスターが持たせてくれたもの。
正直あの人の過保護さ加減にはちょっと......だけど、今は感謝しなければ。
魔石に魔力を通し、籠められた魔法を解放する。すると、あんなにボロボロだった全身がみるみるうちに復元してゆく。――その時。
ドッゴォォォォオオオオオオン!!!!!
耳を劈く爆音と共に、遥か遠くの地面にて天井まで届くほどの砂塵が舞った。
:は?
:まさかあれで死んでないのか?
:そんな...
:いくらなんでも頑丈すぎだろ
:完全魔力体は魔力による質量攻撃でしか倒せないからな。いくら「解放」を使ったとはいえ下層レベルの武器では火力不足だ。
:いや!セシルんが立ち上がったぞ!まだ勝負は決まってない!
「ふぅ...」
気が狂うほどの痛みから解放された私は、立ち上がりながら轟音の方向を睨む。
あいつの爆轟の衝撃波を利用した移動は確かに脅威だけれど、初めの接敵程速くなかった。
それに、着地の瞬間に爆轟を起こせば私を消し飛ばせた筈なのに、それもしなかった。
魔力消費が大きいか、流石に自傷するのか、何らかの条件が必要なのか。
でも、きっと次は私が避けきれない速度と規模での攻撃をして来る。そのために死力を尽くして攻めたし、きっと数割は魔力を削った筈。相手も最大のカードを切って来る。――そこに真正面から私の最大火力をぶつけて粉砕してやる。
殺意の刃を研ぎ澄まし、私は腰に差した愛剣を抜く。そして、剣と声帯に魔力を流して口を開いた。
「
:二本目?!
:えぇえええ?!セシルん?!それ使っちゃったら帰りどうするの?!
:もう大盤振る舞いじゃん...
:ってか今更だけど同接やばくね?
:そりゃ深層レベルの魔物と1v1だしなぁ
:そもそも深層の魔物の映像なんて両手で数えられるほどしかないぞ
:元々多かった定期
これを使ったら帰りが不安とかは知らない、今は此奴を倒すことだけを考える。
この双剣は中層の異常個体から作られてるから実質下層クラス。
でも、属性は雷と風の二つが込められている。そして、これを十全に使えるのは多分世界で私一人。
凝縮された嵐のような風雷を纏う双剣。
その柄頭を、向かい合わせにして接触。ガチリ、と音がして連結し、一つの槍となった。
続けて雷魔法を発動。推定される剛腕竜の軌道に向け、宙に疑似電磁加速砲を作り出す。そのまま最後の仕上げに目隠しに手を掛け――
バゴォォォォオオオオオオン!!!!
......天井が罅割れ、先程までとは比べ物にならない速度であいつが迫って来る。
:おわぁあああ!!またあれが来る!!!
:逃げてセシルん!
:まだあんなに動けるのかよあいつ!
:でもセシルん動かないぞ!
:え?!まさか正面から迎え撃つの?!
:なんか宙にとんでもない磁場が見えるんですが、まさか...
賽は投げられた。文字通り全てを懸けて打ち砕く。
そして、私は忌々しい奥の手を使うために目隠しを剥ぎ取り――
「ゔ、あッ......!」
瞬間、襲い掛かる猛烈な不快感。
魔力毒が、いや、それよりももっとドロドロとした何かが私の身体を急速に蝕んでゆく。視界はぼやけ、四肢には力が入らない。皮膚は罅割れ、剥がれ落ちて行く。
まるで、体の先から少しづつ何かに作り変えられるかのような、形容し難い感覚。
......でも、それがどうした。元よりこの身体は捨てたも同然。
〈この身は剣、死兆で削りて、須く刺し穿つ鋭刃とならん〉
――全ては、この身と魂をチップに、深層すら貫く刃となるために。
「ォオッ.......!!」
この身を壊さんとする風の魔力を無理やり操作、槍に纏わせる。
事ここに至っては最早肉体の無事は諦め、限界ギリギリまで魔力を取り込み雷魔法を発動。双剣の自壊を早める程の膨大な魔力を込めた。
閾値に近い魔力毒と、ドロドロとした風の魔力でコンディションは最悪だが、リミッターを解除した筋力と莫大な魔力の身体強化で無理やり動かす。
握るは風雷の槍、放つは電磁加速砲、穿つは深層の化物。
足から腰へ、腰から肩へと、完璧な肉体制御で全ての運動エネルギーを余すことなく伝えた槍を放つ!
そして、文字通り全身全霊を懸けた槍が手から離れようとした、その瞬間――
「ッ......!!」
まるで自分が何十倍にも重くなったかのような、とんでもない圧力が急に襲い掛かって来た。
自分の内側の問題じゃない、文字通り何かに押さえつけられてるかのよう。
原因不明、しかし既に剛腕竜は眼前に迫っている、態勢を崩したら再度のチャンスは無い。
――決断は一瞬、閾値を超えて魔力を取り込む。どちらにせよ死は確定したようなもの。ならば、奇跡に賭ける。
「――――」
最早視界には何も映っておらず、この身を蝕む苦痛すら消えた。
唯一残っているのは、組み立てた投槍の動きと狙うべき的の位置のみ。
そして――――――
「どりゃぁあああ!!」
ドッガァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
「ヴゥォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「へ?」
:は?
:は?
:は?
:は?
意識を失う直前。
一瞬だけ戻った視界に映ったのは、右半身が消失しながらも私に向けて巨腕を振り下ろす剛腕竜。
そして、大地を爆砕しながら私と剛腕竜の間に飛び出してきた、巨大な卵を抱えた灰色の髪の女性の姿だった。
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