第9話 濡れ衣で暴力を受ける
「フォリアッ!」
ゴミ捨てを終えて屋敷に戻る途中で、突然呼ばれた名前。何事かと呼ばれた方を見れば、叔母が真っ赤な顔をして立っていた。
私はまた気に障るようなことをしてしまったのかと、慌てて叔母の元に駆ける。
「はい、ここに」
「ゴミはどこにあるの!」
今捨ててきたばかりのゴミの行方を聞かれ、私は素直にゴミ置き場に置いてきましたと話す。
「来なさい」
服を掴まれ、叔母は私を引きずるようにゴミ置き場の元へと連れて行く。理由も訳も分からないまま、私はただ黙って叔母の後をついていく。
アルバーノ家のゴミ置き場は、目立たないように敷地の奥にあり、5日に一回、回収の人が持っていくから、まだゴミは大量に残っていた。
「エミーリアに届いた、大切な手紙が無くなったのよ」
そう口にした叔母は苛立ちを隠さないまま、今すぐゴミの中から探せと命令を下す。手紙なら紙の入った袋を探せばいいのかと、私は言われるままにゴミの山へ向かう。
「どのような手紙でしょうか?」
「オーフィリア国から届いた手紙といえば、分かるでしょう」
「オーフィリア国からの」
「あなたが捨てたことは分かっています、早く見つけなさいっ!」
「え? 私がっ」
王家からの手紙なんて捨ててない。私はそんな手紙見たこともないと反論したかったけど、叔母の怒りは頂点まで沸騰していて、ここで反論すればきっと酷い仕打ちが待っている、そう思ったら口を開けなかった。
あるかも分からない手紙を探すため、私はゴミ袋を開ける。そして、ふと思い出したことがあった。それは今朝の出来事だった。
珍しくエミーリアが、部屋のゴミ箱がいっぱいだから、早く片付けてと言ってきたのだ。
ゴミ箱はたしかに大量の紙で埋まっていた。だから私はゴミ袋を持って回収に行った。
(もしかして!)
そのゴミ箱に手紙があったのではないかと、今朝集めたゴミの袋を見つけ、私は夢中で探す。
ぐしゃぐしゃになった紙の中に、『オーフィリア』の文字を見つけ、私は急いで拾い上げる。
「ありました」
後ろにいた叔母に見つけたと、走って手紙を届ければ、
パンッ
と、乾いた音が響き、次に左頬に鋭い痛みが走った。
叔母に思いっきり頬を叩かれたのだ。
「やはり、あなたが捨てたのね」
「いえ、私では……」
本当に知らない。
「エミーリアが羨ましくて、こんなことをするなんて、どこまで
叔母は私を犯人扱いし、怒りの矛先を全て私に向ける。けれど、手紙なんか知らなかった。王家からの手紙があると知っていれば、捨てるなんてことするわけがない。
「本当に知らなかったんです」
声をあげて私は無罪を叫ぶ。だけど、叔母の表情はさらに怒りに満ちる。
「見苦しい! 醜い嫉妬でエミーリアの縁談を破棄させようとするなんて、なんて卑しい」
「違います、私はそんなこと……、きゃぁッ」
弁解をした私に、叔母は近くにあった棒を振り回し、私を叩いた。容赦なく振り下ろされる棒に、私は尻もちをつき、驚きと痛みで動けなくなる。それをいいことに、叔母は何度も何度も棒を振り下ろす。
「あなたのしたことが、どれだけエミーリアを傷つけたか反省しなさい!」
思いっきり振り上げた棒が、私の左足に叩きつけられた。
「痛ッ――っ」
「エミーリアはもっと痛かったのよ」
王家からの手紙は、妃候補の日取りが記されていたのだと、手紙がなければ、エミーリアは審査を受ける前に落とされていたのだと、大切な娘がどれだけ辛い思いをしたのか、その身をもって反省しろと、叔母が力いっぱい棒を振るう。
両腕や背中、全身を叩かれながら、私は必死に身体を丸めて痛みに耐える。
(どうして、こんな……)
きっとエミーリアは手紙が入っていることを知っていて、私に片づけを頼んだ。けど、それを叔母に分かってもらう方法なんかない。私が何か言えばもっと叩かれる、そう思ったら何も言えなくなった。
唇を噛み締めて、私は小さく身体を丸めることしかできない。叔母が諦めるまでただ耐えることしかできないと。
「やめろッ」
何度も何度も叩かれる中、突然男の声がして、叔母の攻撃が止んだ。
「何をするの!」
叔母の声がして、私はそっと顔をあげて目を見開いた。そこにいたのはルーだったから。
ルーは叔母の振り上げた棒を片手で掴んで、それを止めていた。
「暴力はよせ」
「暴力ですって! 躾のなっていない者を躾けるのは当然のこと」
「これのどこが躾だと」
叔母が掴んでいた棒を奪い取ったルーは、棒を地面に捨てると叔母と対峙する。
「よそ者が邪魔をするんじゃないよ!」
叔母は突然現れたルーに牙を向き、標的をルーに変える。真っ赤になった叔母の顔は、まるで鬼のよう。
「見過ごせない」
普段聞いたことのない低い声のルーが少し怖かったけど、叔母と私の間に立って、ルーは私をかばうように立ちはだかる。
「名を名乗りなさい!」
「お前に名乗るような名前は持ち合わせていない」
「なんですってっ」
教える筋合いはないと、ルーが冷たく言えば、叔母は激怒したように眉間に皺を作る。
そんな叔母を無視して、ルーは私の方に振り返るとそっとしゃがんでくれた。
「これは酷い」
一番酷く叩かれた左足が赤く腫れていて、ルーはそっとそこを見つめる。全身が痛くて、もうどこが痛いのかなんて分からなくて、私はただ歯を食いしばる。
「もう大丈夫だ」
優しくそんな風に言われたら、泣いてしまう。私を助けてくれる人なんて、いないはずなのに、ルーが助けてくれた。
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