第7話 釣り合わない令嬢の結婚作戦
令嬢か、所詮届かぬ階級だろうなと、ルーは肩の力を抜く。そして、自分の立場がつくづく嫌になった。
「さて、どうしたものか……」
解決の糸口が見つけられないと、ため息しか出てこない。そんなルーに、ラーハルドはとある提案を出す。
「少し、フォリアさんに近づいてみたらどうかな?」
「近づく?」
「親密になったところで、ルーの親しい人を紹介する」
「紹介してどうする?」
「もちろん結婚してもらう」
ラーハルドからとんでもない言葉が飛び出して、ルーの方が面食らってしまう。なぜ結婚などという話になるのかと、後頭部を掻けば、ラーハルドはにっこりと笑って目論見を話す。
「結婚してしまえば、フォリアさんは使用人などという立場から解放される」
その上、ルーの親しい人なら間違いないし、使用人などというふざけた立場も消滅できると説明した。
ルーの目の届くところなら、叔母であるマリッサ=アルバーノの手からも逃れられるでしょうと、ラーハルドは名案だと思わない? と持ち掛けた。
確かに自分の目の届くところで、そんなふざけた真似はさせない。いや、できないはずだと、ルーはしばし考え込む。
だが、フォリアは素直にそれを受け入れてくれるだろうか? 不安がないわけじゃない、けど、フォリアを救うにはそれしかないだろうと、ルーはラーハルドの提案を受け入れることにした。
なるべく地位の高い者を選び、マリッサにこれ以上手出しはさせないと、ルーは強く心に決めた。
フォリア結婚作戦は、翌日から実行された。
「えっ、ええ――っ!」
庭の茂みの中にボサボサの黒髪を見つけて、私は驚きとともにすぐに駆け寄る。
間違いない、あの時の迷子さん!
「ちょっと、何してるんですか?!」
またもや地面にうつぶせに倒れており、慌てて抱き起せば、「水を……」と、またまたそれを要求され、急いで水を汲んでくる。
「お水です」
ゴクゴク……
渡した手桶から一気に水を飲んだ男は、「生き返ったぁ」などと言いながら、手桶を返してくれる。
「もしかしてまた道に迷ったんですか?」
「違う、違う。あなたに会いに来たんだ」
「……? 私に?」
どういうこと? と、私の方が混乱する。
「大通りを目指していけば、たどり着けると思ったんだけど、少し道を間違えてしまったみたいだ」
だから行き倒れみたいになってしまったと、またまたお恥ずかしいところをと、頭を掻く。
いやいや、普通道に迷ったくらいで行き倒れないから!
というか、この間、ちゃんと帰れたんだと少しだけホッとした。
「ええっと、これをあなたに」
背負っていたカバンをガサガサと漁った男は、紙袋を取り出すとそれを私に手渡す。
少し重たい紙袋からは、なんだかいい香りが。
「これは?」
「先日のお礼。
主様と口にしたことから、この人も使用人であることを知ることが出来たけど、こんなに方向音痴な人で大丈夫なんだろうかと、むしろ主様を心配する。
きっとおつかいを頼んだのでは? と、勝手に考えてしまったけど、地図もちゃんと見れない使用人におつかい? この人の主様は、一人でおつかいに行けないような人をどうしてまた外に出したんだろうって、すごく心配になる。
けど、紙袋からはとっても美味しそうな匂いが。
匂いからして食べ物だろうと思うけど、本当にもらってもいいんだろうかと、困惑していたら、男は紙袋を私から取り上げて、勝手に袋を開けてしまう。
それから中身を取り出して、私に一つ差し出してきた。
「主様おススメの肉饅頭」
それは掌に収まらないほどの大きなもの。両手でつかめるほどの大きさの肉饅頭は、とても柔らかくて、すごくいい匂いがした。
ふかふかの食感と、食欲をそそる香りに、思わず唾が出る。
「食べてもいいの?」
ゴクリと喉が鳴り、本当にいただいてもいいのかと再度確認をすれば、男は「どうぞ」と笑ってくれた。
しかも自分の分もちゃんとあるから、一緒に食べようと言ってくれた。
こんなに美味しそうな物を食べるのは、舞踏会以来で、私は「いただきます!」と言うなり、パクっとかぶりつく。
ふわふわの生地に、溢れんばかりの肉汁。なんて美味しいの。
「美味しすぎる」
またまた頬が落ちてしまうと、私は夢中で食べ進め、全部食べ終わると、まだ一口しか食べていない男の肉饅頭に視線が向いてしまっていた。
その視線に気づいたのか、男はそっと肉饅頭を差し出してきた。
「俺のも食べるか? さっきご飯食べたばかりだから、お腹いっぱいで」
「くれるの?」
もう肉饅頭に釘付けだった。だって、物凄く美味しかったんだもん。
そっと差し出された肉饅頭に、私はそのままパクリと食いつく。すると、男は片手で額を押さえる。
「……また、そんなことを」(これは、間接キスだろう、……まったく)
ボソリと言った言葉なんか全然聞こえなくて、私は男の手に乗る肉饅頭をパクパクと食べてしまう。ろくなご飯を食べていないせいか、幸せすぎると両手で頬を持ち上げ、私は男に向き合うと丁寧に頭を下げる。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
お礼を述べたら、男もゆっくりと頭をさげてくれた。
「そういえば、名前! まだ聞いてなかった」
いきなりそれを思い出して顔をあげれば、男は苦笑する。
(食べ物より、俺の名前の方が劣るのか……)
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