その20の2



 時間になると、担任のテリーが教室に入ってきた。



 テリーは教室に猫が居ることに気付いた。



 彼は男子寮でカゲトラとの面識が有る。



 それで飼い主に向かってこう言った。



「ストレンジくん。


 いけませんよ。教室に猫を連れてきては」



「すいません。


 昨日はおとなしくしてたんですけどね。


 なんか今日は、無理に来たがって……」



「ひょっとすると……


 今日がダンジョン実習だからかもしれませんね。


 猫は飼い主の危険に敏感だといいますから」



「おまえ、俺を守るつもりか?」



「みゃあ」



 カイムの疑問をカゲトラは肯定してみせた。



「ナマイキな」



 次にテリーがカイムにこう尋ねた。



「ストレンジくん。


 その猫は、戦闘訓練は積んでいるのですか?」



「どうなんだ? カゲトラ」



「うみゃあ」



「『ばっち来い』だそうです」



「そうですか。


 冒険者学校は、


 実戦で通用する冒険者を育成することを


 目標としています。


 猫と一緒に戦うのが


 あなたが目指す戦闘スタイルなら、


 ダンジョンに猫を連れて行くなとは言えません。


 じっさいに、猫騎士の天職を持つ方などは


 猫をダンジョンに同行させていますしね」



「俺はべつにコイツが居なくても……」



「みゃ!」



「うおっ! 凄いやる気だなコイツ……!


 わかったよ! 連れてけば良いんだろ!?」



「みゃ」



「それとストレンジくん。


 飼い猫をダンジョンで死なせるようなことは有ってはなりませんよ」



「だいじょうぶです。カゲトラさんは私が守りますから」



 ジュリエットがそう言った。



 先ほどはカイムのことも守ると言っていた気がするが。



 守りたがりなのだろうか。



「そうですか。


 パーティリーダーとしての活躍を期待していますよ。


 ヴィルフさん」



「はい。お任せ下さい」



 ホームルームが終了すると、いよいよダンジョン実習の時間だ。



「行きましょうか」



 椅子に座ったままのカイムに、ルイーズが声をかけてきた。



「ダンジョンに行くんだよな?」



「はい。ダンジョンには猫車で行きます。


 なのでそれに乗るために


 校庭に移動ですね」



「了解」



 カイムは着替えが入った学生鞄を手に取った。



 そして他の生徒たちといっしょに校庭へと向かった。



 他の学生たちは、大きな荷物を持っている者と手ぶらの者に別れていた。



 オリハルコンリングの有無の違いだろう。



 カイムはそう当たりをつけた。



 校庭に出ると、大型の猫車がずらりと並んでいるのが見えた。



 別のクラスの生徒たちが猫車に乗り込んでいくのも見えた。



「他のクラスの奴らと一緒に行くんだな」



 カイムがルイーズにそう言った。



「はい。クラスを跨いでパーティを組むことも有りますからね。


 それと、学年が変わる時にクラス替えが有りますから、


 意図しなくてもそうなってしまう事もあります」



「なるほど」



「出欠の確認が有りますから、


 猫車にはパーティではなく


 クラスで分かれて乗りますけどね」



「どれに乗れば良いんだ?」



「あの猫車に、Aの印が有りますよね?


 私たちはA組ですから、


 あれに乗れば良いんです」



「そうか」



 カイムはルイーズと一緒に、A組の猫車に乗り込んだ。



「席順とかは?」



「席は自由ですね。好きに座ってください」



「そうか。一緒に座るか?」



「えっ……」



「嫌か?」



「……嫌では無いです」



「それじゃ、よろしくな」



「……はい」



 カイムはルイーズと並んで座席に座った。



 カゲトラはカイムの座席の隣で座り込んだ。



 ジュリエットはカイムの座席から見て、通路を挟んだ反対側に座った。



 そしてカイムと目が合うと、にこりと微笑んできた。



 カイムは特に笑い返したりはせず、車の前の方に視線を戻した。


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