その21の1「ドームとパーティ」



 そのまま少し待った。



 すると30歳くらいの男性が乗り込んで来るのが見えた。



 短い赤髪の男だ。



 ジュリエットやアルベルトの鮮やかな赤髪と比べると、暗めの髪色だった。



 身長は170センチ後半。



 服装は着崩したスーツ姿。



 だが、だらしない服装に反して、その姿勢は研ぎ澄まされていた。



 容姿は整っているが、線の細い色男といった感じでは無い。



 若干の野性味を感じさせる風貌をしていた。



 彼の手に、学校の出欠簿が見えた。



 それでカイムはその男が教師なのだと判別することが出来た。



 男はカゲトラを見た。



「猫? 野良猫か?」



「俺の猫です」



「そうか。みんな揃ってるな? 出欠取るぞ」



 教師は出欠確認を始めた。



「キム=ストレンジ」



「カイムです」




 ……。




「良し。全員居るな」



 確認が終わると、教師は猫車から身を乗り出した。



 そして御者に声をかけた。



「出してください」



 御者が魔導手綱で猫たちに命令を与えた。



 猫の群れが、猫車を引いて走りはじめた。



 移動中は自由時間のようなものらしく、生徒たちが会話を始めた。



 騒いでもルールでは問題が無いのか。



 それとも目こぼしされているのか。



 教師に咎められることも無かった。



 それでカイムもルイーズに話しかけてみることにした。



「あの人って先生なんだよな?」



 先ほど出欠確認をした男に関して、カイムはそう尋ねた。



「はい。A組のダンジョン実習を担当されている


 コンラート=シラー先生ですよ」



「強そうだ」



「先生ですからね」



「ストレンジ」



 コンラートがカイムに声をかけてきた。



「はい」



「ここのダンジョンに潜るのは今回が初めてだな?」



「ええ。まあ」



「この学校の生徒たちは、


 1年のころからダンジョンの知識を十分に学習して


 実習に挑んでいる。


 転校生であるおまえには、知識面でのハンデが有る。


 もし不安が有れば、


 最初は俺が引率しようと思うが、


 どうする?」



 コンラートがそう言うと、他の生徒が不満げな様子を見せた。



「えっ? 先生。


 今日は俺たちを教えてくれるんじゃないんですか?」



 どうやら教師の引率には順番が有るらしい。



 生徒の不満に対し、コンラートはこう返した。



「1回くらい我慢しろ」



「ええー。ずるいぞ転校生」



 カイムには、ダンジョンへの不安などは微塵も無い。



 クラスメイトたちから貴重な学びの時間を奪うつもりも無かった。



 それでコンラートの申し出を辞退することに決めた。



「俺はだいじょうぶですよ。


 先約の方を優先してあげてください」



「そうか?」



「ストレンジくんは私が守りますよ」



 ジュリエットが言った。



 とにかく守るらしい。



「ヴィルフ。


 ストレンジはおまえと同じパーティなのか?」



 コンラートがジュリエットに尋ねた。



 カイムがジュリエットのパーティに入ったのは、つい先日のことだ。



 実習の教師であるコンラートにも、まだ情報は伝わっていなかったらしい。



「はい。それと……レオハルトさんも」



「レオハルトさんが?」



「まあ、とにかく私に任せてください」



「そうか。


 俺がでしゃばる必要は無いようだな。


 ……ストレンジ。


 もしパーティのことで


 何か悩むことが有れば相談に来い」



「…………? はい」



 猫たちがもう少し走ると、ドーム型の建物が見えてきた。



 車体の前方の窓を見ながら、ルイーズがカイムにこう言った。



「あれがウェルムーア=ダンジョンドームですよ」



「へぇ。立派なもんだ」



 ダンジョンの上にドームを建てる。



 それが近隣諸国における習慣となっている。



 ドーム内には、冒険者のための施設や連絡設備などが有る。



 カイムがダンジョンドームを見るのは、これが初めてでは無い。



 だが、この時カイムが目にしたドームは、今まで見た中でも最大のものだった。



 カイムはその威容に、素直な感嘆を見せた。



 ドームの敷地に入った猫車は、駐ねこ場へと向かった。



 御者が猫車を駐ねこ場に駐車させた。



 生徒たちは降車し、教師陣の前に整列した。



 整列が終わると、コンラートが口を開いた。



「それでは各自、


 事前に提出した探索プランに基づいて


 探索を行うように。


 トラブルが発生した場合は、


 専用の通信機で即座に連絡すること。解散」


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