その20の1「魔術師とテイマー」


 わちゃわちゃとしているうちに校舎前についた。



 カイムは猫車のりばから校舎へと向かった。



 カイムが教室に入ると、ルイーズの姿が見えた。



 ルイーズもカイムに気付いたらしく、朝の挨拶をしてきた。



「おはようございます。カイムさん。


 それにカゲトラさんも」



「おはようルイーズ」



「あの、今日はダンジョン実習ですね。


 パーティでダンジョンに潜るのは久しぶりなので、


 ちょっとドキドキしています」



「そうか。


 そういえば、ルイーズの天職は?」



「魔術師です」



「後衛職か」



 魔術師は、攻撃魔術全般に特化した天職だ。



 高い火力を誇る代わりに、身体能力が低く、打たれ弱い。



 典型的な後衛職と言われる天職だった。



 前衛職と言われる打たれ強い天職の者が、後衛職を守る。



 それがダンジョン攻略のセオリーだと言えた。



「だったら、俺がルイーズを守らないとな」



「えっ……。


 ええと……その……


 カイムさんの天職は確か……」



「テイマーだけど」



「なるほど。だからカゲトラさんを連れているのですね」



 ルイーズはテイマーに詳しくはないらしい。



 カゲトラがカイムの使い魔だと勘違いしたようだった。



 カイムは即座にルイーズの言葉を否定した。



「違うが」



「そうなのですか?」



「テイマーってのは


 ダンジョンの魔獣を使役する天職で、


 サーベル猫は魔獣じゃないからな。


 こいつが勝手についてきただけだ」



「不勉強ですいません。


 しかし……テイマーだって


 前衛職ではなかったような気がするのですが。


 お気持ちはありがたいのですが、


 あまりムチャはなさらないでくださいね」



「心配すんなよ。


 こう見えてそこそこ鍛えてるからな。


 ルイーズには傷一つつけさせない。


 俺が守ってみせる」



「あ……はい。


 頼りにしていますね」



「任せろ」



 二人で話をしていると、ジュリエットが教室に入って来た。



 ジュリエットの後ろには、やはりターシャの姿も見えた。



「おはよう。みんな」



「おはよう」



「おはようございます」



 人気者のジュリエットに、次々と挨拶が返っていった。



「おはよう」



 挨拶の波がおさまったのを見て、カイムも挨拶を口にした。



「うん。おはようストレンジくん。おや……?」



 ジュリエットの視線がカゲトラに向けられた。



「かわいい……」



「ジュリエット?」



「ううん。その猫は……ストレンジくんの猫かな?」



「ああ。カゲトラって言うんだ」



「そう。すてきな猫だね。


 けど、教室に猫を連れてきてはいけないよ。


 まったく、仕方が無い人だね。


 ここはこの私が……」



 ジュリエットはカゲトラに手を伸ばした。



 だがカゲトラは、その手をすっと回避した。



「うみゃ? みゃあ」



 急に何? 馴れ馴れしいよ。



 カゲトラはそう言うと、ジュリエットに見下したような視線を向けた。



 王族を敬わない無礼なカゲトラを、ターシャが睨んだ。



「無礼な猫ですね。


 飼い主のしつけがなっていないのではないですか?」



「ダメだよターシャ。猫さんを睨んだら」



「……はい」



 ジュリエットに窘められ、ターシャは敵意をおさめた。



 袖にされたにもかかわらず、ジュリエットは淑女の態度を崩さずにこう言った。



「いきなり触ろうとした私も悪かったんだよ。


 ごめんね。カゲトラさん」



「みゃう」



「『くるしゅうない』とのたまっておられる」



 カイムがカゲトラの言葉を代弁した。



「ストレンジくん、猫の言葉がわかるんだ?」



「なんとなくな」



「へぇ。凄いね。バイリンニャルだね」



「それで……今日は一緒にダンジョンだな。よろしく頼むぜ」



「うん。よろしくね。


 キミのことは私が守るから、


 大船に乗ったつもりでいてよ」



「いや。俺のことはいいから


 ルイーズを守ってやってくれ」



 後衛のルイーズをこそジュリエットは守るべきだろう。



 ダンジョン攻略の常識のような言葉を、カイムは口にしたはずだった。



 だが。



「レオハルトさんを……?」



 ……どうしたんだろう?



 ストレンジくんが何か妙なことを言っているぞ。



 ジュリエットはそんな感じの表情を浮かべた。



 だがすぐに、王子様の笑みを取り戻してこう言った。



「まあ、同じパーティだからね。


 前衛としての役割は果たさせてもらうよ」



 それからカイムたちはホームルームまで時間を潰した。


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