その19の1「ジムと報告」



 マックスの言葉を否定した後、カイムは話を本筋へと戻した。



「とにかく、ルイーズは有名人みたいですから、


 3年の先輩がたにも


 何かしらの噂が届いているのではないかと思ったのですが、


 どうですかね?」



「少しなら知ってるけど、


 ぼくが知ってる程度の噂なんて、


 みんなが知ってるようなモノばかりだと思うけど」



「それで構いません。


 俺は転校生なんで、


 ここだと常識レベルの噂でも


 ぜんぜん知らないんで」



「……噂を知ってどうするの?」



「間違った噂に関しては、


 真実を明らかにしたい。


 そう思っています」



「そう。たいへんだよ?


 レオハルトさんに関する噂は


 種類が膨大だからね。


 それをぜんぶ調べようっていうのは……」



「しらみ潰しのようなことを


 する必要は無いと思っています。


 主要な噂のいくつかを


 きっぱりと嘘だと証明できれば


 他の細かい噂に関しても


 鵜呑みにされることは


 少なくなるのではないでしょうか」



「うん……。


 ぼくが知ってる噂だと、


 一番スケールが大きいのはアレかな。


 クリューズ帝国の東部には、


 オンディーヌの湖という美しい湖が有るんだけど、


 その湖ができた原因が


 レオハルトさんの魔術だって言われてるんだよね」



「それ……学校の人たちはマジメに信じてるんですか?」



「え? どうかな?


 信じてる人も居ると思うけど」



「……まあ、それは良いです。


 ブッ飛んだ噂ですけど、


 悪い噂かと言われると


 それほどでも無い気がしますから」



「うん。野生の動物たちは


 水場ができて喜んだかもしれないよね」



「…………はい。


 もっとこう、身近な噂はありませんか?


 学校で何か事件を起こしただとか……」



「うーん。それなら……」



 ヨハンのネタが尽きるまで、カイムはルイーズの噂について聞き込みをした。



「……これくらいかな。


 ぼくが知ってるのは。


 そっちは?」



 大方のことを話し終えると、ヨハンはマックスに話を振った。



「俺も似たようなもんだな」



 ヨハンがそう答えると、アルベルトも同様にこう言った。



「そうだな」



 もうこれ以上の情報は得られそうにない。



 そう思ったカイムは、三人に礼をした。



「ありがとうございました」



 するとヨハンは親身な態度でこう尋ねてきた。



「他に何か、


 ぼくたちにできる事は有るかな?」



「とりあえずは自力でがんばってみます。


 何か難しい問題に突き当たったら


 そのときはまた相談させてください」



「うん。がんばってね。


 ところで、そろそろ夕食の時間だけど


 一緒にどうかな?」



「はい」



 ヨハンたちやカゲトラと共に、カイムは食堂へと向かった。



 そこで夕食を済ませると、カゲトラといっしょに自分の部屋に戻った。



 カイムは通学用かばんから筆箱を取り出した。



 そして筆箱の隠しスペースから、一つの指輪を取り出した。



 指輪には、黄色いイシがはめられていた。



 カイムは指輪を装着すると、ベッドの上に腰かけた。



 この指輪は、『念話の指輪』という魔導器だ。



 対応する指輪を装着している相手に、思念を送ることができる。



 遠話箱と比べ、決まった指輪にしかメッセージを送れないという不便さは有る。



 だが盗聴のリスクが低いというメリットが有り、スパイに好んで使用されていた。



 カイムたちハースト共和国のスパイにも、この指輪は愛用されている。



 スパイだけの秘密道具というわけではなく、普通の魔導器店に売られているものだが。



(ストロングさん。聞こえますか?


 こちらカイム。定時連絡です)



 カイムは指輪を使い、ハースト共和国のジムへと思念を送った。



 するとすぐにジムの思念が返ってきた。



(おお息子よ。学校生活はどうだ?)



 明るい調子でジムはそう尋ねてきた。



 カイムは正直に、自身が失態を犯したことを伝えた。



(最悪です。


 初日にして正体がバレるところでした)



(それはそれは。


 大失態だな? エピックセブン)



 どこか楽しそうにジムはそう言った。


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