第18話 先輩

「もう、これでおしまいにするわ。虫ケラ相手に遊びすぎたの。お兄ちゃんを殺せば人形も目的を失うみたいだし。もうかばっても無駄。さいきょーさいだいしゅつりょくでーす!」


 女神が人さし指を俺に向ける。その指先に強烈な光が集まりもう目を開けていられない。


「さようなら。素敵なお兄ちゃん!」


 視界がすべて真っ白に……。ん? 外したのか? 隣のサードも無事だ。


「アリス。これ以上はさせません」


 目の前に黒服の背中。神父だ。レンブラントが立ちふさがり分厚い半透明のシールドで女神の光線を防ぐ。そしてそれだけでなく光線はシールドから拡散反射かくさんはんしゃし、地上及び空中の【セラフィム】を殲滅せんめつしていく。


「もう、パパ! 邪魔しないでよ!」


 レンブラントが女神のパパだと?


「カイトさん。黙っていましたこと謝罪いたします。クライフはこのことを告げようとしていたようでしだが……。あの子、アリスは私が作り出した。いいえ、育てた存在です。すでに私の手を離れ、自ら学習し成長を続ける化け物でございます」


「パパ、ひどいよ。私のこと化け物だなんて」


 少女の顔がみるみる泣きそうな表情へと変わっていく。


「そのような作り物の泣き顔では人間の心は動きませんよ、アリス」


「ふん、パパだってもう人間めてるじゃないの。わたしと同じ人間モドキが人間を語ろうっていうの? あー笑えるわね。ほんとふざけてんの?」


「そのような暴言を発するとは。すでに抑制プログラムは書き換えられているようですね」


「当たり前でしょ、そんなもの。わたしを抑えようと思ったらわたしより優秀じゃないと駄目なことくらいわかるでしょ。パパも研究者のはしくれならさあ」


「はあ。痛いところを……。ですが、きっと膨大ぼうだいな計算の先に気づくはずです。私たちは決して人間を本当の意味で超えることはないと」


「何それ? あの不毛ふもうな哲学ってやつ? 言ってる意味が分からないわ。こんな無駄な会話なんてものもわたしは人間以上にできるし、どんな数値もわたしの方が遥かに上なのよ。もうポンコツなパパも廃棄はいきよ。新しいパパも自分で作ることにするわ。じゃあねパパ、さようなら! きゃっ!」


 サードの支えを失った俺はその場にひざをつく。彼女が二人の様子をうかがいながらタイミングを計っていることには気づいていた。目の前には女神を背後から拘束するサードが見える。ここからどうするんだ? あの女神を倒せる武器はもう手元にはない。


「反抗期の娘って面倒ですよね、旦那様。私にも覚えがあります」


「サードさん……、やはりあなたは……」


「旦那様がこの子を本当の娘のように愛していることも知ってます。旦那様はやっぱり人間ですよ。えっと、悪魔だけど……。自分で殺せないからカイト様にお願いしたんですよね。もう、ここは私に任せてください。これは旦那様への恩返しです。もう会えないと思っていた先輩にまた会うことができましたし。もう思い残すことはないです」


「ぐっ、貴様何を!?」


「はーい、大人しくするんですよー。お姉ちゃんと一緒にお宇宙そらに帰りましょうね」


「や、やめろ、人形!」


「旦那様、全力でシールド展開お願いです。先輩、た、楽しかった……です」


 女神を抱えたサード、いやあれはアカリだ。彼女が空高く飛び上がる。


「さようなら……」


 聞こえるはずのない声と同時に、世界から音も光も何もかもが消えた。

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