第15話 あなた。愛しています。

✳︎クライフ視点


「偽物と分かっていてもこれはキツい……」


『……。クライフさん、心中お察しいたします。ですがあの『戦少女ヴァルキリー』を抑えられるのはもうあなたしかいませんので……」


 旦那様の通信が耳に装着した魔道具に入る。


「ええ、旦那様。承知しておりますとも。あれはかつての我が右腕であり、我が最愛の妻の亡霊……。必ずやこの手で葬り去りましょう」


 こちらからの声は旦那様はひろえない仕様だが、あの方のことだ何らかの方法で聞いているかもしれない。


 私は毎年行われるこの祭典が嫌いだった。女神役として登場する目の前の『戦乙女ヴァルキリー』、コイツの顔を見たくないのに、遠くから毎回確認している自分がいた。女神に奪われた妻の遺体が兵器として再生された。私が昔与えた剣も、昔教えた剣の技もそのままに。あの女神は私を恐れている。彼女の秘密を知る私を。だからコイツを側に置く。ああ、全ては自分のせい……。


「あなた。愛しています」


「ええい! 口調まで真似て愚弄ぐろうするか!」


 彼女の剣が頬をかすめる。技の美しさも、声も、そのすべてがあの頃の彼女のまま。老いに必死で逆らおうとしてきたが、残酷なまでに突きつけられる現実。旦那様にはああ言ってみたものの勝算はない。だが。


「女神ののぞき見で私のことをすべて把握しているつもりだろうが、人間という生物は『創造性』の一点において貴様らを凌駕りょうがするのだよ」


 この日、この瞬間のために脳内で何万回もシミュレートした動きを身体に伝える。いける。今の自分なら一瞬とはいえ全盛期の動きすら上回れる。全身の細胞ひとつひとつが湧き立つのを感じた。


「悪く思うな最愛の……。【極技 薤露蒿里かいろこうり】!」


 私の存在は剣そのもの。生涯最高の突きの一撃が彼女に放たれる。


「あなた。愛しています……」


「はっ!? ぐあっ!」


 相打ち? いや彼女の剣の方が速かった……。私の胸を彼女の剣が貫いている。


「ど、どうして避けられただろうに……。私の剣を受け入れた? ぐはっ……」


「あなた。愛しています」


 彼女の胸にも剣が……。どうしてコイツは避けなかった。分からない……。彼女は妻の姿を真似た人形では無かったのか? 意識が遠のいていく。分からない……、だがもういい……。続きはあの世で彼女に聞けばよいのだから……。


 

ーーーーーーーーーー


「クライフ!」


 彼が放った必殺の一撃。その上をあの人型はいっていた。あの一瞬は俺にもはっきりと認識できた。しかし結果は相打ちだった。折り重なるように倒れ双方もう動かない。


「もう、どうして言うこと聞かないのよ! だめね、できそこないは」


 空中のワンピースの少女がそう吐き捨てた。


 あの人型に対して言ったのだろうが、なぜか俺にはどうしてもその言葉が許せなかった。


「黙れ!」


 俺の搭乗するキャバリエは俺の意思に即座に反応し一気に上昇した。


「!?」


 驚いた顔の女神。


『近距離速射砲ヲ選択。実行シマスカ、他ノ選択……』

 

 アシスタント音声が聞こえ始めたと同時に俺は撃ちまくった。


「ふふっ」


「くっ!」


 半透明のシールドで女神はすべて防ぎ切って見せた。俺はさらに急上昇し距離を取る。俺の意思がダイレクトに反応するようだ。だが、これではヤツに届かない。


『搭乗者ニメッセージガアリマス。録音データヲ再生……』

 

 なんだ?

 

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