八月三十二日
八月三十二日について思いを馳せるのも今年で最後になるんだろうな、と漠然と思った。今年で高校生活も終わりだから、それに伴ってこの感情も消えてしまうような気がしているからだ。来年からは大学生になってこんな感情なんて抱かせないくらい忙しくなってしまうだろう。
死ぬには今日が最後な気がした。この日を逃せばきっと二度とこの感情は巡ってこなくなる。
首にかかったネクタイを引っ張る。ドアノブが軋んで、ネクタイの輪っかが広がった。毎年、この時期によく見る光景だった。
そして毎年この輪っかがほどかれる瞬間を眺めている。
死ぬ理由なんてもう覚えてはいなかった。特段、苦しいこともない。特段、楽しいことはない。だから、刺激をもらおうとしたような気がする。
けれど結局得られたのは虚しさで、やっぱり死ぬしか無いような気がし始める。この世界に意味がないように思えてしまう。きっとそんなはず無い。そう思ってる。
そんなことを思いながら今年も輪っかに首をかけた。
今年はどうなるんだろうな、なんて思いながら。 首の位置を調節しながら、一番苦しくなれる場所にネクタイが来るようにする。この場所だけははっきりと覚えていた。
あと少しで八月も終わる。
八月は三十一日で終わる。
三十二日なんて存在しない。
もう、九月になった。
自分の鼓動がわずかに遠のいたのがわかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます