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月は穴だと思っていた。真っ黒な夜空に空いた穴。だから、新月の夜はその穴が塞がって、完璧な夜空になれる日だと思っていた。だから、兄ちゃんが満月の晩に生まれたと言っていて、兄ちゃんは穴の開いた夜空の日に生まれてきたんだと思った。

 けど、実際は欠けた夜空の日に生まれてきていたのは僕だった。


 満月の日。夜空を見上げれば、穴は完璧に空いていた。僕は一人、ベランダに出てその月を眺めていた。じっと見つめていれば月が遠いような、近いような、変な感覚になる。

風が吹いてカーテンが揺れる音がしてうしろを振り返える。そのまま月明りに照らされた部屋の中に視線を向ければ、布団の中で兄ちゃんが起きていた。うっすらと開いている目に僕を映して、何か言おうとしていた。

「月に行ってくる」

 告げるつもりはなかった、これからすることを報告すれば、兄ちゃんは再び、目を閉じた。

 僕は場所を移動する。

 ベランダの柵を乗り越え、すぐあらわれる屋根の部分に足をおろす。ベランダのスリッパは、心もとなかったけど、ゆっくりと、ゆっくりと、移動する。屋根の淵まで辿り着ければ 今度は石の塀がある。その上に足を置いて、塀から落ちるように地面に飛び降りれば、尻餅をつきながらも僕は家からの脱出に成功した。

 いつか、兄ちゃんがこの方法で外に出ていて、危ないと怒られていた。兄ちゃんの事を考えると、足が止まりそうになる。だから、兄ちゃんのことを考えないように頭をグーの手で叩く。

 僕は歩き出す。歩き出しながら、今までのことを考えていた。



 学校へ行くのが憂鬱だと思ったことはなかった。だから、一回も休みたいとか、行きたくないなんて言ったことない。むしろ勉強は楽しいし、本も沢山読める。それまでの担任の先生は僕に沢山の事を教えてくれた。勉強も、読書も僕は好きなことに真っすぐでとってもいいと、褒めてくれた。だから、僕は僕のしたいことだけ、していた。僕はそれがあれば学校が楽しいと思っていたから。けど、その先生が学校を辞めてしまって、新しく担任になった先生が僕のことを心配していると言われて頭の中が疑問符だらけになった。

 “朔さんはいつも勉強を頑張っていて、本を沢山読んでいるところは、とても良いですけどね。でも、友達と一緒に遊んでいるところを見たことが無くて心配になります。”

 小学五年生の家庭訪問の日、先生ははっきりと、端的に僕のことを母さんに告げた。僕に友達がいないことが心配で心配で仕方がないと、深刻な顔で先生が伝えるものだから、お母さんも段々深刻な顔になって、しまいには俯いてしまった。

 先生が帰った後に、お母さんは僕に事実確認をして、肯定をした僕に落ち込んでいた。

 なんで落ち込むんだろう。

 そんな僕の家庭訪問とは真逆に、兄ちゃんの担任の先生が告げた「友人も多く、サッカーをいつもみんなとしていて良いですが、勉強をもう少し頑張って欲しい」という兄ちゃんの評価にお母さんは安堵していた。

 お母さんが時々、僕のことを目を丸くして見ているのを知っている。兄ちゃんには、そんな顔しないのに、目をまあるく見開いて瞳のなかいっぱいに情報を集めて理解しようと努める。

お母さんの目には、僕がどう映っているんだろう。


「何、読んでんのっ」

 そう言いながら肩を強い力で押される。教室で一人、本を読んでいれば、時々こういうことが起こった。

 クラスメイトのタクミくんは、いつも絡んでくる。本を読んでいれば、その本のタイトルを読み上げて、馬鹿にしてきたり、小突いてきたりする。何て言おうかと考えれば、「バッテン菌が付いた~、喋れなくなるぞ~」と言って、近くのクラスメイトに手を擦り付けていた。

バッテンとは、バツ印のことで、しゃべらない僕のことを指している。口にバッテンが貼られているようにしゃべらないからだと気づいてなるほどとなった。

 タクミくんはそのまま、他のクラスメイトと話し出して、僕に今言ったことなんて忘れて笑顔で話しをしている。ほっといてくれればいいのに。

 こういう時、なんだか僕はロボットになったみたいに、動けなくなる。ちゃんと意識はあるのに、どこかに閉じ込められてしまっているような感覚になって、いくら文字を読んでも本も読めなくなるし、何も言葉が出なくなる。僕は自由に動いていいはずなのに、僕が何をしていてもまるで悪いことをしているかのような気分になってくる。

 五年生のクラス替えが起きてから、タクミくんは同じクラスになった。今まで話したことなかったけれど、明るくて、サッカーが得意で、いつも笑顔のタクミくんは、人気者と呼ばれる人物で友達も多いのは傍目から見てもわかった。でも、時々、信じられないくらい意地悪なことをする。僕にも時々、今のような意地悪をするが、それ以上に井出さんという女の子に対して、タクミくんはきつく当たった。

 井出さんに目を向けると、一人で静かに席について、何もせず休み時間を過ごしている。井出さんは僕の三つ前の斜めの席に座っていて、いつも目に入るのは後ろ姿だった。僕が教室にいる休み時間は、いつも今のように一人、静かに座っており、誰かと話しているのは、あまり見たことがなかった。

 そんな井出さんに、タクミくんは時々ひどいことをしているのを見る。意地悪な言葉を投げつけ、俯かせ、さらには井出さんの物を投げたり、水浸しにしたりする。井出さんの持ち物はいつもボロボロになっていた。僕が知らないだけで、他にもきっと、色々な事をしている。

 チャイムが鳴れば、先生がやってきて算数の授業が始まる。授業をしている時が、ずっと続けばいいのに。なんて、僕は思う。


 お昼休みに、図書室に行き、外国の児童文学にコーナーに読んでいるシリーズの本を見ようとすれば、先客がいた。

「あっ、朔くん。こんにちは」

 さとうさんは、図書館の住人だ。僕が行けばいつもいて、何か本を選んでいる。

最初に話した時のことはよく覚えている。僕がシリーズものの図鑑を借りようと手に本を二冊持っていれば、突然声をかけられた。いつも、見かけるなと思っていた上級生は、僕の持っている本を見て、「それ、三巻が抜けているけどいいの?」と言った。確かに、よくよく見て見ると、僕の手には二巻と四巻があり、借りようと思っていた三巻が抜けていた。一瞬見ただけなのに、なんでわかったんだろう。そう思って顔を見つめれば、「さっき、本棚を見た時に三巻だけないなと思ったから。その本棚からそのままとったなら三巻はないから、いいのかなって」と言った。

 それから、さとうさんと僕は話をするようになった。僕はそれまで図鑑や歴史の本を好んで読んでいた。けど、さとうさんは物語の本が好きなようで、僕におすすめの本を教えてくれた。物語の本は僕には難しい。なんで登場人物がこんな事をするのか、気持ちがよくわからなかった。そんな時、さとうさんに聞けば、わからない部分を解説してくれる。それ以外にも、僕の考えていることを静かに聞いてくれた。

大きな声で話せば、怒られるから、こそこそと今日考えたことを伝えれば、さとうさんは、頷きながら話を聞いてくれた。

「……じゃあ、その井出さんっていう女の子が「変」で、タクミくんって子に意地悪されているの?」

 頷けば、さとうさんは「そっか、そっか」と言って、悩み始めた。

「井出さんって、背の高い、女の子だよね。朔くんのクラスで、背の順だと一番後ろにいる…」

 そのとおりだったので、大きく頷く。僕よりも背が高くて、順番はわからないけれど、後ろのほうにいたと思う。

「じゃあ、あの本を読んでみればいいよ」

 さとうさんは、僕を置いて歩き出す。後ろの方をついていけば、ヤングアダルトの本のコーナーだった。一冊の本を手にとって、僕に渡した。


 家に帰り、リビングのソファに座ってあの本を読めば、近くに来たお母さんが目を丸くして僕を見た。表紙を確認したら「ちょっと貸して」と言われたので、渡せば、パラパラ中身を確認する。早く読みたいのに。そう思いながら、待っていると、お母さんは少し怖い声を出して僕に聞いた。

「なんで、この本借りたの?」

「おすすめされたから……」

「誰から」

 名前を出せばその人が怒られそうな予感がした。だから、図書館のおすすめのコーナーにあったと説明すれば、「そっか」と納得された。早く返して欲しいのに、お母さんは僕をじっと見つめたまま、何か言いたそうにした。

「なんで」

 言葉はそこで止まった。お母さんは無言で本を僕に渡した。「宿題、ちゃんとやるのよ」と言って、そのままリビングから出て行った。

 きっと、寝室へ行った、母さんはいつもそうだった、何か言いたそうな顔をした後、僕たちに入っちゃダメと言っている寝室へ閉じこもる。

 なんで。その後に続きそうだった言葉なんだったのだろう。なんで。なんで。言葉を反復していれば玄関から兄ちゃんの声が聞こえた。

「ただいま~」

 ドタドタと帰ってきて、手を洗い、うがいをして、僕の隣に座って、キッチンから持ってきたおやつを食べ始めた。おせんべをボリボリ齧りながら牛乳を飲んでいる。

「朔、何読んでんの?」

 そう言って、僕の本の表紙を覗き込んだ。

 すると、すぐに眉をしかめて、僕に聞いて来た。

「お前、なんで、女の子の本読んでるの?」

「え?」

「だって、これ……、女の子が読む本だよ。表紙はピンクだし、絵だって、これ、少女漫画みたい」

 そう言われて、表紙を見る。確かに、兄ちゃんが言ったとおりだったけど、だから、なんなんだろう。

「読んだ方が良いらしいから、読んでる」

「ふ~ん、そっか……」

 おせんべいと牛乳を胃の中に収めた兄ちゃんは立ち上がる。

「俺、今から公園にサッカーしに行くけど、一緒に行く?」

 誘いに首を振れば、「俺行ってくる」と言ってまたドタドタと玄関へ向かい「行ってきまーす」の声とともに行ってしまった。

 静かな空間に戻ったリビングで、本の続きを読む。

 主人公は、女の子。可愛いものが好き。けど、それは嘘で、両親から可愛いものを好きにさせられた。本当は、格好いいものが好き。だから、可愛い主人公を求める人に対抗していく。けれども、主人公は負けてしまう。両親、友人、近所の人々の声に。主人公は、可愛いものに包まれたまま、生きていくことを決意する。そんな主人公の前に、自分が理想とするかっこいい女の子が登場する。そんな女の子を見た主人公は自分で、自分の長い髪を切る。そこで、物語は終わる。

 

「どうだった?」

 次の日、図書室に行って読み終わった本を返し、さとうさんの姿を探せば、やっぱり本を選んでいた。読み終わったことを伝えれば、そんな言葉を返された。

 なんで、最後に女の子が髪を切ったのかわからなかったと伝えれば、さとうさんは解説をしてくれた。

「女の子らしい子はみんな髪の毛が長いから、それを切ることによって、可愛いと戦おうとしてるんだよ」

また静かな声で解説をしてくれた。

「井出さんがタクミくんから見て変なのは、男の子みたいな恰好しているからだと思うよ。いつも男の子みたいな服を着ていて、髪の毛も短い。だからだと思うよ」

 僕は井出さんの姿を思い出す。いつもズボンをはいて、男の子が着るような服をきていた。髪の毛も僕より短く、刈り上げていて、ふと見た時、男の子だと勘違いした時があった。

「女の子なのに、男の子みたいだから、変なんだよ」

 読んだ本にも書いてあった、男の子みたいな恰好をした、かっこいい女の子は、主人公の憧れの対象であったけど、他の人からはからかわれ、「おかしい」と、言われていた。

「変、なの?」

「変なんだよ、タクミくんから見て」

 タクミくんが井出さんに意地悪するのは、井出さんが男の子みたいだから。

図書室から教室に戻れば、またタクミくんが井出さんに絡んでいた。

「井出くん、何してんのっ」

 タクミくんは、そう言って静かに座っていた井出さんの机の上にあったペンケースを取り上げた。そして、そのまま流れるようにスムーズにチャックを開けて、中身をばらまいた。

 鉛筆、消しゴム、定規、それらは空中で飛散し、井出さんの机の周りに落ちていく。最後に空っぽになったペンケースを井出さんの机に投げつける。それで、満足したらしいタクミくんは、笑って自分の席に戻り、友達とクスクス笑い、教室から出ていく。

 じっとしていた井出さんは、ゆっくりと動き出し、散らばったものを拾い始めた。後ろから眺めていた僕からは、井出さんがどんな顔をしているのかわからなかった。

 借りてきた本を自分の机に置いて、井出さんの近くに行く。そのまま落ちていた一本の鉛筆をしゃがんで手にとる。

 同じようにしゃがんで床に落ちた物を拾っていた井出さんに、鉛筆を差し出せば井出さんはこちらを見た。後ろ姿が目に焼き付いてた井出さんの顔には目があり、鼻があり、口があった。そして、その顔の目は泣きそうだと、僕にもわかった。

 井出さんは、目を丸くしてこちらを見た。

「あ、ありがとう」

 お礼の言葉を言って、井出さんは鉛筆を受け取る。

 頭に言いたい言葉が溢れた。それを伝えたい。けど、上手く口からは、出てこない。

「かっこ、いい、ものが、好き、なの?」

 数秒たって出てきた問いかけに、井出さんは戸惑った顔をした後、返答をくれた。

「うん、かっこいいのがいい」


 井出さんと話すようになった。僕は知りたかった、井出さんが「変」なのか。なんでタクミくんが嫌な事をするぐらい「変」なのか。

 教室で話せば、タクミくんに意地悪をされるかもしれないから、こっそりと話をした。タクミくんの来ない、図書室だったり、校庭の隅だったり、人があまり通らない階段だったり、そういった場所は探せば沢山あった。

休み時間の校庭の端っこの木の陰で、僕たちは話をする。

 井出さんは、かっこいいものが好き。それは、記憶がある時からずっと、そうだったらしい。

「幼稚園の時、人形遊びなんて、やりたくなくてさ、紙の剣で戦ってたら怒られた。女の子は、そんなことしちゃいないって」

 井出さんのお母さんはいつも、ひらひらの洋服を着せてくれたらしい。

「でも、スカートも、ツルツルの靴も嫌い。ズボンがいいし、スニーカーがいい」

 僕と同じでお兄ちゃんがいるらしく、おさがりの服を着ていて、髪の毛はお父さんに切ってもらっているらしい。

「お母さんは怒るけど、お父さんは好きな恰好すればいいって言ってくれてる」

 タクミくんの話をすれば、井出さんの顔が暗くなる。

「クラス替えの後、一緒にサッカーしようとしたら、仲間外れにされたんだ。おとこおんなは入れてやんないって。今まで一緒にやってたのに」

「サッカー好き?」

「うん。お前は?」

「あんまり」

「なんで?楽しいじゃん?」

「サッカーボールが生き物に見えて蹴りたくないんだ」

 井出さんは首をかしげて「どういうこと?」と聞いた。

「ボールを蹴ると、自分が蹴った方向とは真逆の方向に行くときが、あるから。もし、ボールが自分で動いてたらって思うと、蹴りたくない、なって」

 井出さんは、聞き終われば「あはは」と口を大きく開けて、笑った。

「確かに、俺も思うよ。顔面にボールがクリーンヒットした時とか、顔面に向かってボールが勝手動いたみたいだしな」

 兄ちゃんに言った時は、「お前、何馬鹿な事言ってんだよ」と苦笑いされた。否定されなかったことが僕は、少し嬉しかった。一通り笑い終わった後、井出さんは言った。

「…お前、ちゃんと話せるんだな。いつも黙ったまんまだから、話せないんだと思ってた」

 頭に現れた言葉がそのまま口から出てくればよかったのに。頭の中の僕の言葉は、口の中でぐちゃぐちゃに絡まってしまう。口の中から出てきたとしても、ぐちゃぐちゃの言葉は相手の耳に入る時にはもう見る陰もなく、絡まっていて、何も伝わらない。

「言葉が絡まっちゃうから」

 そんな事しか、口からは出てこなかった。

「言葉が絡まる?」

「……思ったことが、沢山あって、混ざったり、増えたり、消えたりする。だから、時間がかかるだけ」

「ふ~ん……」

 納得したような、わからないような反応をして、井出さんはまた別の話をし始めた。

 僕たちの会話は、僕が井出さんの話を黙って聞いている時が多かったけれど、井出さんは僕の話も聞いてくれた。

 お母さんの目が丸くなって僕を見ること。いつか、宇宙飛行士になって月へ行きたいこと。井出さんはわからない部分を聞き返してくれる。それは何? こういう意味? 僕の考えをはっきりと理解出来てから、返答をしてくれる。そんな人は僕にとっては初めてだった。

「いいじゃん。月へ行ったら、六倍浮くらしいよ。楽しそう」

 井出さんは笑った。

 井出さんは変なんかじゃなかった。僕からしたら、突然、小突いてきたり、ひどいこと言って、平気な顔をしているタクミくんのほうが変だと思う。

 けど、タクミくんは、そんな僕と井出さんのことを見つけてからかうようになった。

 僕らが休み時間に一緒にいなくなることにタクミくんはいつの間にか気が付いたらしい。

 その日、僕たちはお昼休みに図書室に来ていた。僕は、さとうさんに教えてもらったあの本を、井出さんに読んでもらいたかった。これだよ、と言って本を差し出した時だった。

「井出くんと、バッテンがラブラブだ~」

 タクミくんだった。後ろにいつも一緒にいる数人の友達が一緒になって笑っている。

 大声でそんなことをいうものだから、周りにいる他の人の視線は僕たちに注がれる。大声で叫んで恥ずかしいのは、タクミくんのはずなのに、視線を浴びるのは僕たちだった。

「お前ら、デキてんのか~、図書室でデートいいなあ~」

 そう言って、僕の事をからかう。嫌な事があったら、やめてほしいと言わないといけないのに。言わないと、言わないと。なのに、言葉がでない。思わず、強く手を握りしめる。

「やめろよ! なんで、そんなからんでくるんだよ!」

 僕が言いたかった言葉は、井出さんから出てきた。言い返しているとことなんて見たことないのに。井出さんは叫ぶように、大きな声だった。

 驚いた顔をしたタクミくんは、言い返されたことが悔しかったのか、不機嫌な顔になる。

「お前らが、変だからだろ! 変わり者同士でくっついてろよ!」

 騒がしさに気付いた図書室の先生が来て、僕たちは全員、怒られることになった。


 五時間目の授業は自習になり、担任の先生が、一人一人の話を聞くことになった。先生と二人きりの相談室で僕は一生懸命、伝えようとした。悪いのは、タクミくんです。ひどいことを言うんです。井出さんは、悪くないです。先生は、うんうんと頷いたのに、僕の言葉はまったく意味のないものように扱われた。

「先に言った、タクミさんが悪いですが、井出さんもそんなまともにとりあう必要なかったと思うな。タクミさんには、先生がちゃんと話をしておくから」

 それだけだった。

 タクミくんは、先生に言われ、つむじを僕らに向けながら、僕と井出さんに「ごめん」と言った。でも、それは口から出した「ご」と「め」と「ん」が並んだだけのものだった。

 放課後になり、帰りの会が終わり、先生が教室からいなくなる。その途端、タクミくんは井出さんに詰めより、言葉を浴びせた。

「お前が、騒ぐから怒られたじゃねえか」

 井出さんは口を噤んだまま、タクミくんをじっと見つめていた。

「先生も、言ってた。お前らがいくら変わってても、そんなこと言うなだって。お前ら、やっぱおかしいんだよ」

 僕は急いで井出さんに駆けよった。

「お前なんて、女のくせに男みたいな恰好して、気持ち悪いんだよ」

 僕は井出さんの背後に立つ。そんな言葉なんて聞かないでほしくて、井出さんの耳を僕の両手で塞ごうとした。でも、遅かった。

「学校、来るなよ!」

 井出さんは泣いていた。


 井出さんは、学校に来なくなった。

 あの放課後、教室を飛び出した井出さんが僕の見た最後の姿だった。

 一日、二日、三日と、過ぎていく。なのに、教室は変わらない。三つ前の斜めの席は空席なのに、先生は、井出さんについて何も言わないし、タクミくんたちは、井出さんなんていなかったみたいに笑っている。

 さとうさんに話をしたかったのに、いつ図書館に行ってもさとうさんは、いなかった。廊下ではすれ違ったから、学校にはいたはずなのに、さとうさんに、井出さんのことを伝えたかったのに。

 僕は、悩んだ末、先生に聞くことにした。休み時間に、先生を呼び止めて、あの放課後の事を伝えれば、先生はため息をついて話をしてくれた。

「井出さんから聞いて知ってるよ。今、井出さんと話している最中だから。あなたは、関係ないでしょう? 井出さんのことについては、静かにしていてあげて」

 僕と井出さんを「変わってる」と言う先生には、僕の言葉が伝わらないようだった。

 僕は黙っていた。だから、いつか井出さんはひょっこり学校に現れるんじゃないかと思って、毎日ギリギリの時間まで、学校の玄関の入り口の隅で待っていた。けど、井出さんはいつまでたっても来なかった。

 時間は過ぎて、夏休みが始まった。勉強をしていても、本を読んでいても、プラネタリウムに行っている時も、ふとした瞬間に井出さんのことを思い出してしまう。電話をしてみようか、家に会いに行ってみようかと、何度も考えた。けど、実行に移すことは出来ず、新学期になった。

その日の朝の会で先生は「お知らせがあります」と告げた。

「井出さんはご両親の仕事の都合で、引っ越しをすることになりました。もう、学校に来ることはないです」

 その一言だけだった。

 井出さんの机がなくなり、僕の生活は井出さんと話をする前に戻った。

 学校に行くのが憂鬱だと思った。

勉強は楽しいし、本も沢山読める。けど、教室が異常だと気づいてしまった。タクミくんたちは、井出さんにしていたことを、僕にするようになった。ひどい言葉を言って、すれ違いざまに僕を小突き、ペンケースの中身をばらまき、僕の教科書をこっそりと水浸しにする。僕が「変」だから。「変」であれば、しちゃいけない意地悪をしてもいい、悪口を言ってもいい、からかってもいい、そんなことが許されているなんて、おかしいのに。

 休み時間はタクミくんを避けるため、いつも図書館に行くようになった。さとうさんはいない。読みたい本を探してうろうろとする。けど、何を見ても手は伸びず、時間だけが過ぎていた。

 いつも立ち止まる本棚があった。そこには井出さんに読んでもらいたかった本があった。それを手にとってパラパラとめくれば、最後のシーンだった。長かった自分の髪の毛を切る女の子は、かっこいい。かっこいいものが好きな女の子がいたって、別にいいじゃないか。

「バッテン、女の本読むのか~」

 突然横から現れたのは、タクミくんだった。僕の手にしている本を覗き込んで笑って、肩を強く押される。後を付けてきたのか、たまたま居たのかわからなかったけど、嫌なタイミングだった。

「井出と一緒にいたから、お前にも井出菌が移っちゃったのかもな~」

 言い返さないといけないのに。絡んでくるな、ほっておいて。井出さんに謝れ、謝れ、謝れ!

 頭の中に言葉はあるのに、僕の口は息を吸うだけでなにも出てこない。心臓を強く絞られるような感覚で苦しかった。俯いて、何もしない僕の事を、タクミくんは笑う。

「何してんだよ」

 突然現れたその声音は恐ろしいもので、声はいつも聞いているものだった。

「お前、朔に何してんだ」

 タクミくんの後ろから現れた、兄ちゃんは怒りの表情で、タクミくんは突然現れた六年生に驚いているようだった。

「朔、大丈夫か?」

 兄ちゃんは、僕を見る。大丈夫じゃないと首を振れば、兄ちゃんは俺の代わりにタクミくんと戦った。

 タクミくんの正面に立ち肩を掴んで、詰め寄る。

「朔がどんな本読んでようが、お前に関係ないだろ、今度朔に変なこと言ったらただじゃ置かないからな」

 一回り大きい兄ちゃんに詰め寄られ、タクミくんは怯えた犬のようだった。兄ちゃんが肩の手を離せば、タクミくんは逃げるように走り去った。

 兄ちゃんは僕の方を向き直る。「先生に言うか?」と聞かれたので、首を振れば、「母さんに言うか?」と聞かれたので、もっと大きく首を振った。

「兄ちゃん、なんで図書室にいたの?」

「最近、朔の様子が変だったから、教科書が濡れた後があるし、廊下であいつにぶつかられてるの見たから、だから、もし今度見つけたら、怒ってやろうと思ってて……」

 言いかけた兄ちゃんの後ろに図書室の先生が現れる。騒いでいる声が聞こえたのだろう。「やべっ」と言って、僕の腕を掴んだ。逃げるように走って、僕たちは図書館を後にした。

 お母さんには言わないで。そう言えば、言わないと約束してくれた兄ちゃんは「また何かされたら、言うんだぞ。俺がまた、そいつにガツンと言ってやる」と言ってくれた。

 けど、兄ちゃんが出る幕もなく、タクミくんたちは僕に何もしなくなった。教室にいても、肩を小突いてこないし、何も言われない。兄ちゃんがよっぽど怖かったらしい。兄ちゃんが怒ったぐらいで、終わるようなものだったのか、と僕は考える。兄ちゃんが上級生だったこともある、僕だって知らない六年生に怒られたら怖くて仕方ない。けど、そこじゃない。僕がもっと、大きな声だったら。思っていることを、しっかりと口から出すことができたら。井出さんは、井出さんはきっと。

僕は井出さんの耳を塞ぐことしか出来なかった。そんなことは、少しも役に立たなかった。


夜、眠れなくなった。兄ちゃんが隣で、ぐっすりと眠っている間、僕の目は開いたままだった。ゆっくりと起き上がり、窓の近くに寄る。カーテンを少し開けて、体育座りをして窓から見れる夜空を眺めれば丁度、半月が見えた。

僕は月が穴に見える。その穴に落ちればどこへ行くのか。ずっと考えていた。黒い夜空の反対は黄色い空がある世界があって、そちらから見れば月は真っ黒で僕と同じように月を眺めている人がいるかもしれない。そちらへ行けば、僕は「普通」になって、「変」じゃなくなるかもしれない。そんな想像をすれば気持ちが落ち着いてくる。目をつぶれば眠れるような気がして、布団に横になれば、いつの間にか眠っている。そんな事を毎晩繰り返すようになった。

寝る時間が足りなくて、毎朝起きるのが辛いし、授業中は眠くなる。居眠りをしてしまい、先生に怒られる。この先生に怒られるのが悔しくて、悔しくて仕方ない。けど、早く寝ることも出来なくて、僕はどうしようもなくなってしまった。

 ある日、僕は起きれなかった。僕が目を覚ましたのはもうとっくに一時間目の授業が始まっている時間で、急いでリビングへ行くと、母さんはテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。僕を一瞥すれば、「朝ごはん、食べちゃいなさい」そう言った。

 食卓に座ってパンを食べている僕を正面に座って母さんは眺めている。母さんの顔は、怒ってもないし、悲しそうでも嬉しそうでもない。何もわからなかった。僕がパンを食べ終わる頃、母さんはコーヒーを飲み干してこう言った。

「朔、今日、どこか、お出かけしようか」

母さんの突然の一言で僕は学校をさぼることになった。

車の乗って着いた先はショッピングモールだった。

 本屋さんに行って、本を買ってもらった。おもちゃ屋さんにいって、誕生日でもないのに新しいブロックのおもちゃを買ってもらった。母さんが買ってくれるというから、本もおもちゃも買ってもらってうれしかったけど、いつもと違うことが起きて、なんだかこれから何か悪いことが起こる前兆のような不安を感じてしまう。

そして、レストランに行って僕の好きなパフェを食べた。母さんはまたコーヒーを飲んでいる。

「朔、昨日の夜、遅くまで起きてたでしょう?」

 てっぺんにのっていたサクランボを口の中で転がしていれば、母さんは突然そんな事を言った。

「昨日の深夜、部屋を覗いたら、窓の外、眺めてたの、見たの」

 僕はサクランボを飲み込んだ。種を出さなかったと、焦ったが、もうサクランボはお腹の中に入ってしまった。

「なんで、起きてたの?」

 黄色い空の黒い月の世界に想いを馳せていた。僕が、変だから。そんな事を言えば、きっと母さんの目は丸くなってしまう気がした。だから、僕はなにも言えず、視線をパフェに向けたまま、黙っていた。

「……お母さんは、ずっと朔が心配だった。お母さんとそっくりだから」

 溶けたアイスがグラスの淵から垂れている。一滴、二滴、三滴と流れた時、母さんはなんだか不安定な声音でそんなことを言った。

「お母さんも、朔ぐらいの歳の時、朔みたいあんまり話すのが得意じゃなくて、ずっと苦しかった時期があった」

 パフェから視線を移して、母さんを見れば目を閉じて苦しそうに言葉を出していた。

「朔が話せるようになってから、お母さんみたいにならないでって、ずっと思ってた。けど、朔はぐっと、口を結ぶから、ずっと不安だった」

 僕と同じだった。頭の中で考えていることを伝えようとすると、苦しくて苦しくて仕方なくなる。

「朔の考えていることを無理やり口から出さなくてもいいけど、自分で考えきれなくなったら、誰かに話さなきゃいけないよ」

 母さんの目が丸くなる理由が分かった気がした。それは、瞳の中いっぱいに僕を受け止めようとしていた。それだけだった。

 話してしまおうか、井出さんのこと、タクミくんのこと。でも、話したくなかった。それを話したら、僕が「変」であることを認めてしまうような気がした。僕が、「変」だから、おかしいから、僕が苦しくて、眠れないなんて、言いたくなかった。

 僕が首を振り、何も言わないと母さんに示した。母さんは目を伏せて「そっか」と言うだけだった。

「……もし、朔が何か話したくなったら、パフェを食べに行きたいって言ってね」

 僕が頷けば、母さんも少し笑って頷いてコーヒーを飲んだ。

 その日の夜、買ってもらった僕のおもちゃを見て、母さんに詰め寄る兄ちゃんがいた。今度ね、と諭している母さんと兄ちゃんを横目に、僕は買ってもらった月の本を読んでいた。月は穴ではなく、惑星で地球と同じように球体で、僕が考えているような黄色い空の黒い月を見ている誰かはいない。

だから、僕はそちらには行けない。僕はここで生きて行かないといけない。密かな決意と共に僕は月の図鑑を抱きしめた。



 次の日、お昼休みの時、僕はタクミくんに話しかけた。

「一緒に、サッカーしてもいい?」

 給食を食べ終わって、校庭に向かおうとしているタクミくんに言う。タクミくんは目を開いて、こちらを見た。喋った、喋ったと、周りにいた同じくサッカーに行こうとしていたクラスメイトは声に出す。

 僕が正面から話しかけたことに驚いたのか、しばらくこちら見つめたまま動かなかった。

「……いいぜ」

 そう言って、タクミくんは教室を出て行った。

 まさかすんなりと、輪に入れると思っていなかった僕は驚きながらも校定へ行く。手早く二チームに分かれて、サッカーボールを蹴り合う。僕はタクミくんと同じチームにいて、みんなの動きについていけないけど、走ってみる。時々、兄ちゃんと一緒にサッカーをした記憶を思い出す。

ボールは意思を持っていない、だから蹴っても痛くない、だから蹴っていい。

 ボールをとりにいったり、ゴールを決めるのは苦手だから、僕の所にきたボールをちゃんとパスをすることしかしなかった。ボールを相手のゴールに入れられそうな人にパスをする。そんなことしか、しなかったのにタクミくんは「またサッカーしようぜ」と僕に告げた。

 兄ちゃんは僕がタクミくんと一緒にサッカーをしてることに最初は驚いて、やっぱりサッカーをすれば誰でも仲良くなれる、なんて、トンチンカンなことを言っていた。けど、安心しているように見えた。

 それから、僕は図書室へ行く代わりに、校庭へ行くようになった。サッカーをする。それは、楽しくない。けど、僕はサッカーをする。そうすれば、僕は普通だから。

 タクミくんは、僕に意地悪をしなくなった。僕がサッカーをするようになっただけなのに、タクミくんは僕に笑顔で話しかける。ゲームのこと、テレビのこと、とるにたらないくだらない話。僕は頷く。頷くだけなのに、タクミくんは満足したようだった。

 話しかけてこなかったクラスメイトが話しかけてくる。先生も、僕が一緒にサッカーをしている所を見て、よかったと言った。きっと、僕は普通になれた。そう、普通になれたのに。けど、曲がっている道を真っすぐ進んでいるような気持ち悪さがずっと付き纏っていて、落ち着かない。これが普通か、こんな意味のない会話と、サッカーと、僕の気持ちを推す殺すことが、普通。

 そんな日々が二カ月ほど続けば僕とタクミくんは友達になっていた。

ある日、雨が降っていて、校庭で遊べなかった。廊下に出て、僕はタクミくんと校庭を見ながら話をする。

すっかり僕を友達だと思っているタクミくんは、僕に言う。

「俺、お前の兄ちゃんのこと、憧れてんだ」

 よく聞けば、校庭でサッカーをしていた兄ちゃんを見ていてがかっこよく、憧れていた、ということだった。

「だから、お前が弟だって聞いて、友達になりたかったのに。お前、話しかけたら無視しやがって」

「え? そうだっけ」

「クラス替えした時、遊ぼうぜって言ったのにお前、こっち見たまま、ずっと無言だったじゃん」

 覚えている。僕が本を読んでいるのに、話したことないタクミくんが突然そんなことを言ってきたから、とても嫌だったことを覚えている。

「しかも、井出がサッカーさせろって、入って来るし……」

 タクミくんは思い出しながら、しかめっ面で呟くように言う。

「……どうして、井出さんとサッカーしなかったの?」

 僕と井出さんが友達だったことをすっかり忘れているみたいだった。

「だって、井出、女のくせにサッカーがしたいって無理やり入ってこようとするんだぜ? 男子だけでやるっていってるのに」

 井出さんの最後に見た顔を思い出す。泣いている顔が、ずっと離れない。涙は心臓を強く掴まれて出てくる液体だ。出てくるだけで、痛くて苦しいのに、透明で赤くない変な液体。タクミくんは泣いたことないのか? 自分の言葉で泣いている人がいるのに、心臓が痛くて泣いているのに。何とも思わないなんて。

「お前も、井出のやつと、変だと思っただろ?」

「……サッカーボールが生き物に見えて蹴りたくないんだ」

「は?」

「ボールを蹴ると、自分が蹴った方向とは真逆の方向に行くときが、あるから。もし、ボールが自分で動いてたらって思うと、蹴りたくないなって」

 タクミくんは目を丸くして、僕を見つめる。

「……お前、何おかしなこと言ってんの? ボールは俺らが蹴る事で移動するんだろ? 意思があるわけないじゃん」

 あきれたような声音で僕は否定される。

 やっぱり、やっぱり、僕は無理だ。

 僕はタクミくんから目を逸らす。そして、返答をしないまま、歩き出す。どこいくんだよ、と僕を呼ぶタクミくんの声が聞こえる。けど、僕は何もしない。僕の言葉を一つもあげない。お前なんかに、僕の言葉も、行動も、視界も、思考の一部も、何もあげない。

 僕は歩く速度をあげて、走り出す。学校の玄関に行き、上履きと下履きを履き替える。雨が降っているなか、僕は外へ走り出す。

 雨の中で、走ってみたい。プールで泳ぐと気持ちいいから、雨のなかで走ると、きっと楽しい、ずっと、そう思っていた。だから、僕は走る。髪が、顔が、服が、濡れてくる。校庭の泥で靴は汚れている。それでも僕は走る。

雨のなかで、僕は井出さんのことを考える。井出さんはきっと、僕と一緒に雨の中は走ってくれない。走ってくれないけど、笑ってくれる。僕はそれだけでよかった。

 先生が僕を捕まえにくるまで、僕はずっと校庭を走っていた。


 雨の中、走ったら僕の世界は元に戻った。タクミくんは僕をバッテンと呼んで、クラスメイトも話しかけてこないし、先生も僕に対してしかめっ面だ。けど以前のように意地悪はしてこない。相手に合わせるのは、簡単で、言葉を出すのも苦しくなかった。けど、僕はやっぱり、本を読みたいし、ブロックを作って、僕を否定しない人と話をしたい。

 先生には怒られて、母さんに電話までされてしまったけれど、僕はすっきりしていた。

 タクミくんが恨めしそうに僕を見つめることを僕は知っている。けど、それに一切、僕は反応をしない。だって、タクミくんはおかしいから。僕はやっぱり、そちらへは行けない。そんなところへ僕は行けない。

 けど、そんな僕を一人、引き留める人がいた。

「朔、サッカーしようぜ」

 以前であれば、断ると兄ちゃんはそのまま納得して僕を置いていったのに。今は無理やり腕を引っ張る。僕が黙ったまま、腕を引っ込めようとしても、兄ちゃんは僕の手を離さなかった。

「もっと、上手にサッカーできるようになれば、前みたいに遊べるようになるからさ」

 兄ちゃんの勘違いは、きっと、単純で僕がサッカーが下手だから仲間外れにされたと思っている。僕が説明してもきっと兄ちゃんは理解してくれないことはわかっていた。だって生まれた時からずっとそうだったから。

 放課後や休日に一時間、一緒にサッカーをすれば兄ちゃんは満足そうだった。

 その日も普通に兄ちゃんに付き合って、一時間だけ、サッカーをすればいいと思っていたのに。

 寒い冬の日。休日の公園で白い息を吐きながら、僕らはボールを蹴り合っていた。

「また、一緒に遊べるようになるといいな」

 突然、そんな事を言う兄ちゃんのボールを受け止めて蹴り返す。なんのことだろうと、思っていれば兄ちゃんは続けて言った。

「昨日、お前のクラスの奴と話したんだよ」

 え? 思いがけない言葉に僕の動くのをやめる。ボールは兄ちゃんの足元で止まっている。

「タクミってやついるだろ?そいつと話したんだけど、朔とまたサッカーしたいって言ってたぞ、朔のしたこと、全然気にしてないからって。明日、話しかけてみろよ」

 兄ちゃんはそう言って笑顔で足元のサッカーボールを蹴った。それは綺麗に、僕の足元に向かってきた。けど、ボールはそのまま僕の足にあたり、あらぬ方向へ転がる。

「朔?」

 ボールを蹴らない僕の名前を呼ぶ。けど、僕はそれどころじゃなかった。

「サッカーなんてやりたくない」

 脳に現れた言葉をこんなに大きな声で言ったのは、初めてだった。兄ちゃんは僕の大きな声にポカンと、驚いていた。けど、すぐに大きな声で言い返してきた。

「なんてって、サッカーできるようになれば、クラスの連中と一緒に遊べるだろ?」

 心の底からそう思っているような、そんな声音で言うものだから、僕の声の大きさは小さくならない。

「一緒に遊ばなくて良い」

「来年から、俺が居なくなれば誰も学校でお前のこと助けてくれないんだぞ」

 兄ちゃんの声も大きくなる。

「いい、助けてくれなくて」

「母さんが心配して、何回も朔は大丈夫かって心配してる」

「僕、おかしなことしてない」

「だから、ずっと一人でいるのがおかしいんだよ」

 その言葉は、タクミくんのバッテンというあだ名より、先生の言葉より、ずっとずっと鋭利だった。

「……それが、変なの?」

 尋ねれば、兄ちゃんは大きな声ではっきりと確信をもった声で言った。

「うん、変なんだよ」

 僕は踵を返す。「おい」という兄ちゃんの声も無視して、走り出す。涙は心臓を掴まれて出てくる液体だと思っていたのに、心臓を刺しても出てくる液体であることを僕は、初めて知った。公園から走る。

僕は、変。

僕は変。

僕は変。

タクミくんに言われても、先生に言われても、こんなことにはならなかったのに。兄ちゃんの口からでたそれは、僕には受け止めきれないものだった。

 それからのことはよく覚えていない。僕は家に帰り、自分の布団の中で丸まって、ずっと落ち着くのを待った。母さんが僕を揺すっても兄ちゃんは布団を叩いても、僕は布団の中から出なかった。

 ご飯も食べす、お風呂にも入らず、そのまま僕は眠った。次の日がまた休みだったから学校に行かずにすんだ。ゆっくり起きて、リビングへ行けば、兄ちゃんがいた。僕を見つければ、気まずそうな顔をしていた。

「おはよう」

 その言葉に、返事をしたいのに、僕の口は開かなかった。毎朝言っていた四文字の言葉。なのに、僕の口はくっついて、何も口から出せない。それはまるで、先生やタクミくんを前にした時のような感覚だった。兄ちゃんはあっちの人だった。僕が「変」に映っている、そう思うと僕は、なにも言えなかった。

「朔、ごめんな」

 いいよ、と言いたいのに、僕の視界の兄ちゃんはぼやける。泣いているわけじゃないのに、兄ちゃんを上手く見つめることができない。僕たちはそのまま、母さんが来るまで、向かいあっていた。けど、僕の口から、兄ちゃんへの言葉が出てくることはなかった。

 一日、二日経っても、僕は兄ちゃんの言葉に返答できなかった。お母さんに怒られる。ちゃんと返事をしなさい、いつまでもそんなことしてちゃだめだよ。兄ちゃんは、最初はずっと謝っていた。ごめんな、ごめんな。僕の顔を見ては、朝から晩まで繰り返す。けど、ずっと僕は兄ちゃんを見ることもできず、返事もできなかった。

 一週間たてば、兄ちゃんの謝罪の言葉は減ってきて、逆に怒りを含んだ言葉が多くなる。もうそんな怒るなよ、謝ってるじゃんか。さらに一週間たてば、それは悲しみになったようで、兄ちゃんは僕に謝る。その姿を見て、僕は苦しくなるけど、僕の口から言葉はでてこなかった。

 そこからは、もう諦めになったようで僕と無理やり口を聞こうともせず、ただ同じ空間にいるだけになった。僕らは、会話をしないままだった。そのまま、兄ちゃんは小学校の卒業式を迎える。お母さんはその準備で忙しいようで、僕らの喧嘩を最初は仲裁していたのに、もう諦めたように見える。

四月になり、中学校の制服を着て、兄ちゃんは小学校に向かう道とは反対の通学路に毎朝、向かうようになった。

 僕は六年生になった。けど、担任の先生もクラスメイトも変わらない。そのまま、同じままだった。



小学六年生の家庭訪問の日になった。

“朔さんは勉強ができてとても良いですが…。去年は、友達と遊んでいる時もあったのに、今は前のように一人でいることが多いようですね、来年、中学生になるので、もっとクラスのみんなと関係を築けるように努力しましょう”

 母さんは俯きもせず、ただ先生の言葉を受け止めていた。先生が帰った後、僕は言いたいことがあったのに、母さんはすぐに寝室へ行ってしまった。

 その日の夜、僕は昼間に母さんに言えなかった事を、こっそり起きて話に行こうと思ったのに。

 泣いている声が聞こえると思って、立ち止まる。リビングのドアを少し開けたままで、声はしっかりと聞こえた。

「もう、どうすればいいのかわからない」

 母さんの声は震えていて、母さんの泣いている姿を初めてみた僕は驚いた。泣いている、母さんが泣いている。

「ずっと、望に見ていてもらったけど、もう見れないし、私が聞いても何も教えてくれない。学校でいじめられていた時もあったのに、夜眠れなくなったりもしているのに、何も言ってくれない。今度は、望とも口を聞かない。何を考えてるのか、何もわからない」

 上擦った声で言われているのは、僕のことだった。僕のことで、泣いていた。きっと母さんは心臓を絞られてしまっている、その原因は僕だった。兄ちゃんはタクミくんのことを、母さんに言っていた。その言葉たちが一気に僕を押しつぶす。怒られている時よりも、手足の血が無くなる感覚が襲ってくる。

 パフェ、食べにいきたいと伝えるはずだったのに、その言葉は消え去ってしまって、僕は一人、部屋に戻っていた。眠っている兄ちゃんの横の僕の布団に潜りこむ。カーテンの隙間から夜空が見えた。

 空にはまん丸の黄色い穴があった。僕はそこから目が離せなかった。

 その日から僕の頭の中は靄がかかったみたいに、不明瞭になった。勉強をしていても、本を読んでいても、いつの間にか意識は、空の月に向いてしまう。ブロックで遊んでいても、眠ろうとしても、いつの間にか、僕は空に空いた穴を考えている。

 


 井出さんとの再会は、思いがけず訪れた。学校からの帰り道、川を渡るための橋の真ん中で、一人の女の子が立っていた。川を見ていた顔が僕に向いて、彼女は笑う。

学校の玄関で待っていた時に、あんなに待ち望んでいた井出さんの姿は僕の知っている姿と変わっていた。邪魔な長い髪の毛に、心もとないスカートと、スニーカーじゃない靴を履いた彼女だった。井出さんに再会した時に想像した、しようと思っていたことは、何も出来ず、僕はポカンと彼女を見つめてしまった。

「久しぶり!」

 明るい声音は、再会を喜びの他に、苦しみから解放されたようにも聞こえた。

「近くに来れたから、朔に会おうと思って待ってたんだ」

 それからの彼女はあの後の話をしてくれた。

 泣いて帰った彼女は、両親に話した。全てを話して、学校に行くのをやめた。それと同時に父親の仕事で転勤があり、そこに着いていくことになった。

 新しい学校で出会った友達が、彼女の髪の毛を伸ばし、スカートを履き、ツルツルの靴を履かせたそうだった。

「……男の子みたいな恰好をしてても、してなくても、中身が大事で、この外身で、俺が生きやすいなら、それでいいかなって」

 何があったのか、僕は知りたくなかった。知ったところで井出さんは彼女になってしまった。それが良いのか悪いのか、結論を出そうとすれば僕の都合が入ってしまう。

「耳を塞いでくれてありがとう」

 それを言いたかったと、彼女は言った。

「朔は今、どう?」

 お礼の後、井出さんはそう僕へ問いかけた。

 クラスでも僕は変で、兄ちゃんからも、母さんから見ても変で、僕は変。ずっと、ずっと変わらず、変。

 なんて、言えなかった。

 僕は井出さんを置いて走り出す。きっと井出さんは驚いてしまう。せっかく会いに来てくれたのに。けど、ここに居たくなかった。井出さんの前に立って居たくなかった。恥ずかしい、悔しい、僕はずっとずっと、変。変われなかった、変われなかった。


 学校へ行かなくなった。

 学校へ行かないのは、大変だった。母さんに最初に学校へ行かないと伝えると、無理にでも引っ張って連れて行こうとして、僕は引っ張られないように体全体で抵抗した。そんな攻防の末、母さんは諦めて、仕事へ行った。誰もいない静かな家で、僕は一人、自分の部屋の隅でじっと座っていた。母さんに引っ張られた腕が痛いし、乾いた涙の後が目の周りで膜になっている。カーテンを閉めて、そこから見える青空を見たり、部屋の時計を見て、今学校に行っていたら、していたであろうことを想像する。そうして、時々、膝を抱えたまま眠っていたら、いつの間にか夕方になっていた。

 母さんは仕事から早く帰って来た、部屋の隅にいる僕の前に座り、朝とは違って落ち着いた声で諭すようにいった。

「なんで行きたくないの」

 僕が「変」になる場所になんて行きたくない。

「何も言わないままじゃわからないよ」

 もう言葉は絡まり過ぎて、黒い塊になっている、何も口から出せない。

「なんで」

 なんで?

「なんで、そんなになっちゃったの」

 いつか、母さんの口に留まった「なんで」の続きだった。

なんでそんなになっちゃったの。

 なんでそんなになっちゃったの。

 なんでそんなになっちゃったの。

 三回繰りかえせばそれがようやっと、僕を否定している言葉であるとわかった。

 目の前で母さんは泣く。僕の目の前で、僕を責めるように泣く。僕が泣かせているのは、明白なのに、僕にはどうにもできない。それを見つめていると、僕の頭に月が現れる。僕はそこへ移動したい。ここは僕の場所ではない。月の穴に落ちて、僕は脱出したい。月に行きたいと、強く思う。


 それからの日々は同じことの繰り返しだった。朝、部屋にくる母さんに「行かない」と伝え、母さんが仕事に出かけた後、リビングで朝食を食べる。そのまま自分の本棚の本をずっと読むか、勉強をする。ブロックで遊んだりはしない。それは少しの抵抗のようなもので、僕が学校に行かないのは遊ぶためじゃないと示すためだった。けど、母さんは学校へ行かない僕が勉強していようがブロックで遊んでいようが、どちらでもいいようだった。

 兄ちゃんは、僕より早く家を出て、遅く帰ってきていたから、僕が学校へ行っていないことを知らないようだった。母さんから聞いて、知っていたのかもれないけど、僕になにかアクションを起こすことはなくて、いつも通りだった。先生は一度電話をくれたけど、それ以降、何も言ってくることはなかった。

 学校へ行かなくなって、二週間ぐらいたてば、本棚の本は全部読んでしまって、何も読む物がなくなった。勉強も、教科書を読んだり、ドリルを繰り返しするだけで、習っていない新しい部分は自分だけじゃうまく理解できなかった。時々、近所に住んでいるクラスメイトが届けてくれるプリントの問題を解く以外、僕は何もすることがなくなった。

土曜日の午後だった、僕は本が読みたかった。だから、リビングで洗い物をしていた母さんに言った。

「図書館に、行きたい」

 母さんの目が見開く。図書館は家から遠くて僕が勝手に行かないように貸出カードは母さんが持っていた。貸出カードが欲しいと、言えば母さんは僕を見ないようにしてこう言った。

「朔は自分の要求ばかりで、お母さんの言う事、ひとつも聞いてくれない」

 母さんが言い終わって、その言葉を理解すれば、体が強張った。頭を殴られたような衝撃だった。確かに、母さんを困らせているのに、自分の事の要求をしているのは、おかしいと自分でも思う。けど、その言葉は辛くて僕は動けなくなってしまった。

 僕が俯いていれば、母さんは貸出カードを持ってきて机に置いた。そしてそのまま、寝室へ向かった。

 誰もいなくなった静かなリビングで僕は貸出カードを持って、一人、家の外に出た。


 久しぶりに家の外に出れば、陽気はすっかり暖かくなっていて、桜は全て散ってしまっていた。僕が一人で閉じこもっている間も、季節が変わっていく事実が少し苦しい。

 一時間弱ぐらい歩けば、図書館は見えてきた。館内に入れば、学校の図書室よりも沢山の本が並んでいた。いつもここにくると気持ちが弾むのに、なぜか苦しい気持ちのままだった。母さんの顔が浮かんで、なんだか落ち着かない気持ちだった。

 児童書のコーナーに行って、どれを読もうか選ぼうとする。けど、どれも手にとろうとは思えなかった。本棚の一枠、一枠を、ゆっくり見ていく。けど、どれも、読みたいと思えなかった。自分がおかしいと思う。けど、何もできない。ゆっくり、ゆっくり、進んでいく。ある場所の前で止まる。

 僕が一番好きなコーナーだった。宇宙に関する本が沢山あるのに、そこでも僕は何も手にとれなかった。背表紙の文字は読めるのに、意味を脳が理解してくれない。何度も何度も目で文字を追うのに、何も理解できない。僕はそこから、動けなかった。

「あ、朔くん」

 どれくらいの時間がたったのか。僕は意識を戻した。久しぶりに聞いた声の主は、両手で本を抱えて、驚いた顔をしていた。

 さとうさんだった。

「ひさしぶりだね、元気?」

 そう言って、久しぶりに会ったさとうさんは何も変わっていなかった。学校の図書室にいる時と同じように僕に微笑みかけた。

「何見てるの?」

 どうして図書室に来なくなったのか、聞きたかったのに。井出さんの事を、話したかったのに。また、喉に言葉がつっかかる。さとうさんに話したい事を必死で口からだそうとする。

「何か、面白い本あった?」

何も言わない僕に慣れているさとうさんは静かな声で一方的に話しかける。

「中学校の図書室、あんまり本が多くなくって。やっぱり市の図書館の方がいいよね。朔くんも、小学校の図書室の本、もう読みたいものなくなっちゃった?」

僕、今、学校行ってない。母さんが泣いている。読みたいものもわからなくなった。何も読みたいと、思えないんだ。僕、おかしくなっちゃった。

それらは、口から出せず、黒い塊のまま、喉につっかえる。何も出せない口の変わりに、目から出てきたのは、涙だった。

突然出てきた涙に驚く。俯いて、手の甲で涙を拭う。

「どうしたの?」

 さとうさんの驚いた声が降ってくる。当たり前だった。突然目の前で泣き出したら、驚くに決まっている。だから、なにか、言わないといけないのに。

「……普通になりたい」

 やっとの思いで口から出てきた言葉が響く。会話になっていない僕の返答に、さとうさんはきっと、さらに驚いてしまう。けど、ずっと考えているその言葉だけしか、今、口からは出てこなかった。

「……脱出したい」

 ここは苦しい、ここは僕の居場所じゃない。

「……月へ行きたい」

 何度も何度も現れる月。月へ、僕は行きたかった。

 さとうさんが困ってしまうと分かっているのに、涙は止まらない。止まれ、止まれと声に出さずに呻いても、涙は止まらない。そんな中、思いがけない言葉が降ってきた。

「行けばいいよ」

 顔をあげれば、さとうさんは驚いても、笑っても、怒ってもいなかった。見たことないぐらい、顔に表情がなく、ただ一言、僕に告げた。

「月、行けばいいよ」

 それ以上、さとうさんは何も言わない。僕をじっと見つめるだけ。どれくらい時間がたったのか、しばらく見つめ合ったまま、沈黙を破ったのは、僕だった。

「月、行っても、いいのかな」

「朔くんが、行きたいなら、行けばいい」

 さとうさんは、頷いた。

肯定をくれたさとうさんは、そのまま僕の前から立ち去って、僕は一人、取り残された。涙はいつの間にか止まっていた。僕は一人、さとうさんの言葉を繰り返す。僕が行きたければ行けばいい。そう、それだけのことだった。僕は月へ行ってもいい。

図書館を出て、僕は空を見上げる。苦しみのなんてない、雲一つない快晴の空だった。昼間の空に、うっすらと月が見える時がある。空に探せば、見つけることが出来た。月はそこにずっとある。ずっとあって、僕はいつでも行ける。

月を見ながら、帰路につく。家に着いて、自分の部屋にあるカレンダーを見れば、満月の日は三日後だった。



 これまでのことを思い出しているうちに、僕は目的の場所についていた。パジャマのままだから、寒い。けど、これからもっと寒い所へ行くから、関係ない。

 目の前の湖は黒く、昼間に見るよりも怖い。けど、その上に満月がある。満月が水面に反射して、線のように光っている。

 僕はやっと、そこに行ける。僕は場所を移動する。

 黒い月の、黄色い空の世界はどんな所だろう。きっと、僕の居場所はそこ。ここは僕の居場所じゃない。

 一歩踏み出せば、足は水の中に入った。寒さに驚く。足を戻そうとして、サンダルが脱げてどこかへいってしまう。手を強く握りしめ、もう一歩踏みだす。冷たい水が八針のように皮膚をさす。けど、僕はやめない。どんどん足を踏み入れていけば、足がつかないくらい深くなる。僕は水泳の授業を思い出しながら、手を振り上げて、足をばたつかせて水草が邪魔だったけど泳ぎながら何とか前に進んだ。

 水面の線を辿るように僕は泳ぐ、全身が凍えてくる。手と足が、言うことを聞かなくなり、僕は浮いていられなくなる。口に水が入り、苦しい。僕はまだ、たどり、着いて、いない。水面の月へ、行きたいのに、僕は、まだ、苦しい。苦しい。くるしい。く、るしい。くいしる。くしる。くるいし、く

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