担当【レア】ポール・ワイスの実験について

 ここに来た君達と一緒に話をしよう。をテーマにお話をメインとしたトークバーがこの世界の何処かにひっそりとある。バーの名前はevening。名前の通り夕方から夜遅くまでここでは店員が決めた話題を近くに座る人を巻き込んで話すコンセプトでリピーターが増えている。今日は店員の【レア】の話を覗くとしよう。


 「初めましてレアです。私の得意なトークテーマは思考実験です。今日はよろしくお願いします。お二人のお名前聞いてもいいですか?あだ名とかでも良いですよ。」ウルフヘアでピアスが数個身に付けていてダウナーっぽい雰囲気を纏っている。

「よろしくお願いします。私は、メイって呼んでください。」長髪を後ろで纏めた大人しい雰囲気の女性。

「俺はケントです。」スーツを身に纏った好青年。

「メイさんとケントさんですね。最初のドリンクはどうしますか?」

「カルーアミルクでお願いします。」

「烏龍茶で。」

「畏まりました。」レアは奥からグラスを用意して準備をする。

「先に烏龍茶になります。お二人共想像力は豊かな方ですか?」レアはケントの前に烏龍茶置きながら二人に質問を投げた。

「んん、比較的豊かな方だと思います。」レアの動きを見ながら答える。

「あまり豊かでは無いです。」

「なるほど。少しグロい思考実験の話をしても良いですか。きっとお二人の考えが合わなすぎて面白いと思いますよ。」

「俺は大丈夫ですよ。」ケントは烏龍茶を一口飲んで答えた。

「あまり得意では無いですが大丈夫です。」

「了解しました。お待たせしました、カルーアミルクです。」メイの前にカルーアミルクを置くとレアは自分の飲み物を用意した。

「すみません、沢山話すんで水飲ませてもらいますね。」レアは水を一口飲んでもう一度話し始めた。

「お二人はポール・ワイスの思考実験を知っていますか?」

「いえ、知らないです。」

「俺も多分知らないです。」

「ありがとうございます。では内容を話しますね。試験管の中に入っている生きたひよこを完全に粉砕したら何が失われますか。というものですね。思考実験自体、基本的には答えが無いものですがこの問題はポール・ワイスさん自身が答えています。答えを言う前にお二人は何が失われると思いますか?」メイは顔を顰めながら考えているようだ。

「難しいですね…。やっぱりひよこの命かな。」

「なるほど。メイさんはどう考えましたか?」

「可愛さですかね。あと倫理観も失われるのではないですかね。」

「なるほど。お二人共意見が違いましたね。今出たもの以外で失われるものはありますか?少し視野を広げて考えてみてください。」レアは続けて質問を重ねた。二人は飲み物を飲みながら自分の考えを広げていく。レアはその姿を見て楽しそうに微笑んでいる。


 「えぇ、なんだろう。動作とかですか?」ケントは唸りながら呟いた。

「なるほど。ひよこの動作で合っていますか。」

「はい。死んだら動かなくなるので。」ケントはグラスの氷をくるくると回して答える。

「私はひよこの未来が失われると思います。」メイはグラスを持ったまま意見を零した。

「なるほど、未来ですか。とても興味深い意見ですね。後出しのようになってしまいますが私はひよこの形と体温が失われると思いました。」言い終えると水を飲み一息ついた。

「体温ですか…思いつかなかったです。」

「そんなものですよ。自分の経験や考えに偏るからこそ、この思考実験は奥深いんですよ。勿論一人で考え込むのも興味深いですが。ちなみにポール・ワイスの答えは生物学的組織と生物学的機能が失われたと答えたそうです。生物としての機能が失われたということですね。」レアが話し進めるとメイは顔を不服そうに歪め、ケントは納得したように頷いていた。

「お二人共全く別の反応をしましたね。一応答えは言いましたがお二人が考えたものが間違っているわけではないので安心してくださいね。」

「正直ポール・ワイスさんの考えは理解はできますがそれだけじゃないと思います。動物に対して優しさが無い気がします。」カルーアミルクを飲み干してメイは怒った。

「俺は寧ろ納得しちゃったな。生物では無くなるだけではあるんだよなって冷酷かもしれないけど思った。」ケントの意見にますます顔を顰めた。

「メイさん、落ち着いてください。お互い他人なので意見が違うのは当たり前です。生きてきた環境、人間関係が全く同じな訳がないので。」レアは加速するメイの暴走を止めながらも楽しそうにしている。


 さて、ここで話の一区切りついた。君達の中に【レア】と話したい人は居るだろうか。彼女と話すのはきっと好きな人は好きだろう。次はどの店員の会話を覗こうか。

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