第29話 堕ちた勇者と伝説の剣
むかしむかしあるところに、わかき勇者がいました。勇者はまおうを倒しに旅にでましたが、やがてこの旅に疑問を持つようになりました………
次の目標は西にある寺。道中、レオナはウキウキしながら
「呪いを解くには複数の方法があるんだ。呪いに使用した触媒を相殺する方法。そしてもう一つは、治癒の力で呪い自体を無くしてしまう方法だ」
知恵の輪をそのまま解くのが前者で、知恵の輪を壊してしまうのが後者だとレオナは語った。
ジェリーは退屈そうに
「ふーん、よく勉強してんね」
本の選び方すら分からなかったレオナがここまで言えるようになったのも学校に通ったおかげだろう。しかしジェリーにとってはあまり楽しい状況ではない。
「俺様、アンタが立派な呪殺師になるところが見たかったんだけどな〜」
「んな授業ねぇよ……」
むしろレオナは呪い殺されそうになった側である。
「今度教えてやろうか」
「いらねえ」
軽口を叩き合ってると、小さな村が見えてきた。
二人はアイコンタクトをしてその村へ足を運ぶ。物資の補充は必要ないが、念の為に寺の話を聞きたかった。ちなみにソロにとっては初めての村になる。
「ようこそ!“伝説の村”へ!」
「でん……せつ……!?」
サングラスをかけたレオナは衝撃を受けた。今までたくさんの村に訪れた彼だが、こんな変な名前の村は初めてである。
「ハハ、どっからどう見てもタダの村じゃねーか」
「と、お思いでしょう……?」
煽るジェリーの横に現われた村の案内人が、チラチラと視線を誘導する。そこには
「なっ………!?」
剣が地面に刺さっていた。大剣だ。また、グレートソードと呼ぶこともある。
「これは伝説の剣、かつて勇者がドラゴンを倒すときに用いた最強の剣なのです!」
案内人は誇らしげに紹介する。リアクションは芳しくないが、そんなことは気にせずに
「この剣は勇者にしか抜けません。その証拠に……ホラ!」
案内人は剣を抜こうとするがびくともしない。他の村人を呼んでみたが、それでも結果は同じだった。
「特殊な加工でもされてるのか?」
「どっかで聞いたことある話だよなァ」
ジェリーがとぼけるように呟くと、汗だらけの案内人はフフンと笑って
「旅の方、どうです?一発」
ジェリーはポン、とレオナの肩に手を置く。やってみろ、と言いたいのだろう。
「待てジェリー、おれは剣なんて使えないぞ」
「関係ねェよ。これも人助けだろ?」
ジェリーの謎理論にどこがだよ、とツッコミたくなるが、正直なところ謎の剣に対するワクワクする気持ちはあった。幸いソロも応援している。レオナは覚悟を決めて柄を握り、力を込める。
「ん、んんんん……」
ごぱあ、と地面が割れる音がした。剣先はキラリと光り、目の前にその姿を現わした。やったのだ。
「ぬ、抜いたーー!」
「剣を抜いた!!剣を抜いたぞ!」
周囲の村人が一斉に沸く。家の中にいた者も次々と外に出てレオナを祝福した。
「おめでとうございます勇者様!」
案内人が泣きながら頭を下げる。そして彼は大事そうに、散らばった土の塊を集め出した。
「……………」
一方レオナは困惑していた。剣を握りながら、視線でジェリーに助けを求める。
「オメデトー勇者様」
「兄さん凄いリン!」
「ち、違うお前ら……!」
レオナはあたふたした。何故なら彼は、剣が全く使えないからである。それに勇者と呼ばれることは嫌いではないが、今回はなんとなく嫌な予感がする。
「まさか伝説の剣を抜く者が現れるなんて!」
「貴方こそ真の勇者だ!」
「わーっしょい!わーっしょい!」
「スゲえ。胴上げなんて初めて見たぜ」
「おい、ちょっと……」
しばらくして地面に降ろされたレオナは、村人に剣を返そうと握り直すが
「勇者様、さっそくその剣で竜を倒して下さい!」
「え」
まァそういうことだろうと思ったぜ、とジェリーは腕組みをする。すると例の案内人がスライディングしながらレオナの前に躍り出て
「説明しましょう!この村の近くにはドラゴン山脈という場所があるのです!」
ドラゴン山脈はその名の通り、とても凶暴で強いドラゴンがいる山のこと………らしい。
「しかし勇者様ならきっと竜を殺れるハズ!どうか、か弱き我々を救って下さい!」
「…………………」
「なあ、手始めにコイツら撫で斬りにしようぜ」
ジェリーがコソコソと囁くが、レオナは聞いちゃいない。彼は村人に対して大真面目な顔で
「待て、おれは剣が使えないんだ」
「またまた〜。この世に剣が使えない勇者なんているわけないでしょ!!」
「グワァ!」
「ハハハ、精神的ダメージ受けてやんの」
「ねぇ勇者様!そういう謙遜はいいから早くドラゴンを殺して下さい!」
村人は悪意なくレオナを囲う。逃げられない。レオナは申し訳なさそうな顔をしながら
「そりゃ、この村がドラゴンに困らされてるなら行かない理由はねえけどよ……」
「え」
今度は村人たちが固まった。その様子にジェリーはすぐさま察した。しかしレオナは不思議そうに
「何だその顔は?殺して欲しいとまで言うならドラゴンに相当深い恨みがあるんだろう………?」
「………あ、ああ?えーと、そうです!そうなんです!私たちドラゴンに恨みがあるんですう!奴らのせいで同士が何人死んだことか……!」
案内人はわざとらしく顔を覆う。
「とにかく勇者様、お願いします!貴方は剣を抜いたんだから、絶対に竜の首をとってきて下さいね!ホラ!」
こうして三人は伝説の村から追い出された。近くの看板には『この先ドラゴン山脈』と書かれている。
「あ〜あ、村にハメられちまったなァ」
「おれは剣なんて使えないのに………」
「ンなの別に、腕力でドラゴンをブチのめせば良いじゃねえか」
ここにある伝説の剣を腕力で抜いたレオナである。ドラゴンも拳でなんとか出来るとジェリーはタカをくくっていた。しかしレオナは不信感たっぷりに
「それよりも、ここのドラゴンは本当に悪い奴なのか?」
「さあ?もしや村の連中の売名目的だったりしてな、アハハハハ!」
竜を倒した、となれば村は一気に脚光を浴びるだろう。村の人間はハナからそれを狙っているのかもしれない。
「つまりアンタは都合の良い人身御供ってことだ。やっぱ戻って撫で斬りしようぜ」
「おれは剣が使えないって言ってるだろ!!」
ツッコむ所はそこなのか。レオナは伝説の剣を、ジェリーはソロを片手に山へ進む。ドラゴン山脈は険しかったが、頑張って進んだ。
「忘れてるかもしれないが勇者様よォ、俺も一応ドラゴンなんだぜ。試しに俺を殺してみるか?」
「寝言は寝て言ってくれ。やっぱ強いんだろうなあ……」
「ああ。奴らはそのうえ凶暴だ。戦う覚悟はしておけよ」
「分かってる。新しい戦法も考えてきた」
そりゃあ期待、とジェリーは口笛を吹く。口ではああ言いつつも、レオナも結局のところドラゴンと戦うシチュエーションを楽しみにしているのだろう。
広い場所たどり着いた。足場は平らで安定してるが、ここまで登ってきただけあって下が見えない。レオナは全身を震わせて
「落ちたらひとたまりもないな……」
「ああ、ここは死の山脈とも言われている」
自称なんでも知ってるジェリーがさらりと説明する。ドラゴンがいきなり襲ってくるかもしれないので、レオナは大剣をジェリーに預けて周囲を見渡すと
「ワッハッハ」
急に笑い声がしたので目を凝らす。
人がいた。その男は水色の髪に褐色の肌、魔術師のようなローブをまとい、片手に杖を握っている。歳は二十代後半、といったところか。
男は人懐っこそうな笑みを浮かべて
「その肌。お前さんも南方の出だろう?」
レオナはえ、と目を見開く。確かに目の前の男とは肌の色が同じであった。しかし仮に同郷だとしても気は抜けない。レオナは慎重に構えながら
「南方……がどこか分からないが、おれはサルティロン村のレオナだ。そっちは?」
「フム、私は曇天山のジョージ。すまん、村の名前はいちいち覚えてないのだ。ここには何をしに来たのだ?」
「それは……」
レオナは渋る。まさか村人に担がれるまま竜に会いに、いや殺しに来た、などとは言えない雰囲気だ。するとジョージと名乗った魔術師ふうの男は、寛容な笑みを浮かべて
「私はここで修行をしている。ここは良いぞ……あらゆる強さの息遣いを感じられる」
「…………」
レオナにもそれは分かる気がした。この山は険しい。が、だからこそ登れば登るほど肉体が引き締まり、感覚がギュッと研ぎ澄まされるような心地がするのだ。修行にはもってこいなのは間違いない。
レオナは無意識のうちで笑う。このジョージという男に好奇心が湧いたのか
「おれのような人間はともかく、魔法使いの貴方がここまで来れるなんてな……」
「ワハハ、嬉しいことを言う。………しかし勘違いしてもらっては困る。私は人間ではない、竜だ!」
大声と共に下から強風が吹く。まるで嵐のようだ!あまりにの出来事にレオナはとっさに後方を確かめる。幸い、ジェリーもソロも無事だ。
ジョージは尖った歯を見せながら
「人間よ、ちょっくら私の修行に付き合ってもらおうか。なあに、ここまで来たのならそれなりに腕は立つだろう?」
「………あ、ああ!」
まさかこんな形でドラゴンと戦うことになろうとは。レオナは構えた。
「スヤ……あれ。今どうなってるリン?」
「よぉ、勇者様ならジョージとかいう新キャラのオッサンと戦ってるぜ。けどなァ……」
ジェリーは苦々しい表情でレオナを見る。ソロはあっ、と思った。この顔は、おそらくジェリーが本気で悩んで困っている時の顔だ。
「これはちとキツいだろうな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます