第2話

結局その日私は彼を突き放して自分の家に帰宅した。

「死んじゃう、、」

私は1人でポツリと呟く。

信じられない。けど、このまま信じずに本当に死んでしまったら??

「別にいっか、、」

ちょっと考えてみてすぐにやめた。もともと死ぬのは怖くない。まぁもうちょっと女として生きることの幸せや価値を探してみたいとは思うけど。正直いつかは人間死ぬんだしそれが早くても変わらないと思う。痛い思いをするのもどうせ一瞬。死んでしまえば全て忘れる。天国とか地獄とかもきっとこの世の中には存在しない。男に刺されて死ぬのも悪くないな、、。

あーあ、やめた。寝よう。そうやって私は眠りについた。


次の日も、私は新しい人と会うために早く起きてメイクをして服も着替えて髪を巻いていた。準備を進めながら昨日のことが頭をよぎる。

「そのうち男に刺されて死んじゃうよ」

少し前に事情を知ってる友達に冗談めいて言われた言葉。今考えてみると結構現実的なことのように思えた。

男に刺されて死ぬのも悪くない。それほど誰に愛された、執着されたという証拠なのかもしれないと考える。こう考えてしまう私はきっともう普通には戻れない。手遅れだ。あーあ、馬鹿らしい。私はため息をつくと鏡の前で『完璧なみくちゃん』をみて家を出た。

私は今日も可愛い。女としての価値を確認してすぐに帰るんだ。そうしないと誰にも必要とされていないことを理解してしまうから。


「りくくん?」

全力で笑顔を向ける。そこにはびっくりするくらいのイケメンが立っていた。やばい、ミスった。とっさにそう思う。実は彼の顔をアプリで見たことがない。あまり自信がなさそうにしていたから聞かなかったのだ。私はイケメンが苦手だ。私よりも下の人間だと割り切って接することができなくなってしまうから。でももう仕方ない。一日やり過ごそうと決めた。

「みくちゃんだよね?」

そうこっちを向いた彼と目があってドキッとする。いつも通りの演技ができない。

「うん、えっとー、行く?」

急にバツが悪くなったような顔をしてドギマギしながら言葉を返した。あーもういいやこの際ドキドキしちゃお。どうせイケメンと関わる機会なんてこの先そんな多くないだろうし。とこの時割り切った。

彼は全然自分から話さない人だった。口下手なのだろう。女の人にも慣れてないような気さえした。イケメンだから何もしなくても苦労しなかったのだと解釈する。なんでそんな人がアプリで女の人を探しているのだろうと疑問に思ったが失礼になるかもと思い聞くことはできなかった。ショッピングモールの中のイタリアンのお店に入りパスタを食べた。私はパスタが実はあまり好きではない。というかラーメンなど、麺類全般が好きではなかった。彼がパスタを食べたいと言ったので同意し、パスタを食べてしまっていた。なんで男のために私が合わせてるんだろう。私はイケメンに合わせてしまうような価値が低い人間なのか。捻くれた考え方をしている私はすぐ自分に価値がないのだという考えと結びつける。

会話もなく、つまらない男だった。顔がいいとこれでもモテるんだろうな。冷静に彼の過去を推察してみる。

彼もつまらないから話さないのかな。私のことなしなのかな、それとも緊張してるのかな。色々考えて

「緊張してる?」

と聞いてみた。

「いや、結構電話とかで話してたから緊張してない」

と真顔で返され、私もよくわからなくなってしまった。

そのあとはあまり私も話しかけるのをやめて気まずい中ただパスタを食べていた。食べ終わってすぐお店を出た。代金は彼が出してくれた。もともと出してくれるだろうなと正直思っていたのであまり慌てることもなくありがとうと返すことができた。

そのままお店を出て駅の近くに向かいつつ、もう彼も帰りたいだろうなと考えて

「電車もう乗る?」

と聞いた。うん、と返ってくるかなと思っていたのだが

「え?もう帰りたい?」

と驚いた顔で聞かれた。私の方が驚きだ。整った顔でそう聞かれるととても帰りたいだなんて言えない。

「いや、りくさんに合わせるよ。来てくれたし!」

驚きを全力で隠しつつ否定をする。あーなんで否定してんだ自分、と思いつつ仕方なかったのだと自分に言い聞かせた。まだ一緒にいたいと言われても時刻は21時。お店は中途半端に閉まっている。とはいっても飲みに行くほどの時間はない。終電は23時前。とりあえず駅の近くのベンチに座った。座っても相変わらず無言だ。彼の言葉と行動に矛盾しか見つけることができず戸惑う。

彼がプルプルと震えていることに気づいた。

「ふっ、寒いの?震えてるけど大丈夫?」

と笑う。そんなに寒いなら帰ればいいのに。

「ちょっと寒いかも」といって手を出してきた彼。

え?ここにきて手を繋ぐの?と心の中で叫びながらも手を繋いだ。その後も何も言葉は発しないくせに私に寄りかかってきた彼になんだなんだこの人はと必死に考える。身体接触だけはするんだ、と思いながらも考えてもこの人のことは全然わからない。結局結論は出ないだろうと考えるのをやめた。彼の手は白くて細くて長く、綺麗だった。この手でいろんな女の人を触っているんだろうなぁとゲスいことを考える。もう会わないかもしれないイケメンの体温を感じながらただただ話すこともなく彼の終電まで過ごした。

「じゃあ、そろそろ帰るね。」

といって時間が来たら彼はスタスタと帰っていった。

「なんだったんだ、あの人は、、、」と1人になって呟く。すぐにLINEが来ていることに気づいた。

「ありがとう!可愛かった。来週の火曜日とか会えない?」

ますます訳がわからない。まるでLINEと実物は別人だ。緊張してたならわかるがしていないと言っていた。可愛いとかも直接言えばいいのにLINEでは言えるのはなぜなのだろうか、緊張も何もしていないというのに。

「遅くなっちゃうかもだけど全然会えるよー!」

と返して私はますます自分を嫌になった。こんなに自分はイケメンに弱かったのか、、口下手でつまらないただのイケメンなのに。私は断ることができないのか。

そしてもう一件、LINEが来ていた。

「みくちゃんとまた話がしたいんだけど、、明日の夜会えない?」

私はすごく悩んでから、

「夜なら会えないことはないです」

と返した。

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