第6章・接触 #1
野崎の車に便乗して、4人はコーヒーチェーン店に場所を移した。
店の一番奥まったテーブル席に座ると、改めて簡単な自己紹介をした後、野崎はいきなり本題に入った。
「我々が探しているのは50代の男性で、婚活パーティーで知り合ったと思われる女性と共に姿を消しています」
野崎はそう言うと、三上の顔写真を見せた。
「江口さんは、この人をあの敷地内で見かけたことありますか?」
美波は写真を見て首を振った。
「遠目でしか確認できないから、何とも言えないけど……見たことはないと思う。けど、見かけたんですよね?」
そう聞かれて野崎は頷いた。
「えぇ。一瞬でしたが……本人だと確信はしています」
宇佐美は、昨日見た光景を野崎に話して聞かせた。
「建物の外に室外機がたくさんあった。ここは水質管理とかリサイクル処理をする建物らしい」
携帯で撮った写真だが、その様子はしっかりと確認できた。
「でも俺は、その隣にある倉庫みたいな建物の方が気になった」
宇佐美がそう言って、もう一方のコンクリートで出来た2階建ての建物の方を見せた。
「そこは備蓄庫って聞いてます。市の職員に聞いたの――って言っても、本当にそんな用途で使ってるかどうかなんて分からないけどね」
美波がそう言って苦笑した。
「何を備蓄してるかにもよるよな」
白石がそう言って意味深な笑みを浮かべる。
「失踪した人が、この中に監禁されているかもしれないってことですか?」
と、野崎は聞いた。
「この2年間、あのコミュニティの事は調べてたし、毎日じゃないけど様子を伺っていたわ。でも兄の姿を見たことは一度もない。あの建物周辺は、他のエリアに比べて警戒も厳重な気がするの。一般住民は立ち入りできない様になってる」
「でも、一応管理責任者みたいな人はいるんでしょう?」
白石の質問に美波は頷いた。
「一応ね。享愛の里が出来た当初からいる古参の1人よ。小柄なお爺さん。綿貫って言ってたかな?」
「あの人かな?」
宇佐美が野崎を見た。
「天守様と一緒にいた人か?作務衣姿の爺さん」
宇佐美に水を持ってきた小男だ。綿貫というのか。
「けど、三上さんは拘束されているようには見えなかった……」
あの時、無理にでも追いかければよかった……と、野崎は今更ながら少し後悔した。
「この1,2年の間に何か変わったことはって聞いた時、若い男の姿を見掛けるようになったって言ってたよね?」
宇佐美に聞かれて美波は頷いた。
「えぇ。若いって言っても私ぐらいかな?明らかに今までとは雰囲気の異なる男達よ。目つきが悪くて、なんだかコミュニティの用心棒みたいな感じ」
「彼らは自主的にコミュニティにやってきたのかな?それとも誰かに誘われて?」
野崎の問いに美波は言った。
「多分、もともといた住民に誘われて来たんだと思う。そういう人も大勢いるわ」
「天守が産み落とした子供じゃないんだ?」
宇佐美の台詞に美波も笑った。
「そんなの信じてるのは享愛の精神に染まってる信者だけよ」
白石は野崎に目配せした。
あれ、確認してみたら?という顔をする。
「……」
野崎は自分のスマホを取り出すと、あの道の駅の駐車場で撮った写真を美波の方へ向けた。
「この人物を、コミュニティ内かその周辺で見かけたことありませんか?」
美波はスマホを受け取ってジッと画像を見つめた。
やや不鮮明ではあるが、黒いジープの前に佇む中年男性が映っている。
「かなりガタイのいい男で、割と目立つと思うんですが……」
「あぁ……ありますよ」
美波はそう言うと、スマホを野崎の方へ返しながら続けた。
「背が高い男の人ですよね?若い男達を引き連れて敷地内を歩いているのを、何度か見かけたことがあるわ」
「やっぱりあそこに住んでるんだ」
宇佐美はそう呟いて野崎を見た。
車のナンバーから、既に身元を割り出しているのだろう。素性を知りたいが、でもそれは後で聞こう――そう思って宇佐美は言った。
「彼は俺たちが参加した婚活パーティーにいたんだ。あの忌み札を俺に寄越したのも、多分この男だよ」
「彼は江口さんが調査を始めた時には、もうすでにコミュニティにいたんでしょうか?」
「さぁ……それは分からないわ」
美波はそう答えてから続けた。
「この男は誰ですか?失踪に関係しているですか?」
「それを我々も今調査中なんです」
野崎はそう答えると、白石と軽く目を合わせて携帯をしまった。
その様子をじっと見ていた美波は、テーブルに身を乗り出すと、少し強い口調になって言った。
「ねぇ。私たちって同じ目的で動いてるんですよね?」
野崎と白石は少し驚いたように「えぇ」と頷いた。
「なら互いに持っている情報は共有し合いませんか?隠し事は無しで!」
「……」
驚く野崎の視線に、宇佐美は肩を竦めてみせる。
「私が持ってる情報は差し出します。代わりにそちらで得た情報も私に出して下さい。一方だけが情報を搾取されるなんてフェアじゃないもの」
「そりゃそうだ」
白石はそう呟いて苦笑した。
「もちろん。情報は共有しますよ」
「じゃあコミュニティに行った時の話を、最初から詳しく聞かせてもらえますか?三上さんとおっしゃる方の姿を見た時のことも、もっと詳しく」
そう言って、美波はメモ帳とペンを取り出すと、じっと野崎を見つめた。
テーブル越しに、真正面からじっと見つめられて野崎は一瞬困った顔をして宇佐美の方を見る。
美波の隣に座って、面白そうに自分を見ている宇佐美に眉間を寄せたが、「いいですよ」と頷いて話し出した。
――しっかりしたお嬢さんだこと……—―
野崎の呟きに、宇佐美は思わず笑った。
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