第49話 決着、そして……
その異形の怪物は2メートル程の一つ目を有し、その周りには
その巨大な目に映るのは同じく異形の化け物。
ムラマサ曰く疑似神格という神の紛い物らしいのだが、この場に於いてそんなことは些細なこと。
何処からともなく酷く重低音の心のこもっていない声が聞こえた。
――焼け死ねええ……
その言葉と同時に神喰雷の周りにあった稲妻、が巨大な一つ目の中へ収束していく。すると壁に引っ付き神喰雷の出方を見定めていたミシャグジさまに変化が起こった。
――ピカッ、バチィィィィィ!
ミシャグジさまは突然激しい雷光に包まれ、すぐさまその無数の光の刃がその異形の化け物に降り注いだ。その衝撃でひっついていた壁から落ちた疑似神格のモンスターは、四方八方からの雷撃に、落下した箇所から動くこともできず、そのまま攻撃を喰らい続けた。
時間にして数十秒……
先程までいくら攻撃を喰らってもすぐに再生していたその驚異的な巨躯は、神喰雷の電撃を喰らう度に肉は削げ、焼け焦げていく。何故か、それは――
――不可逆の電撃
神喰雷の不可避の電撃、それは回復することを許さない必殺の
ミシャグジさまは攻撃が効かないわけではない、ただ超速度で損傷個所を再生していただけに過ぎなかった。つまり神喰雷の回復不能の攻撃にはなす術がなかったのだ。
神喰雷の瞳に映った、対象への回避不能の不可逆電撃。10メートルを超す巨躯のミシャグジさまにこの相手は圧倒的に分が悪かった。つまり勝負はすでに始まる前から決まっていたのだ。
――これで終わりだあ……
――ピカッ、バチィィィィィ!
最後にひと際大きい雷鳴が辺りに鳴り響き、ミシャグジさまの体へ落ちた。
――他愛もないいい……
ハウリングを起こし、周りの空気を著しく振動させながら響いた重低音の声は、モンスター対モンスターの戦いがあっけなく終了したことを伝えた。
◇
「お、おい! アレはなんなんだよ!? あんた何を呼び出したんだ!? あの化け物をああも簡単に黒焦げにしちまうなんて……」
壁の隙間を探すのも忘れて、化け物同士の戦いを呆然と眺めていた晶は、ムラマサに問うた。
だが彼は晶の問いに答えもせず、すぐさま焼け焦げたミシャグジさまの元へ行くと、なにかを探している様子だった。
暫くしてムラマサは何かを見つけ、徐にミシャグジさまの体内に手を突っ込みそれを取り出した。
「これが……」
直径15センチ程度の紫色に輝く球体を手に取ったムラマサは、神喰雷に言った。
「もう喰っていいぞ。対価は3日以内だったな。用意でき次第また呼び出す。それまで待ってろ……」
「ふんっ、1日でも遅れるなよお……ではアレを頂くとしようかあ……」
耳障りな声と共に一つ目の異形はその瞳を閉じる。
次の瞬間その一つ目だった異形の怪物が目を開くと、それは目ではなく――
――大きな口になっていた。
ガタガタの歯に長い舌、そして歯ぐきからは無数の小さな手のようなものが蠢いていた。見るものに不快感、嫌悪、そして恐怖を与えるその醜悪な形相は、ゆっくりと浮遊し、かつてミシャグジさまだったものの前へとたどり着いた。
そしてなんの言葉も発さずに――
――むしゃり、むしゃ、むしゃ、くちゅ、ぐちゃ、ぐちゃ、くちゃ、ぐちゅ……
気色の悪い咀嚼音を発しながら疑似神格のモンスターを頬張る異世界のモンスター。
食事はものの数十秒で終了した。
「ふうう、まずいいい。こんな二流品を喰わせおってえ、まあいいかあ、贄を楽しみにしておるぞお、ムラマサああああ……」
そう言葉を残し蜃気楼の如くその場から消失していく神喰雷。
それを見ながらムラマサは舌打ちをする。
「くそっ、また手間がひとつ増えたぜ……」
だがすぐさま気持ちを切り替えたムラマサは唯を見る。
「おい! どうだ!? 色の違う箇所はあったか!?」
そう言葉を発した途端ムラマサは、唯の異変に気付く。彼女は壁際にもたれかかりながら膝に手をついていたのだ。
肩で息をするように、今にも倒れそうな彼女は弱弱しい小さな声を振り絞った。
「はあはあ、はい、あ、ありました。すみません、ちょっと疲れてしまって……」
「大丈夫か!? だがでかした! 何処だ!?」
「こ、ここです……ただ見た目はなんともないんです……これが本当に空間の、壁の隙間なんですか?」
確かに唯の指差した壁の一部には特段おかしいところはなにもなかった。
だが唯はここが他とは違うと言った。
なら彼女の言葉を信じる。ムラマサの唯に対する信頼はそこまでのものになっていたのだ。
「晶! 俺の貸した刀で唯の言う場所を思いっきり突け!」
「は!? な、なんにもねえじゃねえかよ?」
「いいから早く!」
晶はムラマサに言われるがまま妖刀ムラマサを構える。
悪魔の右手が大分馴染んできたのか、刀の柄を握り両手に力を込めた。
「何が何だか分からんが、ここを突けばいいんだな!? 唯!」
「は、はい!」
上段構えから霞の構えに変え、晶は唯の指し示した箇所を思いっきり突いた。
晶は半信半疑だった。それはそうだ。
相手は壁だ。いくらこの刀の切れ味が優れているからといって、壁に刀を突き刺せば刀が負けるに決まっている。
だが晶は壁に刀を突き刺した時に違和感を感じた。
感触がなかったのだ。
晶が違和感を覚えたのとほぼ同時に、この場所にいる全員がある違和感に襲われた。
テレビの画面がプツンッと消えるように、張り詰めていた糸が切れるように、このダンジョンの何かがこと切れたのをここにいる全員が肌で感じた。
そして晶が突き刺した刀は刀身約30センチが壁に突き刺さり、それを引き抜く。すると――
「は!? う、嘘だろ……本当に道がでやがった……」
「さすがです! 晶さん!」
「あ? あ、ああ……」
突然出現した通路に皆が困惑していると、ムラマサが声を荒げた。
「おい! ぼさっとしてるんじゃない! さっさと出るぞ! 余り考えたくはないが、俺の予感が正しければ……」
ムラマサは言葉を言い淀みつつも、つばを飲み込み言った。
「ここはもうじき崩壊する」
全員の顔色が変わる。理解できない者、薄々感づいていた者。
思考は交錯しながらも目指すのは出口、全員は唾を飲み込み大きく息を吸い込んだ。
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