第28話 虎清唯は高校2年生!

「え~、ただいま、現場から生中継でお送りしております。本日、2月20日午前6時に――」


 テレビから流れるニュース速報。どのチャンネルも同じ内容だ。

 2月20日、要は今日、突如長野県某所にダンジョンが出現したとの情報が入った。

 30年ぶりのダンジョン出現。22番目のダンジョン。


 そしてその1時間前にも同じようなニュース速報が流れた。

 富山県某所で21番目のダンジョン出現……

 何故? 30年間ダンジョン出現なんてなかったのに、なんで今になって新たなダンジョンが出現した? 

 確かダンジョンを人工的に作り出すことができる団体がいて、その人達が今まで3つくらいダンジョンを構築したって話は聞いてるけど、今度のは違う。

 そう、天然のダンジョンだ。作りものとは違う。こんなの絶対トライしなきゃ、ダンジョン探索者の名が廃る! そんでもってこいつは初物! 新雪を一番最初に踏むのが好きなように、あたしはとにかく初物が好き! 絶対やってやる! あたしが最初の弐拾弐ダンジョン踏破者になってやる!


 私の名前は虎清唯とらきよゆい長野県に住む花の女子高生、ただいま2年生。2年前からダンジョン探索者をやっている。ついでにダンジョン配信も!

 新たに誕生したダンジョン弐拾弐ダンジョンはなんと! 私の住む街からすぐ近く! これは絶対に神からの啓示! こいつあ行くしかないぃ!!


「ねえ、すいちゃん、ニュース見た? 30年ぶりに新ダンジョン誕生だって。しかもめっちゃ近所だよ? 遠征費用もかかんないしさあ、早速行こうよお」

「は? 未踏破で、しかも出現したばっかのダンジョンでしょ? うちらじゃ絶対無理だって。どんなダンジョンか不明だから生命保険もおりないらしいよ?」

「いや、なんで死ぬ前提なの!? いいじゃん! うちらなら絶対イケるって! 零捌ぜろはちダンジョンだってけっこう深層まで行けたじゃん!」

「は? だってあそこは踏破済みダンジョンじゃん? そこらじゅうに案内看板も建ってたし、モンスターも少なかったしさ。唯、いい? マジで考え直しな? 絶対うちらじゃ死んじゃうって。とにかくあたしは行かないから。じゃ~ね~」


 くっそ! なんなの!? なんでこのロマンを分かってくれないの!?

 私は後衛、補助魔法担当で、できる事といったら哨戒、斥候、あとはダンジョンのマッピングくらい。前衛役がいないと私はダンジョンに潜れない!

 ずっと一緒にパーティを組んでた幼馴染の穂子すいこは今回ばっかりは付き合ってくれなかった。今までは嫌嫌言いながらも付き合ってくれていたのに。

 やっぱり今回のはそんなに無謀なの? せっかく配信者としても固定客がついてきてたとこだったのに!


「あ~、こんなことになるならもっと探索者の知り合いとか作っとくんだったなあ。でもなあ、なんか男の探索者連中って私のこと絶対下に見てくるんだもんなあ……」


 男は皆そう。か弱い女の子を守ってあげる! だとか君は後ろにいればいいから! とか、今まで私のことをひとりの探索者として見てくれる男の人なんてひとりもいなかった。

 やっぱしパーティを組むなら女の子一択! できたら可愛い女の子がいい! 配信で映えるしね。

 あ~あ、どっかに可愛くて強いダンジョン探索者いないかな~。



    ◇



「ねえ聞いた!? 富山に出現した弐拾壱ダンジョン! お姫様が連れ込まれたって!」

「は? なにそれ? なんでそんなことになってんの?」


 学校の昼休み、話題は当然新ダンジョンの話だ。

 私の頭の中は弐拾弐ダンジョンのことでいっぱいだったのだけど、どうやら弐拾壱ダンジョンも大変なことになっているらしい。

 どうやら某国のお姫様? 多分王族の女性だと思うんだけど、その人がダンジョンに連れ込まれたらしいのだ。

 たまたま日本にお忍びで来ていたそのお姫様は、たまたま来ていた富山の、たまたまいたダンジョンの前で突然夥しい数の触手のような何かにダンジョンの中に引き込まれていったらしいのだ。

 なんでもお姫様には生体識別信号みたいなのがついてあって、生きているのは分かってるらしいんだけど、それ以外の安否は一切不明。

 ダンジョン局が先遣隊の募集を募ってるみたいだけど、まあ私はこっちはパスだな。

 やっぱ私は地元のダンジョン一択!


「はあ、ダンジョン行きたい~。」

「唯? あんたもしかして弐拾弐ダンジョン行く気!?」

「え? うん、行くつもり。でもスイちゃんに断られちゃた」

「まあね~、踏破済みダンジョンと未踏破ダンジョンじゃ危険度が全く違うんでしょ? あっ! そういえばさ! 例の! 双子ちゃんがあ、パーティ募集してるみたいよ?」

「えっ! もしかしてあの――」


 何日か前にDeチューブの切り抜き動画で見たあの双子!

 とにかくヤバかった! ハイゴブリン50体に一気呵成に突っ込む楓さん!

 そんでもって亡霊騎士の大群に笑顔で切り込むく~ちゃん!

 く~ちゃんのおぱんちゅ動画は何故か繰り返し見てしまった。私女なのに。まあ可愛い子を愛でるのに男も女も関係ないしね。


 は~、マジか~、あのふたりがパーティ募集……

 てことはきっと新しく誕生したダンジョンを攻略するためのパーティだよね? こりゃあ一か八かで、私もパーティメンバーに応募してみるか!? いやするしかないでしょ!

 私ならきっと彼女達を、配信でもっと輝かせられる! 気がする。


 よしっ! 決めた! 即断即決!

 私絶対楓さんとく~ちゃんとパーティを組む! そうと決まればすぐ行動!


「えっと、ふたりのツエッターアカウントっと、おっ! すげ! もうすでにフォロワー1万人突破してる! これって昨日開設したばっかだよね? すげえ」


 私も時々呟いたりはしてるけど、基本的に媒体はDeチューブばっか。ツエッターはついついエゴサしちゃうからあんまり使ってなかったのだ。

 だがあの可愛い双子が使っていると言うなら話は別。

 早速フォローしてっと。んん? メッセージにあなたの熱意を書き込んでください、なるほどね。

 私はあんまり賢くない頭で沢山考えた。彼女たちのハートに届く熱いメッセージを!


「頼む~! ふたりに届け! この思い!」


 お祈りポーズをしながらボタンを鼻でぽちっとな!

 どうやら今日中にある程度の人数を絞るって書いてあった。なのできっとなんかしらのアクションをもらえるだろう。ああ! 神様仏様! お願い! この思い双子に届け!


 そうこうしている間に学校が終わり家路につく。

 時刻は午後10時――


 ――ピロン!


 あっ、もしかして!?


 恐る恐るスマホの画面を確認する……


 ――楓&椚からフォローされました


 えっ!? マジで!? ふたりにフォローされた! てことはもしや……


 ――メッセージがあります


「きた! やった! これは絶対勝った!」


 震える手でアイコンをタップ。DMを開くと――


「明日長野に行くんですが会えますか?」


 キタ! これでとうとう夢が叶う。やっと未踏破ダンジョン、しかも新しく出現したばっかの新雪の、誰も踏み込んだことのないダンジョンに挑むことができる!


 ああ! 明日が楽しみ!

 私虎清唯の伝説がここから始まるぜ~い!


 私は期待に胸を膨らませてお布団へ入ったのだった。

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