第25話 ムラマサ復活!

「これでよしっと」


 眠りから無理やり叩き起こし、ボケーっとしているムラマサに薬をなんとか飲ませ、一息つくみさを。

 なんで自分は初対面の男性に無理やり薬を飲ませているんだろう、ほんの少し疑問に感じたが、まあ自分好みのイケメン(みさを基準)だし悪くないかも、なんてことを考えていた。


「みさをさんきゅっ! これで元に戻ったら万々歳よ! そのうちお礼するからね!」

「ホントだよね~。僕達じゃアヘってるのを治すくらいしかできなかったもんね~」


 可愛い双子はふたりして腕を組み、うんうん頷いている。

 はあ、今日は色々なことが起こりすぎて疲れた。

 ダンジョンでは謎の双子の予想以上の活躍。自分たちはまるで出る幕が無かった。

ようやく回ってきた対固有モンスター戦ではなんの役にも立てず、結局おいしいところは双子が掻っ攫っていった。

 役に立てなかったのも歯痒かったが、一番の後悔は仲間を危険に晒し、さらに重症まで負わせてしまったこと。全て自分の判断ミスが原因…… みさをは酒の力も相まって自分の不甲斐なさをより一層責めていた。

 そんな時に少しでも誰かの役に立てるかもしれない、そんな状況をくれた楓、椚の双子に何処かで感謝している自分がいたのだ。


「あっ! ムラマサの目見て! さっきみさをが言ってたオレンジの光が無くなってることない!?」

「あっ! ホントだ~! これってもしかして成功なんじゃないの!?」


 双子のふたりの黄色い声に、みさをはムラマサの瞳を確かめる。


「うん、確かに消えてる。やっぱり予想どおりだったみたいね。よかったわ。役に立てたみたいで。うん、本当に、よかった……」

「ちょっ!? な、なんで泣いてんのよ!? どうしたのよ? お酒飲み過ぎて気持ち悪くなっちゃった? お水飲む?」

「違うよ~、おねえ。愛しのダーリンが正気に戻りそうだから、感極まって泣いちゃったんだよ~、ね~? みさをっち!」


 泣くつもりなんてなかったのに。何故だか分からないけど自然と涙がでてしまった。

 でもそれを見てオロオロと心配してくれる楓。朗らかな笑顔でちょっとズレてはいるけれどフォローしてくれる椚。出会ってまだ日は浅いけど、なんとなく愛おしい。みさをは確かにそう感じたのだった。


「ふふっ、大丈夫、ごめんね。ちょっとおねえさん飲みすぎちゃったみたい。今日はもう遅いし寝ましょ? せっかく泊まらせてもらうんだから3人で寝よっか?」

「おっ! いいわね! じゃあ一緒にお風呂入りましょ? あっ、椚ちゃんはひとりで入ってよね?」

「え~! 僕も一緒に入りたいのに~! みさをっちと洗いっこした~い!」

「ふふふ、私は別に構わないわよ? 椚ちゃん本当は女の子なんじゃないの? おねえさんが確かめちゃおっかな~!」


 3人の女子(内男の娘1名)はきゃぴきゃぴはしゃぐ。時刻は午後11時。夜は段々と更けていくのであった。



    ◇



 はっ!? ここは何処だ!?

 俺は一体なにをしてたんだ? 分からん、確か異世界に行ってミズマリス達に会って……

 そこからどうしたんだ? 全く思い出せん……


 目が覚めると俺は俺の部屋で寝ていた。スマートウォッチを見ると日付は2月6日午前6時。確か俺はあれ? 何月何日に異世界に出発したんだ? くそっ! それすらもあやふやだ。

 ふと隣を見ると楓と椚が寝ていた。


「あ、あれ? も、もうひとりいる? ラ、ライラでもリタでもマリスでもない…… 誰だこいつは?」


 楓と椚の間で知らない女が寝ていた。スゥスゥと寝息を立てて寝ている黒髪の女。俺が知らない間に何か起こったのか?

 いや、考えても仕方ないか。とりあえず楓と椚を起こそうとして布団を剥いだ。


「おい! ふたりとも起きろ! 朝だぞ!」


 勢いよく剥いだ布団の中には見慣れた双子と黒髪の女の――


 ――下着姿があった。


「う~ん、なに~? もう朝~?」

「はう~、ねむ~い…… ってムラマサ? え? あ! おねえ! ムラマサが!」

「すぅすぅ…… ううん、どうしたの?ふたりとも……」


 俺の声で飛び起きた椚。

 寝起きだと言うのに思いっきり俺に向かってダイブしてくる。ほんの数日会わなかっただけなのに、何故か物凄く懐かしく感じる。

 椚の呼び声で続けて目を覚ました楓も負けじと飛び掛かってくる。


「うおっ!? 重い! お前ら重いっての!」

「なに言ってんのよ! ホント心配かけやがってえ!」

「そうだよ~! 僕らめちゃくちゃ心配したんだからね~!」


 両頬にすりすりしてくる双子を両脇に抱え、何故だか毛恥ずかしさと嬉しさの板挟み。それからすぐ双子の真ん中で寝息を立てていた見知らぬ女性も目を覚ましたようだ。


「ど、どうしたのふたりとも、そんなに騒いで…… って、あ! 目を、目を覚ましたのね!」

「あ、どうも。てか…… どちらさんですか?」

「あ、ええと、は、初めまして。黎狼くろがみみさをと申します。ゴールドマインという探索者パーティのリーダーをしております。昨日の零肆ダンジョンの――」

「あ、えっと、とりあえず~、服、着ます?」

「は? え? あ! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 自分が下着姿だったのを忘れていたのか一瞬で顔を真っ赤にし、布団にくるまるみさをと名乗る女性。なんかさっきまで思いっきり下着丸出しにしてたのに、いざ隠されると、もっとしっかり見ておけばなと思わないこともなかった。

 上下黒の上品な下着。なんかいっぱいレースがついたヤツだった。



    ◇



「本当に申し訳ありませんでした。あんな醜態を晒してしまい……」

「い、いや、頭を上げてくれ。あいつらに聞いたらあなたが俺のことを助けてくれたんだろ? 恩人にそんなに頭を下げられたら立つ瀬が無くなるぜ」


 下着を見て平手打ちでもくらうかと思っていたのに、何故だか彼女は低頭平身、俺に謝り続けていた。俺としてはいいもんを見させてもらってお礼を言いたいくらいなのだが。


「ねえ、ムラマサ! みさをにはいっぱい色々としてもらったしさっ! せっかくだし剣の腕前でも見てあげたら? お礼にさっ!」

「お~! おねえナイスアイデア~! ねえムラマサ! みさをっちはなんと! アルカナ使いだったんだよ~! ムラマサもみさをっちの技見たいんじゃな~い?」


 ふたり共適当なこと言いやがって。別に剣の腕を見るのは構わんが、どう見てもみさをって子、どうしたらいいか分からんと目が泳いでるじゃねえかよ!

 あ~、くそっ! 本当にこのバカ双子はあ!

 しかしアルカナか。確かに見てみたい。どっちのアルカナだ? もしあっちなら……


「ええっと、みさをさん、でしたっけ? こんな俺でよかったら、お礼~と言っては恐縮ですけど、なにかアドバイスできることがあるかもしれません。よければみさをさんの剣を見せてもらってもよろしいですか?」


 う~ん、俺なんか変な言葉使いになってないか? こんな美人とサシで話すのなんて久しぶりだからなあ、澪は美人っちゃあ美人だが、ダメな部類の美人だからなあ。どうも女としては見れんのだが。でもこの子本当に綺麗だな。性格もよさそうだし……って何を考えてんだ俺は!?


「は、はい! ぜ、是非私の剣技を見ていただけますでしょうか! あの双子の保護者であるあなたに私を見定めてもらえるなら、喜んで私の全てを見せましょう!」

「あ、ああ、そうね、いや、そんなに畏まらないでね…… おじさん恐縮しちゃうから」

「そ、そんなことは! と、とても素敵だと思います! って何を言ってるんだ私は……」

「おお! みさをの押しが強い! いいぞ! その調子でガンガン押してけ!」

「やる~! ムラマサってば女子への免疫ないからね~。押せばイケるよ~!」

「おっ、おまえらあ! 何言ってやがる!? あ、すいませんね、このバカ共が色々とご迷惑おかけしちゃったでしょ?」

「い、いえ! と、とんでもないです! ふたりには沢山助けていただきました……」


 言葉尻の彼女の表情は何処か寂しさなのか、悲しさなのか、はたまた己の不甲斐なさなのか、なにか負の感情を抱いているように見えた。

 まあ大方の予想はつくが。

 ふう、とりあえずは彼女の剣技を見てみるか。それで何か分かるかもしれない。


 ということで俺たちは社宅の屋上へと向かうことにしたのだった。


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