第21話 偽装工作
「よ~っし! 完了~! もう大丈夫だよ~!」
「な、なにをしたんだ…… 君は一体……」
座に伏したまま呆然とするみさを。先程までの死闘が嘘のように、敵はまるで従順な犬のように椚に
「あ~、説明はあとでね。とりあえず今はこの後どうするか決めましょ? 私達はできれば先へ進みたいけどお。まあここはみさをたちの意見を尊重してあげる」
「で、できれば撤退したいわ。晶も重症を負った。このまま行ってもジリ貧だし」
そう、と楓は答え、今回の零肆ダンジョン攻略は道半ばで諦めることが決定した。
「まあしゃーないよね。私もなんか君たちに情が沸いちゃったし。晶は私のファン第壱号って言ってくれたしなあ。椚ちゃん、ムラマサには悪いけど偽装工作してから帰ろっか」
「だね、おねえ! 今用意する~!」
偽装工作? みさをが疑問に思うのと同時に、椚はエリミネイターに向けてもう一度右手を差し出す。
「おいで! かずきよ!」
エリミネイターに成り果ててしまった元探索者の名前を椚が発すると、なんということだろう、椚の右手にエリミネイターが渦を巻いて吸い込まれていった。
その場から消失した固有モンスター。理解不能な事柄が次から次へと起こる現状についていけないみさを。こんがらがる頭から振り絞った精一杯の一言――
「あなたたちは一体何者なの?」
みさをの問いに椚と楓の可愛らしい双子はこう答えた。
――うちらはダンジョンクリエイター! ムラマサの為に世界を変える!
ふたり肩を組み、みさをに向かってVサインをする。
呆気にとられるゴールドマインメンバー、ただひとり、目がハートマークになり、右手がないにも関わらず空を切る拍手をし続ける晶だけは例外だった。
「楓可愛いよお! 私は推す! 私は永遠に楓推しだおぉぉぉ!!」
◇
「あの、そ、それは一体なんなのかしら……」
椚と楓がなにやらしている。みさをはそれを見てまたもや困惑した。
「は? だからさっきも言ったでしょ? 偽装工作って。今固有モンスターのダミーを用意してるのよ。そんでそいつを燃やして、うちらが倒してVサイン~! ってかんじ?」
「い、いや、かんじ? って言われても……」
「いいから黙って見てなさいよね!」
椚が両手をかざし突如現れたモノ――
先程配下に加えられたエリミネイター…… のダミー。
見た目は全く同じだが、魂の入っていない肉人形。
「ねえ? 誰か炎系魔法使えるヤツいる? こいつを燃やしてほしいんだけど?」
楓の問いに岸は首を振る。
「すまない、このパーティで攻撃魔法を使えるのは俺だけだ。なのに今俺は魔力切れを起こしていて魔法が使えない。本当に申し訳ない。晶が手を失ったのは俺のせいだ……」
落ち込む岸へ容赦ない追撃の一言。
「ふんっ、役立たず。銀髪チビも使えないの? ホントこのパーティの男どもは役立たずね。ムラマサの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」
「だっ! 誰が銀髪チビだよ! お、お前だって身長そんなに変わんないだろ!?」
「私は女だからいいのよ」
泣き出しそうなアッシュと岸。うんうんと頷く
ひとり落ち着きを取り戻していたみさをは、双子を見つめ思慮に耽っていた。
(この異質な双子が度々口にするムラマサという人物。彼? 彼女? 性別は分からないけど、一体何者? きっとその人物がカギを握っている。そんな気がする)
「はあ、そんじゃ誰かライターかマッチ持ってない? もうそれでいいわよ」
「私の鞄に入ってる。好きに使ってくれ。楓ちゃん」
さんきゅっ! 晶に言われたとおり鞄を漁ると、中からオイルライターが出てきた。ライターに火をつけると、それをそのままエリミネイター(ダミー)に近づける。
「くそっ、中々燃えない! ちょっと! そこの大男! こいつに火がつくまでライター当ててて!」
「お、大男…… 俺には鉄心って名前があるんだがな。まあいい、わかった」
少女のお願いに渋々答える鉄心。黒部鉄心現在31歳既婚。彼には小さい子どもがいた。現在2歳の女の子。
鉄心は思った。将来娘がこんな風に育ったら嫌だなあ、鉄心は心の底からそう思うのだった。
◇
「よお~っし! 燃えた! 大分燃えた! 原型が分からないくらいに燃えたわ!」
「あ、あの、これからどうする気なの? こんなことをして……」
困惑するみさををよそに、楓は鉄心へ指示を出す。
「ええと、てっし、てっつん? なんだっけ?」
「
「ああ~、言いにくわね! テツでいいわ。テツ! ドローン準備!」
「ド、ドローン? なにをするんだ?」
「そんなもん決まってんでしょ!? 突然配信切れたのよ? 視聴者が不審がるでしょうがあ! だからこっからはお芝居! 強敵を倒したけど仲間も負傷しました! だから戻ります!ってことお!」
「な、なるほど……」
「ホント察しが悪いわね」
腕を組みプンスカプンスカしている楓。少し離れたところで晶と一緒にチョコレートを頬張っていた椚は、おねえを見て微笑む。
「おねえは口は悪いけどこれでも皆のこと気に入ってるんだからね~。だから晶っちのことも助けたしさ。まあもうちょいでダンジョンから出れるから皆がんばろお!」
「ちょっ!? 椚ちゃん! 余計なこと言わないでよお……」
顔を真っ赤に赤らめる楓。それを見てキュンとなる晶。
(ツンデレかよ。ああ! 神! 神降臨キタコレ!)
先程まで顔が真っ青だったのに、何故だか
「もお! 余計なこと言ってなくていいから! テツ! そろそろドローン準備!」
「わかった!」
ダンジョン脱出まであと少し。当初の予定とは違う結果にはなったが、最低限の仕事はした。これならきっとムラマサも褒めてくれるだろう。
楓と椚はそれぞれの武器を持ちこのダンジョン最後の仕事にとりかかった。
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