第22話 最低限の成果〈配信回〉
〈おい、配信止まって40分経ったぞ〉
〈やべえんじゃね?〉
〈未踏破ダンジョンだもんなあ。何が起こるかわからん〉
〈マジかよ、ワイく~ちゃん推し決めたばっかなのに!〉
〈は? 楓さんだろjk〉
〈おい! ぽまいらくだらないこと言ってないで配信見ろ!〉
〈映像戻った! キタコレ!〉
〈は? なんぞこれ?〉
◇
配信が再開される少し前――
「いいよ~、いつでも~」
「ちょっと! 早くしてよね! このポーズ腰にくるんだからあ!」
「あ、ああ、分かった……」
楓と椚が炭化したモンスターの亡骸の前でポーズをとっていた。
上体を90度近く曲げ、肩ひじを片膝に置きドローンに向かって精一杯の笑顔……
「テツ! いいわよ! 配信再開!」
「あ、ああ……」
◇
「はあ、はあ、手強かった、すっごく強かったね、椚ちゃん」
「うん、強かった~。味方に負傷者も出ちゃったし……」
「でもさっ! うちらはやった、やったんだよ!」
「だね! こんなに強い敵でも私達は倒したんだよ! やっぱおねえは凄いよ!」
「ううん、それは違うよ椚ちゃん、私が凄いんじゃない、ふたりだから凄いんだ」
「ふふっ、だね、おねえっ!」
「ふふっ、だよ、椚ちゃん!」
――そう! ふたりなら無敵! うちら最強シスターズ!
〈キター!!〉
〈最強最強最強!〉
〈てえてえwww〉
〈おまえら奇跡の瞬間に立ち会えてよかったな〉
〈みんな、今日は飲むぞ!〉
〈楓超尊い。あたしファン第壱号になる:340〉
〈てかあの消し炭になってんのってエリミネイターか?〉
〈すげえ! あれって須藤君が死んだ原因のモンスターだよな?〉
〈1級探索者の敵討ちじゃあ!!!〉
――インカムオフ
「す、すごいなコメントの数。皆配信止まっても待っててくれたのか? 同接7万!? し、信じられんな……」
「そうみたいだな。てかあのコメントはなんだ!? 楓ちゃんファン第壱号は私じゃあ!」
「落ち着けって晶。コメントいちいち気にしてもしょうがないだろ? そんでこれからどうするんだよ?」
アッシュの疑問にみさをが答える。
「それはさっき話したとおりよ。晶の負傷の治療を優先する為一旦帰還する旨を視聴者へ伝える。まあこの理由でとやかく言う奴はいないでしょう。その後一応ダンジョン課の恒例記者会見で今回の顛末の発表、といったところかな」
「ふ~ん、まあおおよそ分かったけどさ、あいつら見てみなよ? まだあのポーズとってるぜ? 凄いなあいつら。こんなかで一番プロ根性あるかも」
――だ、だな……
みさをの力ない返事に『お疲れ』と言葉を掛けるゴールドマインのメンバー達。
かくして零肆ダンジョン攻略は、当初の予定とは大分変わり、道半ばではあるが、なんとかひとりの死者も出すことなく終了したのだった。
◇
「皆お疲れえ! 晶大丈夫かあ? 手を失ってしまったのは本当に残念だが、義手の手配はこちらでしておこう。代金もダンジョン課からださせるからなあ。今日はゆっくり休んでくれえ」
ダンジョンを出て最初に出迎えてくれたのはダンジョン局局長木島だった。
「局長、不甲斐ない結果に終わってしまって申し訳ありません。私達の至らなさでこのような結果になってしまい……」
「だからあ! 謝んなみさを! とりあえず最低限の戦果は挙げれたんだから! ねっ? おじい、そうでしょ?」
「ああ、そうだとも! もちろん1回で踏破できればそれに越したことはないがあ、今まで未踏破だったダンジョンが、そう簡単に踏破できるなんてはなから思っちゃいないさあ。おっと、そうだ、君たちさえよければこの後お疲れ会でもしようと思うんだけど、どうだい?」
「やった! おじい! 私また焼肉がいい! 椚ちゃんもそうだよね?」
「うん! 肉~! 肉がいい~!」
「楓ちゃんが行くなら私も行くぞ。手の痛みも全くないしな。楓ちゃんがくれた回復薬のおかげだな」
「え、僕も治療魔法とか色々やったんだけど……」
「すまん、俺はなんの役にも立てずに……」
「岸、誰も聞いてないぞ……」
「えっ? そ、そうか…… じゃあ、肉でも、食うか……」
皆で焼肉に行くことになった。
◇
「皆お疲れ様! 配信は大成功だあ! 最終的に同接7万までいったぞお! さあさあ! なんでもじゃんじゃん食ってくれえ!」
「私上カルビ20人前!」
「あっ! おねえズルい! じゃあ僕は特上カルビ20人前!」
「え、え、じゃ、じゃあ私は、超特上カルビを……」
――お前は水でも飲んどけ! この乳女があ!
涙目でテーブルに突っ伏す澪をよそに、みさをは双子のことを見つめていた。
彼女達の保護者だというムラマサのことが気になってしょうがない。その人物は今回の零肆ダンジョン攻略に参加すると言っていたのに、急遽来ることができなくなったと言っていた。一体どんな人物なのか。気になって気になってしょうがない。
「ちょっと、みさを! 食べてないじゃないの! 食べないと強くなれないわよ!」
「は、ははは、そうね。私ももっと食べないとね。君に少しでも近づけるように」
「みさをっち、うちらのことじ~っと見てたけど、やっぱ気になる~? うちらのこと~」
「それはまあ、気にならないと言えば嘘になるわね。こんな年端もいかない子どもたちがあんな尋常ではない力を私達に見せつけたんだもの。君らのことをもっと知りたくなったわ」
「ふ~ん、まあみさをとは『無い乳連合』を結成した仲だしなあ。あっ! せっかくだしこの後うちにおいでよ! うちらも紹介したい人がいるしさっ!」
「ほ、本当にいいの!? ええ! 是非伺わせてちょうだい!」
楓からの予想外の申し出に困惑しながらも心躍る。
彼女達の強さの一端をほんの少しでもいい。知りたい。きっとその鍵になる人物がそこにいる。みさをは胸を高鳴らせた。
「じゃあ楓ちゃんにも言われてしまったし、もうちょっとお肉を食べようかな! すみませ~ん! 超特上カルビ30人前追加、お願いしま~す!!」
笑顔で店員に叫ぶみさを。それを見て涙を流す澪。
「うわ~ん…… 私もお肉が食べたいんですがあぁぁぁぁぁぁぁ」
夜は段々と更けていくのだった。
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