第19話 慢心の代償
「ようやく出番が来たわね。眼も暖まってきた、こいつは私が倒す!」
虹色のレイピアを両手に1本ずつ握りしめ、エリミネイターの懐へ飛び込む
触れたものを消し炭と化すチートな両手が晶に襲い掛かる。
だが――
――
エリミネイターのハイタッチを屈んで避ける。そしてそのまま敵の股をすり抜け後ろへ回った。即座に振り向きレイピアを、突き刺す突き刺す突き刺す!
「くそっ! 全然ダメージ与えられてねえじゃねえか!」
エリミネイターは振り返り、再び晶に魔の手が忍び寄る。それをバックステップで回避、からの右斜め前45度へ移動、今度はエリミネイターの顔面目掛けてレイピアをついた。
だが――
「ミスリル製のレイピアだぞ! なんで傷ひとつついてないんだよ! 刺突性なら最強レベルの武器だぞ! 並大抵の金属なら簡単に貫けるのに!」
エリミネイターが被っていたフルフェイスヘルメットは晶の渾身の突きをものともせず、逆に晶の持っていたレイピアの1本を片手で受け止めた。
エリミネイターの手に触れたと同時に消失していくレイピア。
(あぁ! 完全に戦法を誤った! こいつは大剣で手首を落とさなければいけなかったんだ! こんな細もんじゃあダメージが通らない! だけど……)
敵の手に絶対触れずに手首を落とす腰の入った一撃を入れるのは、かなり骨が折れる。
どうする? どうすればいい? エリミネイターの攻撃を寸でのところで掻い潜りながら晶は考えた。
(そうだ! 隙がないなら作ればいい! もしくは――)
「みさを! 後ろに置いてあるツヴァイハンダーを私に投げてくれ! 岸! エリミネイターに拘束魔法!」
「わ、わかったわ!」
「拘束魔法だな、承知した! 顕現せよ――」
――
岸の呪文名詠唱とほぼ同時に、虚空から無数の鎖が出現する。その鎖はエリミネイターの四肢へ絡みつき両手足の自由を拘束した。
晶は持っていたミスリル製のレイピアを投げ捨て、みさをが放り投げたツヴァイハンダーを両手でキャッチ、即座にとる八相の構え。
(眼帯取ってから何秒経った? 100日は眼帯つけてたからまだしばらくは持つと思うが、このあとの探索を考えたらこれ以上ここで時間を割いてる余裕はない)
羽生石晶の
一度に見れる時間は2秒先の未来まで、1秒間の未来を見る為には10時間その眼を瞑っておかなければならなかった。
晶は今日眼帯をとるまでに約100日間眼帯を装着していた。つまり約240秒はこの眼の能力が発動できるのだが、ダンジョン探索はこの敵を倒したら終わりではない。
後々現れるであろう難敵のことを考えれば晶の考えも仕方のないこと。
「晶! もうすぐバフが切れる! もう一度お前に強化魔法を掛ける!」
「ああ! 頼む!」
――
岸から攻撃力増加バフを受けた晶は、ツヴァイハンダーを構えエリミネイターへ向け刀身を晒す。
狙うは手首、もしくは腕のどこかで切り落とせればいい。
全長2メートル近く、重量も10キロ近くはあるであろう魔鉄鋼製の長剣は相手に与えるダメージこそ大きいが、とくかく使い勝手が悪かった。だが武器の扱いに長けた晶はこの難物を難なく器用に使いこなす。
八相の構えからそのまま、ツヴァイハンダーを、剣の重量を利用し、エリミネイターの肘の辺りへ叩きこむ。刃の鋭さと遠心力、そしてバフにより強化された晶の身体は易々とエリミネイターの右手を切り落とすことに成功した。
「よしっ! 次はもう片方だ!」
「よくやった晶! 他のバフもかけてやるからな!」
岸はもう一度、今度は俊敏力強化のバフを掛けようと精神を統一。
そして晶に向けて手を伸ばし、呪文名を唱えようとした。
のだが――
――ブッ、は? な、なんだこれ……
突然岸はポツリと呟き、膝から崩れ落ちた。
岸がへたりこむのとほぼ同時に、エリミネイターを拘束していた鎖が霧が晴れるように消失する。
ツヴァイハンダーを構え直し、もう片方の脅威を本体から切り離そうとしていた晶は敵の前で完全な無防備状態になる。
この現状を引き起こした原因。それは――
――試作品の指輪
魔術書も詠唱も、呪文発動の反動さえもショートカットしてくれる、魔法を使う者にとって最高のアイテムは、メリットでもある呪文発動の反動吸収が、実はデメリットでもあった。
通常、魔法を使えばあとどれくらい、どの魔法を撃てるのか、感覚でわかるのだが、このアイテムを使用していたことで、体への負荷を感じられない状態になっていた。
それが仇となったのだ。つまり――
――岸は魔力切れを起こしてしまったのだ。
エリミネイターの眼前で完全に油断していた晶へ襲い掛かるエリミネイターの左手。
「ああ、くそっ、こんなことなら後のことなんか考えずにここで全力を出してりゃよかった。ああ! くそっ! くそっ!」
そしてもうひとつの誤算。それは――
ツヴァイハンダーを構えていた晶は片目をつぶったままだった。
――そしてエリミネイターの手が晶の右手にほんの少し、ほんの少しだけ触れた。
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