第18話 対エリミネイター戦その2
「な、なにを言ってるの!? じゅ、殉職した探索者? そ、そんなわけ……」
そんなわけない、そう言おうとした言葉をみさをは咄嗟のところで飲み込んだ。
今までにそう言った状況に出くわさなかっただけで、無いとは言い切れない。全てのモンスターの特性について把握していないみさをは、楓の言葉を完全に否定することができなかった。
「もうソイツは完全にモンスターになっちゃってる! だから
楓の叱咤を受け冷静さを取り戻すみさを。
なんで私は年下の子に尻を叩かれている? 率先してダンジョンを攻略するのは私の役目のはずなのに! 危険な役目を年端もいかない双子に任せっきりにして……
こんなことでは1級探索者の名折れ。他の1級探索者達へ申し訳が立たない。
彼女の自己批判はほんのコンマ数秒。ここから
そう決めたみさをは、ゴールドマインのメンバー達へ新たな指示を出した。
「すまない! 私のミスよ! 受け身は止め! ここからはこちらから攻撃に出る! 岸君! 炎系魔法! できるだけ強いのお願い!」
「しょ、承知した! だが本当にこの指輪で魔導書なし詠唱なしで魔法が撃てるのか?」
「ええ! 実戦投入に耐えうるのは実証済みとお墨付きをもらってるわ! お願い!」
「承知した!」
――ファイアストーム!
岸が呪文名を叫ぶと10メートルほど先に、突然炎の渦が出現した。轟轟と荒れ狂う赤い激流がエリミネイターに向かって降り注ぐ。
「ほ、本当に出た! す、凄いぞこれは! しかもいつも魔法を放った後に来る体への反動もほとんどない!」
「岸君! 反動が無い分魔力切れに気づきにくくなるらしいからこまめにバイタルチェックして!」
「了解! おおっ! モンスターは完全に炎に飲み込まれたな。これで決まればいいのだが」
「そうだといいんだけど…… あ、な、なにかがおかしいわ。炎が、段々と……」
――消えていく……
炎に包まれていたエリミネイターの姿が徐々に曝されていく。エリミネイターは両手を大きく広げ、バタバタと振り回していた。まるで炎に平手打ちを入れるかのように。
「ど、どうなってるの!? まるでヤツの手に触れた炎がかき消されていってるみたいよ!」
「みさを! あいつは恐らく手に触れたものを消し去ることができる! だから下半身を重点的に狙って! あとさっきも言ったけど絶対に手で触れられないでよ!」
少し離れたところから聞こえた楓からのアドバイスで即座に気持ちを切り替えたみさをは、大きく息を吸い込み、心の中で自らを鼓舞する。
(恐れるな。私ならできる。私にはその力がある!)
相棒のバスタードソードを両手で握り、下段に構えた。
みさをの傍らにはつい先程作りだした彼女と瓜二つの分身体。その分身体の両の手にも、本体が持つバスタードソードと全く同じものが握られていた。
左右対称に位置どったふたりの
――行くぞ!
バスタードソードを限りなく低く構えた姿勢そのまま、エリミネイターの両側から同時に切りかかる。対するエリミネイターは全く姿勢を崩さない。
「舐めてるの!? まあいいわ、両足はもらった!」
地面すれすれのところから敵の両足首を狙って放たれたふたつの斬撃は虚しくも空を切った。
剣が足に当たる直前、敵の予想だにしない動き――
なんとエリミネイターはその場から真上に跳躍したのだ。
対象に剣が当たらず態勢を崩すみさをと分身体。跳躍したエリミネイターは跳躍しながら大きく足を広げ、まるでチアダンスのスプリットジャンプのような恰好になった。
――アガッ
突然みさをを襲う衝撃。
剣が空を切り態勢が前のめりになったところに、エリミネイターの両足がふたりのみさをの顎に、まるでカウンターを決めるかのようにクリーンヒットしたのだった。
着地すると直ぐにみさをに向かって手を伸ばすエリミネイター。
(や、ヤバい、の、脳が揺られて…… 早く態勢を立て直さないと)
「みさを! 逃げろ! くそっ! 魔法を撃ちたくても今撃ったらみさをを巻き込んでしまう!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
岸の叫び声よりも先にエリミネイターに向かって走り出していた鉄心は、そのままエリミネイターの胸へ体当たりをかました。
190センチ、体重100キロ越えの巨体の肉弾特攻に一瞬たじろいだモンスター。だが鉄心の覚悟の体当たりは、虚しくも敵への有効打には至らない。すぐさまエリミネイターは標的を鉄心へと見定める。
体当たりで重心は前にある。バックステップで敵の攻撃を回避しようとした、だが前傾姿勢だった分ワンテンポ遅れた。大きく広げられたエリミネイターの両手が鉄心の両肩に添えられた。
「ぐおぉぉ!!」
鉄心の両肩を守っていた鋼鉄製の肩当てが、まるで気体になったかの如く塵芥へと変貌していく。
あったはずの肩当てが無くなったことで、瞬間エリミネイターの両手から鉄心は解放された。その隙をついて今度こそバックステップで後方へと命からがら逃げ下がる。
「大丈夫か!? 鉄心!」
「あ、あぁ、なんとかな、肩当てがあってよかった。あれがなかったらと思うとゾッとするぜ。しかしあんなバケモンどうすりゃいいんだ?」
「有難う、鉄心。あなたが助けてくれなかったら私も今頃ここにいないわ。しかし…… どうしたらいいのよ。幸か不幸か向こうから攻めてこないのは助かるけど」
膠着するこの場でひとり黙々と戦いの準備をしていた女。
常に装着していた眼帯は取り払われ、彼女は両の目で敵を見定めていた。片方は黒い瞳、もう片方、常に眼帯に覆われていた瞳は煌々と輝く紅い瞳。
「みさを! 準備ができた。ここからは私が行く」
「
「ああ、手がヤバいと分かっていればそれほど恐れることはないよ。手に触れさえしなければいいんだからな」
みさをにそう言うと晶は両手にそれぞれレイピアを握り、エリミネイターの元へと駆けていった。
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