第16話 第2波襲来!

「命を刈り取るって…… いや、確かにデスサイズは死神の鎌の象徴だけど……」


 椚が手に持つ大きな鎌。デスサイズと言いながらピンク色のカラーリング、柄の部分には可愛らしいヒラヒラのリボンがあしらわれていた。


 ――インカムオフ

「えへへ~。これムラマサにもらったんだ~! かっこいいでしょ!? 『ミートパペットショー』って名前なんだって~。あいつなんかしんないけど、収集癖があってさ、よく分かんないものいっぱい持ってんだよね~」

「あぁ、例の君らの保護者だよね? 一体どんな人なんだ…… 想像もつかないんだけど」

「ちょっと、みさをも椚ちゃんも油断しすぎ。第2波来たよ」


 楓の一言で場に緊張が走る。

 片付いたと思っていたモンスターの群れはあれで終わりではなかった。まだ続きがあったのだ。

 完全に中身の消失した亡霊騎士だった空の鎧をなぎ倒しながら、こちらへ向かって攻めてくるアンデッドの軍団――


 ――マミーの軍勢


 全身を包帯で巻かれた、死して尚生命に固執する亡者たち。

 気づけばマミーの軍団は後ろからも迫ってきていた。



〈おいおいやばいぞ! 完全に囲まれてる!〉

〈みんな逃げてぇぇぇぇぇwww〉

〈草生やすんじゃねえよ〉

〈よし、みさを、お前の出番だ:no8〉

〈よかったね8番ww〉

〈てかもうすでにパンチラの切り抜き動画上がってるやんけwww〉

〈てか同接すげえ! 最初10人だったのに今4万!?〉

〈パンチラ効果すげえwwww〉



「椚ちゃんは前の奴らお願い。私は後ろやる。みさを達はうちらが撃ち漏らしたヤツ頼むね」

「しょ、承知した! というか私達ももっと戦闘に参加したいのだが……」

「こんなんうちらふたりで十分だから。4人には後でやってもらわなきゃいけないことがあるからさ」

「え? やってもらいたいこと? よく分からないが、分かったわ! ここは君たちに任せる!」

「じゃっ、いっちょやったりますか! 椚ちゃん!」

「だねっ! こんな雑魚早く蹴散らしてムラマサにお土産持って帰らなくちゃ!」


 ふたりは互いに目配せして、モンスターの群れへ一気呵成に突撃する。

 何の小細工もなし、ただ闇雲に、ただ一直線に、一見すれば無謀かとも思えるその特攻を視聴者は固唾を飲んで見守っていた。



〈なんか知らんがふたりならなんとかなりそうな悪寒ww〉

〈いけえ!! できたらパンチラもう一回www〉

〈みさをぉぉ! なにしてる!? 何故お前はいかない!?:no8〉

〈いい加減うざいwwww〉



 コメントのAI音声をインカムで聞きながら微笑む楓。彼女は如何にえる自分を視聴者に見せるか考えていた。だが先程の椚の天然あざと可愛さを見せられて、自分の最適な立ち回り方をもう一度見つめなおした。


(椚ちゃんに可愛さで負けてるなんて思わないけど、あの子は本当に性格も素直だし多分全部素でやってる。そんなこと私にはできない。なら答えはひとつ。私はありのままの私を視聴者共に見せつける!)


 開き直った後の楓は凄まじかった。両手に握られた異国の武器は、つい先程の戦闘よりもさらに禍々しい光を放ち、亡者の群れを悉く駆逐していく。

 戦略も何も関係ない。とにかく押し寄せるモンスターの大群を両の手で撫でていく。撫でられたモンスター達には例外なく2度目の死が与えられた。


「死ね! 死ね死ね死ね! 死んじまえ! ひゃっは~! 私が与えてあげる! 2度目の死を与えてあげるんだからあ!」



〈あ、ヤベ、あの子完全に目が逝っちゃってるwww〉

〈楓ちゃんなんて呼んだらあかんぞみんな! ちゃんとさんつけろよデコ助どもww〉

〈楓さんすげえっすwww〉

〈楓△〉

〈でもマジ凄いぞあの子。なんであんだけ接近してて攻撃喰らってないんだよ?〉

〈悪魔皇子系だからなwww〉



 時間にしてほんの数分。先程まで生者を蝕もうと大挙してきたマミー達はたったひとりの少女によって、完全な死を与えられていた。


「椚ちゃ~ん、こっちは終わったよ~! そっちは~?」

「おねえ早っ! こっちももうちょっと~!」


 そう答えながらデスサイズを振り回す椚は、笑顔でドローンの画角を気にしながら戦っていた。時折お尻をドローンの方へ突き出して視聴者へのサービスも忘れない。

 ただ視聴者は知らない。彼が男だということを……



〈世界一可愛いよ! 椚ちゃん!〉

〈やべえwたまらんwwこれからあの子のことく~ちゃんって呼ぶww〉

〈いいなwく~ちゃん呼びww俺も使わせてもらうわwww〉

〈俺もそう呼ぼうと思ってたとこww〉

〈俺もだwwお前とはいい酒が飲めそうだwww〉

〈おい! ぽまえら今チラリしたぞ! 見逃すなよ一瞬の奇跡を!〉

〈キモ杉ワロタ〉



 マミーのふたつの大群、前と後ろで明らかに違う景色。

 後ろの軍勢を相手していた楓は前回の戦闘と同じように、マミーの体液で全身がドロドロ。彼女のゴスロリ衣装は先程までの青と黒のツートンカラーから、今度はマミーの体液色である橙色と黒色のツートンカラーに変貌していた。そして傍らには高く積まれたマミーの残骸。

 一方前方の軍勢を相手していた椚は一糸乱れぬ呼吸と服装、あざと可愛いポーズを崩さずドローンに向かってVサイン。相手していたマミーは直立不動で微動だにしない。正に立ったまま死んでる! 状態。

 だが2度目のモンスター襲来を軽くいなした椚は、周辺への警戒を怠ってはいなかった。


(あ、あれ? なんか違和感を感じる…… なんだろこれ?)


 そしてその異変に直ぐに気づいたもうひとり。


 ――楓がみさをに向かって言葉を放った。


 ――インカムオフ

「みさを! うちらの本命がいる! 今からうちらはやることがあるからドローンの配信止めて!」

「は!? な、なにをするつもり!? 説明してちょうだい!」

「いいから~! おねえの言うとおりにしてあげてみさをっち~!」


 わけも分からず、言われるがままにドローンへ配信停止を命令するみさを。

 ドローンから電源の光が消失し、フワフワと空中を彷徨うただのオブジェクトへとなり下がった。


「よしっ! じゃあ椚ちゃん行くよ! こっからが本番だからね!」

「だねっ! おねえ! ムラマサの為に一肌脱いじゃおう!」


 ふたりが見つめる先になにかがあった。

 彼女達は不敵な笑みを崩さないまま仁王立ちで、その何かを待ち構えるのだった。



 

    ◇◇◇◇



 ※5月1日、椚の武器の名称を変更しました




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