第15話 対照的なふたり〈配信回〉
〈すんごいなあの子、楓だっけ? めっちゃ笑顔で殺しまくってたぞ〉
〈あんなに可愛いのにな。可愛さが逆に怖さを増幅させてるわ〉
〈あんな子になら殺されてもいいwww〉
〈ワロタ〉
〈早速切り抜き動画あがってんな。タイトルは~〉
〈悪魔皇子系ゴスロリ少女の殺戮動画だってよwww〉
〈ワロス〉
〈でも同接めっちゃ伸びとるやんけ! 今8千!〉
インカムに流れるAI音声を聞き、プルプルと身を震わせる楓。
彼女は思った。違う、こんなはずじゃなかった、もっと可愛さを前面にアピールして『可愛いのになんかこの子強くない?』的なムーブをかましたかったのに、結果は予想を大きく外していた。
「か、楓ちゃん? 大丈夫? さっきの戦闘で何処か痛めたの? 顔が物凄く真顔になってるけど……」
「みさをっち~! おねえは自分の予想通りに事が進まなかった現実に今打ちひしがれてるんだよ~。次からは僕が前に出るから、みさをっちはおねえを慰めといてあげてよ」
エントランスを抜け、いよいよ回廊へと進入した。
ここはどうやらロの字の回廊で、通路が若干下り坂になっている様子。進めば進むほど下層へと降りていく。前回このダンジョンに挑んた探索チームは、回廊の道中でメンバーが重傷を負い、途中で引き返したらしい。その時重傷者1名、殉職者1名。
「この通路だいぶ広いね~。通路幅10メートルはあるんじゃない? あ、なんか死臭がする。多分アンデットがでるねこれは」
「え、ええ、確かに先遣隊の報告では、この先でアンデットに遭遇したとあったわ。いや、しかし椚ちゃん、君はよく分かったわね。私にはまだそんな臭いは全く感じられないけど」
「僕はできる子だからね~。じゃあ先に進むよ~。久々に僕の相棒が火を噴く時がきた~!」
彼の手にいつの間にか握られていた何か。
〈なんぞあれ!? でっかww〉
〈あれデスサイズやろ? なんであんなチビッ子があんなん持ってんだよww〉
〈またみさをはなにもせんのか?:no8〉
〈みさをっちマニアうぜえwww〉
「みんな~? 元気~? 僕は
ドローンの前で可愛くポーズをとり、そう宣言する椚。
極端な内股でその場でピョンピョン跳ねてみせる。そしてドローンに向かってVサイン。
〈かわよ!〉
〈ロリっ娘キタコレ!〉
〈あ、今チラッと楓ちゃんも映った! めっちゃ真顔www〉
〈ワロリンヌww〉
〈みさをに代われ! あいつは1級探索者だぞ!:no8〉
〈8番さん帰ってどうぞwww〉
「あ、そろそろ来るよ~! 多分あれ亡霊騎士だね。ま~たご丁寧に大群でいらしたみたい~。まあそんなの僕には関係ないけどね~!」
言葉を発し終えるや否や突撃していく椚。まだ彼が向かう先にはなにもいない。
しかし20メートル程進んだ頃、通路脇にあった複数の扉から無数の鎧を身にまとった騎士の亡骸達が、椚目がけて押し寄せてきた。
〈うおっ! あれ亡霊騎士やんけ〉
〈アンデットキタコレ! てか数ヤバくね?〉
〈ま~た大群? なんなん零肆ww〉
〈椚ちゃん逃げて~! ひとりじゃ無謀杉内~!〉
〈ふんっ! ダンジョンを甘く見ているからだ! 今すぐみさをと代われ!:no8〉
〈だから8番うざいってwww〉
〈てかあの子ヤバくね? 完全に亡霊騎士の集団に取り込まれちゃったんだけど〉
〈グロ映像ありがとうございますww〉
〈不謹慎厨カエレ〉
押し寄せるアンデットの大群に飲まれ、椚の姿が見えない。
アンデット達は椚が立っていたところへ続々と集結していく。
「ちょ、ちょっと! 椚ちゃん見えなくなったわよ!? ねえ、本当にあの子に任せておいて大丈夫なの!?」
「は? あんなので椚ちゃんがやられるわけないじゃん。それより! 今は私をどうやって可愛く見せるか考えて! ほらっ! そこの4人も! 一緒に考えて!」
「『えぇぇぇぇぇぇ』」
よほど先程の撮れ高が気に入らなかったのか。だが可愛いダンジョン探索者ならまあまあの数がいる。女子高生探索者のゆいにゃん、百合カップル配信者シロクロ、全身をホログラム隠した正体不明のDeチューバ―華ケ前〈はながさき〉みよん、皆可愛いがそこまで
あれだけの可愛さで、しかも強く、何処か天然も入ったキャラはそうそういない。
そう、彼女、『竜が崎楓』は唯一無二だ。
「あたしは楓を押す。決めた。楓ファン第壱号だ」
「は!? あなた何言ってるの? 急にどうしたのよ?」
みさをが困惑顔で彼女を見つめる。
そんなみさをを気にすることなく、腰に手を当て高らかに宣言したひとりの女性。
彼女の名は
「ふふっ、ありがと。でも、そんなことより、ほら、そろそろ全部倒し終わったみたいよ?」
「え、亡霊騎士はまだ立ったままだけど……」
亡霊騎士の集団をよくよく見てみると、先程までと今では明らかに違うことがあった。それは――
――亡霊騎士が突っ立ったまま微動だにしていない
「よ~っし! 終わり~っと!」
亡霊騎士の集団の中心から突如上空に飛び上がるひとつの人影。
それはデスサイズを構え両手を上に挙げた椚だった。
〈な、なにが起きた!?〉
〈生きてた! よかった! てか今おぱんちゅ見えた!〉
〈パンツ祭りやああwwww〉
〈ピンクのおぱんつ祭りwwww〉
〈てかあのアンデットの群れどうなってんの? 全く動かないぞ?〉
――インカムオフ
「おまたへ~! どう? 可愛く撮れてた? ちょっとパンチラしちゃった〜?」
「うん、さすが椚ちゃん。ほんの少し可愛いレースが見えちゃってたね。まああれくらいならチャンネルBANされないでしょ?」
「お、お、おい! 椚、今何をした!? なんであいつらは動きを止めたんだ?」
状況を理解できない
椚は得意げに彼女を見上げると、アンデット達がああなった理由を明かす。
「ふふんっ! あれはね〜、僕の力、そしてこの武器の力なんだよ~ん」
「は!? そのデスサイズの力!?」
「そうで~す! この子はね~、なんとっ!――」
――命を刈り取ることができる武器なのだ~!
自信満々に応える椚。
(まあ椚ちゃんのはそれだけじゃないんだけどね。あの子の力の根源はそんなとこじゃない。もっと深いところにあるのよ。それにしてもみんな油断しすぎ)
アンデットの大群をいとも容易く殲滅させた油断からか、彼らのすぐ後ろにはモンスター第二陣が近づいてきていることにまだ気づいてはいなかった。
ただひとり、双子の片割れを除いて。
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