第13話 フリフリドレスとゴスロリファッション

 本日日時は2月5日。零肆ダンジョン攻略当日。

 場所は岐阜県T市某所のダンジョン近くに設置されたダンジョン攻略対策本部――


「ダメだったね~、ムラマサ。アヘアヘは言わなくなったけど、とてもじゃないけど連れてこられるような状態じゃなかったよ~」

「やっぱ叩きが足りなかったのかしら? 乳女なんてすぐに叩くの止めてたし」

「え、いや、だってムラマサさん相当顔腫れあがってましたよ…… それに手も限界でしたし」

「おじい~! なんでおじいは来てくれなかったのさ~! おじいの力ならムラマサも正気に戻ったかもしれないのにぃ!」

「すまないねえ、椚ちゃん。おじさん飲み過ぎて寝てたよお。まあふたりとゴールドマインがいれば未踏破ダンジョンも大丈夫でしょ?」


 ――まあね。ふたりがいたら最強だし!


 椚の自信満々の最強宣言を傍目で見ながら肩を落とす女性がひとり。


「あの、ふたりの保護者という方は~、いらっしゃらないんですか?」

「ああ、すまんね、みさを君。ヤツはしばらく無理みたいなんだよねえ。まあ君がしっかり手綱を握っていてくれれば大丈夫だからあ」


 ――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……


 海よりも深いため息をつき、4人の戦友を見渡す。4人ともが椚と楓の頭を撫でたりお菓子をあげたりしている。その姿を見てさらに出る大きなため息……

 ああ、大丈夫なのだろうか。こんな調子で。

 私がしっかりしないと! 両頬を思いきり叩き気合を入れるみさを。ダンジョン突入の時間は刻一刻と迫っていた。



    ◇



「ねえおねえ、あの異世界人たち大丈夫かなあ? 一応澪が来た時は押し入れに隠しといたからバレなかったけどさあ。ちゃんと大人しくしてるかなあ?」

「まあ大丈夫なんじゃない? ひとり部屋に戻ってこないヤツがいたみたいだけど、残りのふたりはなんか常識ありそうなかんじだったしさ。考えても仕方ないって」

「そだよねえ。とりあえず僕らはダンジョン踏破と、あとアレだね~。アレだけはしっかりしないとね~」

「頼んだわよ、椚ちゃん。ムラマサのお願いを叶える為には君の力が重要な鍵なんだからね!」


 ムラマサに何か言付けされているのか、彼女達にはダンジョン踏破以外にもなにか重要な任務があるようだった。


「ええと、皆準備はいいかしら?」


 みさをがゴールドマインメンバーと楓&椚に注目を促す。


「さっきも説明したけどスマートウォッチはちゃんとつけてるわね? それで魔力量とかのバイタルとか、ダンジョンのマップ、あとは登録済みモンスターの情報とか、あとそうね、配信コメントとか、ホログラムウィンドウで色々見れるからね。それとさっき渡した指輪、これ物凄く貴重な装備だから、無くさないように気を付けて。ひとつ3千万くらいするらしいから」

「は? 3千、万!? それチョコレート何個分!?」

「おねえ、これ売ったら一生お菓子食べ放題だよ~! やったね~!」

「いや、ダメだからね。これはスキルや魔法使用時の手間と反動を軽減してくれるアイテムなの。SOS社が新しく開発したダンジョン用補助装置の試作品らしいんだけど、普通、魔法を撃つときって反動で体に物凄い負荷がかかってたわよね? その負荷をこの指輪が吸収してくれるらしいの。あとこっちの機能が特にすごいのだけど、魔法を魔術書と詠唱なしで撃つことができるらしいの。とりあえず今回のダンジョン攻略で初めて試験投入されるのよ。いわゆるベータテストってとこかしら。だから大事に使ってね」


 ダンジョン発生後ダンジョン内から様々な希少品が発見されるようになったのだが、中でも特に世間を騒がせたのが魔術書だった。

 魔術書と血の契約を果たし、その魔術書に記された祝詞を詠唱することで、魔術書に秘められた奇跡の力を行使することが可能になったのだ。

 だがこの魔法にも欠点があった。それは魔術書を携帯が必須だということ。1冊でかなりの重さのある魔術書は、そう何冊も携帯しておけるものではない。苛酷なダンジョン探索で携帯できる荷物には限りがある。

 つまりこの指輪はそういった負担を大幅に軽減することが可能な、画期的なアイテムなのだ。まあ今のところ値段が高すぎてそうそう手に入れられるものではないのだが、廉価版が出ればきっと探索者の中で爆発的に増えることは想像に難くなかった。


 だが指輪を掌に乗せそれを見つめる楓にとって、このアイテムはどうやらそこまで気になる代物ではなかったらしい。


「スキルの反動? 今までそんなの感じたことないけど…… まあいいや。もらえるものはもらっておこっか。ねっ、椚ちゃん!」

「だね~! おねえ!」


 とっても貴重なアイテムなのに…… 余りにも素っ頓狂な反応を見せる双子に肩を落とすみさを。だがそれよりもみさをが気にしていたのはふたりの――


 ――服装だった。


「あのね、今からダンジョン潜るってことは、もちろん分かってるわよね? これが遊びじゃないってことも分かってるわよね?」

「ん? もちろん分かってるわよ。なに? あ、もしかして私たちの今日のコーデに見とれちゃってたかんじ? ふふっ、可愛いでしょ?」

「ふふ~ん! 僕はピンクのフリフリロリータドレスでえ、おねえは白と黒を基調としたゴスロリ皇子系ファッションだよ~。おねえはパンツが見えちゃうのが恥ずかしいっていうからあ、ショートパンツにしたんだ~」

「椚ちゃんいいの? そんなフリフリスカート履いてたら絶対パンツが配信に映っちゃうよ?」

「いいのいいの! それくらいしたほうが視聴者さん喜ぶでしょ~?」

「確かに! さっすが椚ちゃん! 抜かりないわね!」

「あ、あぁ、そ、そうだね、うん、喜ぶね……」


 もう何も言うまい。みさをは心に誓った。


「あっ、そうだ、大事なこと聞くの忘れてた。このダンジョンて固有モンスターっているの?」


 ――固有モンスター


 それは数あるダンジョンの中でそこにしかいない希少なモンスターのことを指す。

大抵そういったレアなモンスターは、貴重なドロップアイテムや有用なスキルを持っているのだ。


「え? えぇ、いるわよ。とりあえず確認できているだけで2種いるわ。1体はエリミネイター。もう1体はファイブサテライトスライムというモンスターね。どちらもドローンでルーズ撮影されただけで、詳しい情報は不明、尚且つ未だ討伐した探索者はいないわ」

「よしっ! やった! 椚ちゃん頼んだよ!」

「任せといて~! おねえ!」

「え? な、なに? なにを頼まれたの?」

「いいのいいの! みさをっちは気にしなくて!」


 よくわからないふたりのやり取りに困惑するみさを。それを知ってか知らずか、今まで押し黙っていた局長こと木島正平が口を開いた。


「ええと、今日は一応生配信という形でダンジョン攻略をしてくよお。そんでチャンネルはダンジョン2課の公式チャンネルで配信する。配信する媒体はDeチューブねえ。分かってると思うけど、楓ちゃんと椚ちゃんはきちんとキャラ作ってねえ。可愛く! 可愛くねえ!」

「分かってるわよおじい。うちらはやるときゃやるんだから! ねっ、椚ちゃん!」

「だよね~! 僕らの可愛さを思いっきり見せつけてやる! ほんの少しならパンチラもオッケーだよ~!」

「うんうん、でもあんまり過激なのはダメだからねえ。チャンネル凍結されちゃったらおじさん上の人に怒られちゃうからねえ」

「はあ、局長、そろそろ時間です。ダンジョン前へ向かいましょう」

「そだねえ。じゃっ、みんな、検討を祈るよお!」


 溜息をつきながらも気持ちを切り替えダンジョンの方角を見つめるみさを。

 私ががんばらねば! 彼女は何時にも増して気負っていた。だが彼女はまだ知らなかった。

 双子の少年少女の、本当の恐ろしさを……


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