第11話 完全にアヘってます

 ――アガッ、アガッ、アガッ、アガッ、アガッ…………


「おい! ムラマサ! しっかりしろ! ついたぞ! ていうかここはお主の世界なんじゃろ!? そのお主がそんな体たらくでどうする!? おい!」

「アヘ、アヘ、アヘ……」

「だ、ダメじゃ、こやつ完全におかしくなっとる……」


 異世界から戻っていたムラマサ一行。無事にムラマサが住む社宅へ戻ったはいいが、どう見てもムラマサの様子がおかしかった。完全に錯乱状態、というかアヘっていた。


「これがムラマサが言うとった精神異常ってヤツか? 確かこの、なんて書いてあるかよく分からん紙を見せろと言うておったが、いくら見せてもダメではないか! ていうか紙の方を全く見ようとせん! どうすりゃいいんじゃ!?」

「ミズマリス、とりあえずここがどんなところか皆目見当もつかないわ。私は外を少し偵察してくるから、あなたはこの子を見ていてあげて。それと、ノイエリタン、あなたはくれぐれも外へ出ないでちょうだい。向こうで異質なあなたはきっとこちらの世界でも異質なはず。もし万が一外にフルプレイトアーマーの人間がうようよいたら呼びに来るわ」

「ふんっ、勝手にしろ。私はムラマサのそばから離れるつもりはない」


(はあ、なんでこんなことになっちゃったの? でも、私がしっかりしないと。ミズマリスは世間知らずだし、ノイエリタンに至っては私達の世界でも他人との意思の疎通が難しかった。こんな異世界だったらなおらさだ。絶対にあいつだけは外に出させてはダメよ、頑張れ! 私!)


 3人の中で一番まとも? だと自負するライラは、とりあえず今いる部屋を出て、外の様子を見に行くことにした。



    ◇



「ふあぁぁぁ、よく寝た。あれ? ここどこだっけ?」

「おねえ昨日澪のお酒間違えて飲んじゃって、ばたんきゅーしちゃったんだよ? 覚えてない?」

「あ、あ~、なんか朧げに覚えてるかも。あっ、そんで乳女の家に連れてこられたんだ……」

「それよりさ、おねえ、周り見てみなよ。すんごいから」


 ――は? 周り? な、なんだこれ……


 椚に言われ周りを見渡すとそこにあるのは一面ゴミ、ゴミ、ゴミ……

 まあまあ広そうな一室に、溢れんばかりのゴミがそこかしこに放置されていた。そして壁際には大量の下着の洗濯物。何枚干してあるのだろうか。下着屋が開けそうなくらいの数のブラジャーとパンツが大量にエアコンの風に揺られている。


「ちょ、ちょっと、椚ちゃん、なんなのこの部屋は!? 私も別に綺麗好きってわけじゃないけど、いくらなんでもひどすぎるでしょ!?」

「だよね~。やっぱ澪はポンコツだよ~。そのゴミの山の向こう側見てみなよ?」

「え? なに? なにがあるのよ?」


 恐る恐るうずたかく積まれたゴミの隙間から向こう側を見てみると、そこにあったのは……


「マ、マジかよ…… この乳女、ゴミに埋もれてイビキかいて寝てやがる……」


 三鬼島澪26歳(独身絶賛彼氏募集中)はカアカアと寝息をたて深い眠りについているようだ。何故かパジャマの代わりに着ぐるみのようなツナギを着て寝ている。


「おねえ、やっぱ澪は人としてアレだね。乳に全部栄養持ってかれちゃったんだよ。なんか少し可哀相になってきちゃったから、このまま寝かしといてあげようよ~」

「う、うん、そうね。こいつも乳の犠牲者なのかもしれない。乳がなかったらもっと賢く生きれたかもしれないもんね。これからはもう少し優しくしてあげよう。椚ちゃん、とりあえずこいつはこのまま放置しておいてうちへ帰ろう」


 時刻は午前10時頃。とりあえずふたりは三鬼島澪をそのまま放置し、我が家へ一旦帰宅することを決めた。



    ◇



「ななな、なんなのよこの世界は!? 四角くて白い建造物に、なんか鉄の物体がそこら中にいるし…… モンスターではないみたいだけど、うわっ!? ぶつかる!」


 ムラマサの社宅から出たライラはこの世界の情報収集の為、精霊化した状態で外を探索していた。その道すがら車道を歩いていたので、走ってきた車に轢かれそうになったのだ。まあ精霊化している時は実体が希薄になっているので、当たったところでどうってことはないのだが。


「そもそもムラマサに私達が何のためにこの世界に連れてきたのか、なんにも教えてもらってなかった…… うーん、とにかくあの子を知っている人に助けを求めて、あの子をなんとかしてもらわないと」


 よくよく考えれば右も左も分からない異世界で、知り合いはムラマサしかいない。そんな状況で自分はひとりで外に出て、何をやっているんだろう、自らの浅慮を一瞬恥じたライラだったが、直ぐに好機は訪れた。


「あれ? この匂いは……」


 ――ムラマサの匂い!


 ライラが見つけたのはふたりの子ども。

 見るからに害はなさそうなふたりだが、この世界がどんなところか全く知らないライラは、意を決してふたりに声を掛けることを決意したのだった。

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